黒雪姫 4
「あの・・・、もし、起きてくださらんかな?」
「んあ?」
体を揺さぶられた黒雪姫は、目を覚ました。
あら、いけない、満腹になったらつい寝てしまったようですわ。
「って、ええっっっ?」
目の前にズラリと並ぶ小人たちに、動揺させられる。
「ああ・・・、疲れてるのかしら?
物が何重にも見える・・・。」
目頭を押さえる黒雪姫に、小人が優しく答える。
「いいや、わしらは7人いるんじゃ。
ほれ、ちゃんと服の色も違うじゃろ?」
「あら、それは失礼いたしました。」
改めて小人たちを見回す黒雪姫。
「・・・えっと、皆さん、児童じゃないですよね?
白髪だし、シワだらけだし、肝斑あるし
もしかして、人権に守られてる人たちですか?」
「問題発言はやめてくださらんかのお。
わしらは妖精じゃ。」
「あっ・・・、そっち系でしたか・・・。
どうもすいませんでした、では私はこれでおいとまを・・・。」
ヘコヘコと頭を下げながら、中腰で出て行こうとする黒雪姫を
小人のひとりが止めた。
「待たんか!
おまえさん、ここにいて何を言うとるんじゃ?」
「はいいいいいい?」
「ここは妖精の森じゃぞ?
ここにいるという事は、おまえさんも妖精だという事じゃ。」
「いいえ、とんでもない、私は正常・・・ゴホッ いえいえ、人間です。」
「人間? 嘘付け!
そのキングコングのような風情
どう見ても野人じゃないか!」
や・・・野人・・・・・・・?
この言葉に黒雪姫がブチ切れた。
「あーーーーーーーっ、もうーーーーーーーーっっっ!!!!!
殺されかけて国を追われて何日もさまよって
あげくが人外扱いかいーーーーーーーーーっ!」
ドカッと殴った壁にボッコリ穴が空いてしまったので、小人たちが慌てた。
「ち、ちょっと、落ち着いてくれ。
人間だと言うのなら
何故おまえさんがここにいるのか説明してくれんか?」
黒雪姫は、止める小人たちを両腕にぶら下げたまま話し始めた。
「私は東国の王のひとり娘でした。
ああ、別に姫という事で、身分の差など気にする必要はありませんのよ。
己の分をわきまえて接していただければ、それで充分ですわ。
ほほほ。」
小人たちがドン引きしている空気も読めず
黒雪姫は、一通りの説明をした。
「うーむ、どうにも解せんのお。
あんたが国一番の美女だって?」
「ええ、まあしょうがないのですわ、そこは。
うち、山岳民族の国で、ゴツい女が多くって。
そんな中でも、権力で美姫を嫁に貰える王のもとに生まれた娘が
とりあえず一番マシなツラになるのは当然でしょう?」
「マッチョブス揃いの国、っちゅう事じゃな?」
「ま、平たく言えば。」
黒雪姫は、あっさり認めた。
「そこに、えらく美醜にこだわる後妻がおいでになりやがって、もう・・・。
少々美人だったとしても、アラサーと10代とじゃ話にならないでしょ?
それを 『小娘には負けない!』 とか、周囲を威嚇しまくって
“あえての” だの、“まさかの” だの、いらんオーラむんむん放出で
ほんと肉食系熟女って、手に負えませんのよ。」
「ふむ、皆、この娘は嘘はついてないようじゃ。」
「じゃあ、本当にこの娘は人間なのか?」
「うむ、風鈴が鳴っていない。」
「風鈴?」
小人は窓の上に掛けてある風鈴を指差した。
「あの風鈴は、風によって鳴るのではなく
誰かが嘘を付くと鳴るのじゃよ。」
黒雪姫は妖精界の不条理に目まいがした。
「・・・そんなもの置いといても、誰も損しかしないような・・・。」
しかし少しだけ誘惑に駆られ、風鈴の側に何気なくブラブラと近付いた。
そして誰にも聴こえないような小声でつぶやいた。
「・・・・・・・・ 私は美人。」
チリンチリンチリンチリンチリンチリンチリンチリン
「おおっ? 凄い勢いで風鈴が鳴っておるぞ!」
「誰かとんでもない大嘘を付いたのか?」
小人たちが大騒ぎする中、黒雪姫は険しい表情でその場を離れた。