黒雪姫 26
小人たちと女王が、チェスの用意をしている間
黒雪姫は座ったまま、ボーッと考え事をしていた。
「何を考えとるのかね?」
小人たちがふたり、黒雪姫の横に座った。
「あなたたちは参加しないの?」
「ああ、わしらはチェスは苦手なんじゃ。」
「へえ、皆、似たようなもんかと思ってたけど
違う部分ってあるのね。」
その言葉に、小人は仲間を指差しながら解説をし始めた。
「ほれ、あそこにおるヤツは、弓が得意なんじゃよ。
だから主に狩りを担当しておる。
あそこのヤツは、手先が器用で特に針仕事を好む。
ご近所さんから服を作ってくれと頼まれる事もあるんじゃ。
あそこのヤツはな・・・。」
黒雪姫はただ黙って、活き活きと説明する小人を見ていた。
「・・・あんた、聞く気がないじゃろ?」
見つめられている事に気付いた小人が、ムッとして言った。
「いや、楽しそうに説明してるなあ、と思って。
本当に仲が良いのがわかるわー。」
珍しく黒雪姫がクスクス笑った。
そうやってると、普通の可愛い女の子に見えない事もない。
「私が思っていたのは、あなたたちはオールマイティで
皆、一様に万能だって事。
そう思ってたんだけど、不得意なものもあるなんて
ちょっと意外だったな、と。
これは悪口じゃないのよ。」
「よくわからんが、わしらは何でも助け合うから
傾向も似てきて、個性がないのかも知れんな・・・。」
「同じ個性が集まってるから、無個性に見えるだけですよ。」
口を挟んできたのは王子である。
「世界が一緒なら、個性が一緒になるのも自然な事ですよ。
たまに違う感覚を持つ者が出ると
異端として扱われるんですよね。」
小人の表情がパアッと明るくなった。
「そうなんじゃ! わしらは似てるだけなんじゃ!」
王子と小人たちの弾む会話に、黒雪姫は興味がなかった。
周囲と自分の個性の調和など、平民の悩みだからである。
黒雪姫の不安はただひとつ。
この勝負に負けたら、どうなるんだろう?
てか、勝って女王になるのも、何だかヤバくない?
どう転んでも、危ない展開になるっぽい。
そこに、チェスに参加する小人が走ってきた。
「駒が足らんので、あんたに代わりに来いって言ってるが。」
「はあ? 道具が足らないゲームを
どうしてそんな無理くり、やらなきゃならないのよ。
てか、この私を駒扱い? 何をたわけてるのよ!」
黒雪姫が一蹴すると、女王が向こうの台の上から叫んだ。
「駒がないと不利になるぞえ?」
「ふーん、まあ、いいわ。」
黒雪姫は、やる気がなさげにノソノソと盤上に立った。
「あんたはここ、ルークの位置じゃ。」
「スターウォーズ?」
「何じゃ? そりゃ。
ルークは戦車という意味で、縦横に何マスでも動けるんじゃ。
自分サイドの駒は飛び越えられんが」
とりあえず、ルールを聞いていた黒雪姫だったが
案の定、理解しきれずに途中でさえぎった。
「わからん! おまえの話はわからん! by大滝秀治 」
「?」「?」「?」
皆が怪訝な表情をする中、黒雪姫が叫んだ。
「もう良いから、とっとと始めようよー。」




