黒雪姫 36
森の中を、木を切る音が響く。
カーン カーン カーン カーン
「姫さま、いつ頃こちらにお戻りになられます?」
兵長が差し出すマントをはおりながら、黒雪姫が答える。
「ん、継母上の様子次第だけど、滞在は1日2日だわね。」
「そうですか、道中お気をつけていってらっしゃいませ。」
「不在中は、よろしく頼む。」
黒雪姫は馬に飛び乗り、森の中の道を駆け出した。
2年前の会議で、黒雪姫は北国との国交を提案した。
「道路を作りながら、国境まで進むのです。」
王は愛娘が自ら指揮を取る、この大規模な工事事業に難色を示した。
「今まで交流がないものと、わざわざ始める必要もないであろう。」
「西とも南とも国交は盛んです。
北だけが地形のせいで世界から取り残されているのですよ。
同じ人間同士、助け合うのは当たり前です。」
黒雪姫が必死に言うが、王は渋る。
「しかし、好戦的な種族だったらどうする?」
「その時は我が国の傘下に治めればよろしいのですよ。
我が東国の民ほど、勇敢で強い民族はおりませんわ。」
王妃が扇子であおぎながら、 ほほほ と笑った。
「色んな人種がいるけど、それぞれを尊重しつつ
人間は、いえ、世界は団結していかないといけないのです!
大国である我が国が、その指揮を執るべきです。」
黒雪姫のこの決意に満ちた演説で、大臣たちも納得し
王以外の満場一致で、北国への道路建設計画が始まった。
「コムスメ姫様は、おとぎ話で何かを学んだのかしら?」
会議が終わって、部屋を出ようとする黒雪姫に
王妃、姫にとっては継母が、相変わらずの攻撃口調で近付いてきた。
「別に。
ただ待ってるだけ、ってのは無理な性格で。」
「それで愛する人の悲願を代わりに叶えてあげようと?」
その言葉に、黒雪姫は少しうつむいた。
「・・・私には、愛がどういうものかわかりません・・・。」
「あなたのお父さまとあたくしの間にあるのが、愛ですのよ。」
黒雪姫は驚いて継母の顔を見た。
継母の笑顔が、聖母のように輝いて見える。
「あなたは誤解してるかも知れませんけど、愛ですのよ。」
「うわ、ウソくせえーーーーー!」
黒雪姫が叫ぶと、継母はいつものように
ほーっほほほほ と高笑いをしながら立ち去った。
あれも愛なんだ・・・
えらく驚いたが、俄然やる気が出てきた。
「よっしゃあ、やるぞーーーーー!!!」
「また姫さまが、何か叫んでいらっしゃるよ。」
「うちの姫さま、猛獣だよな。」
窓の下を巡回する衛兵が嘆きながら通り過ぎた。




