2021年5月18日(火)『断れない誘い』
なかなか消えない筋肉痛を痛み止めで騙し騙し仕事を終えた後のこと。
アシスタント修行から帰ってきた菜々緒ちゃんがハンバーガーのセットをテイクアウトしてくれて、それを夕食としてしていた時の出来事だ。ダイエットするという宣言のあとに高カロリーなものを買ってきてくれるあたり間が悪いが、それはそれとしてポテトが美味しいので許そう。そう考えていた時に切り出された。
「姐さん、先生にもう一度会ってくれませんか?」
先生と言われてもピンと来なかった。そこで足りない想像力をフルに働かせて、マルチや宗教の偉い人かと勘違いして、一悶着あったのだがそれは割愛する。
菜々緒ちゃんの言う先生とは、アシスタント先の先生で同級生だった白石くんのことだった。
しかし、何故という疑問が浮かぶ。
つい食事を断ってしまったが、互いに三十になる年でそんなことでショックを受ける訳はないだろう。いや、普通はショックを受けるのかもしれないが、私のような女傑が守護霊についているという新手の詰りにも受け取れる女から断られたぐらいでショックを受けるはずがない。むしろ、断られるわけがないと踏んで断られたからショックを受けたのかもしれない。そっちの方が納得できてしまう自分が悲しい。
「どうして?」と問い掛けると、菜々緒ちゃんは息を吐き覚悟を決めた目をした。
それから会う理由を聞くと、菜々緒ちゃんにとっては切実な理由があったようだ。
あの日、私が断ってしまって以来、彼は落ち込んでいるらしい。その落ち込みようは見ていて可哀想に感じるぐらいには痛々しいものらしい。そこで担当編集からどうにか食事の機会を設けられないかと相談があったらしい。
菜々緒ちゃんからすれば断れない相談だ。
お世話になっている方が困っているからその助けになって欲しいと情に訴えているし、そもそも菜々緒ちゃんは高校一年生の年だ。大人のお願いを断るほど神経が図太くできていない。
私や愚弟とは違ってまともなのだ。
可愛い妹分の頼みは断れないので、了承した。
同窓会と考えれば、まあそう避けるものでもない。普通に古い友人と会う機会だと考えれば少し楽しみなところである。
コロナ下だと友人に会うのさえ咎められる気がするから、こういう機会を大事にしよう。間違っても反射的に断り文句を口にする癖は治そう。




