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黒雪姫  作者: あしゅ
37/42

黒雪姫 37

「ご出産、おめでとうございます、お継母さま。」

部屋の入り口で、敬礼をする黒雪姫。

 

「まあ! 黒雪、見舞いに来てくれたのですか?

 さあ、こっちにおいでなさい。」

ベッドに横たわっていた継母が、笑顔で迎える。

 

 

「ごらんなさい、見目麗しい男児よ!」

ベビーベッドには、男の子が寝ている。

「・・・遮光器土偶って知ってます・・・?」

 

「産まれたては皆こうなの!」

継母は黒雪姫のわき腹を、ゴスッとドツいた。

「ぐふっ・・・、早速世継ぎをお産みになるとは

 さすがお継母さま・・・。

 くうーっ、良いパンチで、ううう・・・。」

 

 

「で、そっちはどうなの?」

継母のベッドに腰掛けた黒雪姫が、天井を仰ぐ。

 

「ええ・・・、道のりは険しいですね・・・。

 2年も経って、多分まだ森の3分の1も行ってない。

 途中に番小屋を建てながらなので

 肝心の道路工事も、なかなか進まないのです。」

 

「そう・・・。」

継母が黒雪姫の背中を撫ぜる。

 

「まあ、あなたでダメだったら、弟たちにやらせなさいな。

 念には念を入れて、あと2人は産んどくわよ。」

「まことに頼もしい限り。」

継母と黒雪姫は、笑い合った。

 

 

ふたりの関係は、“あれ” 以来

どう変わったというわけでもない。

元々ふたりとも、あっさりした気質ではあったのだ。

継母が鏡に狂わされていただけで

なるべき母娘の関係になった、と言えるのかも知れない。

 

しかしふたりの心には、それ以上の何かが生まれていた。

大蛇の前で、共に命を落とす覚悟をした瞬間から。

 

 

黒雪姫は立ち上がった。

「では、行ってきます。」

「もうなの?」

 

継母は引き止めた。

「せめて1日ぐらい、ゆっくりして行きなさいよ。」

 

継母の頬にキスをしながら、黒雪姫はあっさりと言った。

「お継母さまこそ、大仕事の後なのですから

 ごゆっくりお休みください。」

 

 

黒雪姫が乗った馬が、森へと土煙を上げていくのを窓から見下ろす。

男の子のような娘が、初めて男性を意識したもんで

どうして良いのかわからず、とにかく労働で気を紛らわしてるのよね。

 

継母は黒雪姫の後姿を眺めつつ、クスッと笑った。

 

 


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