黒雪姫 2
夜行性の動物の方が危険なのよね。
日が沈む前に、登れる木を探しておかないと・・・
黒雪姫は枝ぶりの良い木に、よじ登った。
城の方向を確認したが、もうかすんで見えない。
今までこんなに城から離れた事はなかった。
今、何時かしら?
貴婦人は少食がマナーだから、空腹には慣れているけど
こんなに疲れたのも、生まれて初めてだわ。
これから、どうしよう・・・。
黒雪姫は、とりあえず枝に座った。
貴婦人の割に寝相最悪なんだけど、ここで眠るって可能かしら?
翌朝、黒雪姫は土手の途中で目を覚ました。
はっ、ここはどこ?
あたりを見回すと、はるか頭上に夕べ登った木が見える。
ええっ、私、あの枝から落ちたあげくに
この土手を転がって、それでもなおかつ爆睡してたわけ?
うっわー、姫なのに夢遊ローリングーーー?
肉食動物が通りかからなくて、ほんと良かったわー。
黒雪姫は、立ち上がってドレスをパンパンはたいた。
黒雪姫は、太陽を仰ぎ見た。
昨日の夕刻は太陽を左に見ながら走った。
一番近い国と言えば、西国よね。
それだけに人の出入りの監視が厳しいだろうし、交流も盛んだから
そこももう、私の敵になっているかも知れない。
このまま北に行けば、国交のない北国なんだけど
国交がないだけあって、果てしなく遠い。
道もない。
どういう国かもわからない。
・・・だけど追っ手に見つかる可能性は薄い。
しばらく悩んでいた黒雪姫だったが、意を決して北へと向かった。
「やっぱ、命あっての物種よねえ。」
「姫様はピクニックの途中で、足を滑らせて谷底へ・・・。」
グチャグチャになった死体が、城の地下へと運ばれた。
遠くで説明を受けたグロ耐性ゼロの王が問う。
「どう見ても、あの肉片は姫ひとりの量じゃないと思うんだが・・・。」
「お付きのメイドたちも共に落ちまして
あの谷は急流で、あちこちにぶつかったらしく
下流で回収された時には、もうどれが誰やら、という事らしいです。」
刑務官がすまなそうに答える。
「おお・・・、何という悲惨な・・・、我が姫よ・・・。」
フラフラとよろける王を、継母が支える。
「王様、お気を確かに。
姫の事は丁重に弔って、皆で悲しみを乗り越えてまいりましょう。」
「后よ・・・、わしにはもう、そなただけじゃ・・・。」
「王様、あたくしもあの可愛い姫を失って悲しゅうございます。
これから姫の冥福を祈るため、塔にこもります。」
「おお、后よ、実の子ではないというに、何と心優しい。」
「では・・・。」
継母は塔の階段を2段飛びで駆け上がった。
「鏡! 誰! 美人!」
扉を開けるなり叫ぶ后を、鏡はたしなめた。
「あんた、どこのカタコト外国人でっか?
まあ、言いたい事はわかるんで答えたるけど
読解力に優れたわいの知性に感謝せえよお?
はいはい、あんたあんた、あんたが一番。」
ほーーーーーーーーっほほほほほほほほほ
継母は高笑いをした。
黒雪姫は生きている。
なのに何故、継母が一番の美人になったのか?
顔も洗えず、風呂にも入れず、服も着の身着のままどころか
美しいドレスをビリビリと破り裂いたハギレで
かかとを折った靴と足をグルグル巻きに固定し
(かかとの折れたハイヒールは、何故か普通に歩けない)
長い髪が邪魔にならないようにターバンにし
ケガ防止に拳にも巻き
木の枝で槍を作り、見つけた果実はツタでくくって肩にかけ
オオカミに育てられた少女のような風情で
森をさまよっていたからである。
美というのは、清潔感が大切なのだ。