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黒雪姫  作者: あしゅ
39/42

黒雪姫 39

黒雪姫は3人目の弟の誕生で、城に戻っていた。

「まったく、あなたときたら、子供を産まないと帰って来ない。」

継母が、いまいましげに文句を言う。

 

王妃はこの10年の間に、宣言通り3人の子を産んだ。

ひとり目が男児、ふたり目は女児、そして今回はまた男児である。

 

栄養ドリンクをグビグビ飲みながら、黒雪姫が反撃する。

「あの遠距離を往復するのは

 冠婚葬祭でもないと無理というもんですわよ。」

 

 

「もうすぐあの荒野に到達ですって?」

「ええ、荒野手前に関所を作っている間に

 北国に親書を持っていきます。」

 

「あなたが?」

「はい。」

「北に国があるのかもわからないのよ?」

「でも行きたいんです。」

 

継母は微笑んだ。

「そうよね。 行きたいわよね。」

黒雪姫も、無言で微笑んだ。

 

 

「姉上!」

馬具を整える黒雪姫に声を掛けたのは、第一王子である。

「よお、長男。」

黒雪姫が笑顔で応える。

 

「もう行っておしまいになるのですか?」

「うん。」

「いつもトンボ帰りですね・・・。」

「ごめんね。」

 

「母上から聞きました、ヘビの恋人の話を。」

「いや、見た目はヘビじゃないんだけどね・・・。」

 

あのババア、何をどう言うとんのやら。

黒雪姫は、継母の寝室のある方を見上げた。

窓辺に継母らしき姿が見える。

 

 

「姉上・・・。」

「ん?」

 

第一王子が黒雪姫の腕を引っ張ってかがませ

その首にしがみついた。

 

「姉上、どうか、黙っていなくならないでくださいね。」

首に回したその、小さい腕の力が

第一王子の不安をもの語っていた。

 

黒雪姫は、第一王子をそのまま抱き上げた。

「あはは、工事が終わって戻ってきて

 そのまま嫁にも行けずに、ボケ老婆になるかもよー。」

 

第一王子は真剣な顔で言った。

「そうなってほしいです。

 どこにも行かずに、ずっと側にいてほしいです。」

 

本人は城にほとんど戻らないので、知らなかったが

北国への道路工事の指揮を、女だてらにこなしている事から

黒雪姫は東国の英雄になっていた。

そんな黒雪姫に、弟妹は憧れを抱いていたのである。

 

 

泣きじゃくる弟を置いて行くのは

さすがに黒雪姫とて、辛いものがあった。

 

何度振り向いても、弟はそこで泣いている。

もう一度、もう一度だけでも戻ろうか

一瞬そんな迷いも生じる。

城の窓を見ると、継母が手を振る影が見えた。

 

黒雪姫は戸惑ったように、手を少し上げると

厳しい表情で行く手を向き、二度と振り返らずに馬を飛ばした。

 

 


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