2021年6月26日(土)『馬子にも衣裳と呼ばれるのは似合う子だけ』
今日は白石くんのファッションセンス矯正日だった。
それでいて我が愚弟と白石くんを会わせる日でもある。
昔は伝説の不良と呼ばれた愚弟の噂を聞くだけで怯えていたが、さすがにこの年になってまで怯えることはないだろうと勘繰っていた。
この考えは非常に甘かったのである。
私が先にいて、我が愚弟と亜美ちゃん、白石くんの順で合流した。白石くんが合流した際、こちらを見た時に固まっていた。どうも愚弟の姿を見て固まったらしい。愚弟の恰好自体はジーンズにポロシャツという面白味のない恰好であったが、その中身が背も高くガタイもいい短髪の男。顔もいかつく、カタギと言い張るならマル暴と呼ばれる刑事の若手ぐらいのいかつさはある。
その横に亜美ちゃんという可愛らしい女の子がいればカキタレっぽさもでてしまう。
白石くんが固まってしまうのも頷ける。けれど白石くんはそんな愚弟のファッション指導を受けなければならないので、固まっている白石くんを引っ張り二人の前に連れて行く。
白石くんに、二人は私の弟とその彼女であることを伝えると少しは凝り固まり震えた態度も、軟化し落ち着いた。けれど緊張は残るようで、オドオドとした態度は崩さなかった。
けれど冗談を言えるぐらいにはなっていたようで「君たちの周囲に人が距離を取っててヤバい人たちかと思った」と笑った。
「愚弟の顔がいかついせいだ」と馬鹿にしてやろうと思ったら、愚弟が私の目つきが怖いせいでヤクザの姐さんだと思われたのだろう、と先手を打たれた。蹴りを入れてやった。
そんなこんなで打ち解けたところで愚弟に白石くんのファッションをどうにかするように言付けして、一旦男女で分かれることになった。待ち合わせは一時間後、この場所でとなった。
白石くんは愚弟に引っ張られて街中へと消えていく。
その後ろ姿は、ウドの大木と柳の木が並んでいるようだった。
女性二人組は何をして時間を潰すかというとカフェで優雅にお茶をすることになった。
話題は白石くんについてである。
白石くんを恋人として親に紹介してお見合いを避けるという悪巧みについてである。
これについて亜美ちゃんは渋い反応を見せた。
「私個人としてはお二人の相性は悪いとは言い切れないのですが……その……背後の方を見ているとあまり芳しくはないというか……」
つまるところ私の守護霊である女傑と白石くんの守護霊の相性が良くないという。白石くんの守護霊は隠者のような俗世離れした人であり、相性を補完し合う関係にもなれば、反発し合う関係にもなる関係だという。
ちなみに先日紹介してもらった彼の守護霊と私の守護霊は、イケイケドンドン的な相性らしくゴーマイウェイ的な人生を送れる相性らしい。こちらもこちらでブレーキがないため、落ちるときはどん底まで落ちる危険性はあるらしい。
歯切れが悪い返答であったのでどうするべきか悩み「未来予知とかできないの?」とか聞いてみた。
「そんなことできたら株で大儲けしてますよ」
そう苦笑して返された。
それから昨今投資話が身近になってきたね、とかいう会話をしているうちに一時間が経過した。
待ち合わせ場所に戻ってみると、すでに白石くんたちは戻っていた。
白石くんはダボっとしたシャツに細身のジーンズ姿に着替えていた。そこはかとなくお洒落で、お洒落過ぎない恰好になっていた。その格好を褒め称えると、愚弟チョイスらしい。
愚弟に「似たような格好しないの?」と訊いてみると「俺のサイズだとヒップホップ系になっちまう」と肩を落とした。
どうやら我が愚弟が好きなファッションの方向性はこちらだったらしい。
マル暴に細身ファッションとか、似合わないにもほどがある。
ひとしきり笑い転げたあと、好きなファッションに振られた我が愚弟を元気づけるため、その日の夕食は私が奢ってやることになった。




