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29歳独身OL小夜子の語り部日記  作者: 酒井伴四郎氏にはなりたくない女:小夜子


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2021年5月8日(土)『サッチー』

 今日は特になにもせずに終わった一日だった。


 熱は下がり、来週には仕事に復帰できる。


 午前中に一時帰宅する菜々緒ちゃんが顔を出し、簡単な挨拶を済ませて分かれたあと、特になにかする気にもなれず、またベッドに横になった。


 おかげさまで十一連休だ。


 コロナでどこにも行けず、みんなの世話を焼き、熱を出して寝込み、今日を含めた残り二日は来週に備えて英気を養うのに使うゴールデンウィークだった。


 日記に残すことがない一日だった。


 テレビとYouTubeばかりみていたので、またコロナが増えたぐらいしか私は知らない。


 二週間後の潜伏期間が明けたら二千人になりそうなぐらいしか知らない。


 緊急事態宣言が延長して、ゴールデンウィーク明けてランチ難民が発生したぐらいしか知らない。


 ゴールデンウィークを明けた世について知らないことばかりだ。


 無知であることを自覚することが大事だと、かの有名な哲学者ソクラテスも言っている。


 彼は「いかに生きるべきか」「よりよく生きること」を問い続け、自身が無知であることを気づき、自分と向き合い真の知に近づこうとした。


 それだけ聞けば「なんて偉大な方なんだ!」と思うかもしれない。けれど、彼は他人の無知を暴きに暴きまくったせいで、無実の罪で告訴され、死刑判決が下った。


 そんな彼と同類ともいえる七賢人は「汝自身を知れ」という碑文を奉納したと言われている。一説によると「無知の知」と同義だと言われているが、私にはこれが「身の程を知れ」という真の知であると思えてならなかった。


 また、ソクラテスには世界三大悪妻と呼ばれる妻がいた。


 名をクサンティッペと呼ぶ。


 薄給の夫に小言をいったり、プンプンして水をぶっかけたり、ヒステリックに服をむしりとったりしたらしい。


 そんな妻を持ったソクラテスは弟子に「とにかく結婚したまえ、良妻を得れば幸せになれるし、悪妻を得れば私のように哲学者になれる。そしてそれは誰にとってもいいことなのだ」と結婚を勧めていた。私のような後世にまで伝わっているということは、これは当時の流行語大賞に輝いたのだと予想できる。つまりは妻の与り知るところとなったということだ。そりゃ水をぶっかけて、服だってむしり取る。私だってそうする。顔面にドロップキックだってしただろう。


 浮世離れして尊敬もされていたソクラテスが民衆に愛された理由は、このクサンティッペにある。民衆が見守る中で喧嘩した記録も残っており、「クサンティッペ、もっとやれ!」と野次を飛ばされたともある。親近感を持たれていなければ、そんな野次だって飛びやしない。


 夫婦関係には問題はあるが、正解はないと言われることが多いけれど、彼らにとってはそれが日常で先刻ご承知の関係なのだなと感じられた。


 現代日本で言えば、野村克也監督と野村沙知代ことサッチー夫婦のようだった。


 私が素直にかっこいいなと思う夫婦像の一つである。

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