黒雪姫 12
小人たちが忙しくお使いに出ているというのに
黒雪姫は庭でノンビリと、落ち葉焚きをしていた。
切り株に大股開きで座り、枝で火を突付く姿はとても男らしい。
あたりには良い匂いが漂っている。
黒雪姫は枝で炎をかき分けて
サツマイモをぶっ刺して取り出した。
焚き火と言ったら、やっぱこれよねー
アチッアチッとお手玉をしながら、イモを2つに割る。
「おんや、美味しそうな匂いだねえ。
ヒェッヒェッヒェッ」
声がした方向を見ると、杖をついた老婆が立っていた。
渋々とは思えないほどの、見事な成りきりである。
継母は、“女は女優” を真に受けていた。
その姿を見ながらも、無言でイモにかじりつく黒雪姫に
老婆が手提げかごからリンゴを1個取り出して、提案した。
「そのイモをこれと交換してくれないかねえ?」
「イモ、1個しか焼いてないのよ。」
まったく、このバカ娘は相変わらず根性悪だね!
黒雪姫のそっけない返事に、脳血管をビキビキさせながらも言う。
「ほれ、そっちの半分で良いからさ。
こっちはリンゴを丸ごとあげるよ。
どうだい、悪い取り引きじゃないだろう?」
「・・・何か、えらい説得してるようだけど
そんなにイモが食いたいなら、恵んであげますわよ。
育ちが良いから、意地汚くないですしね。」
黒雪姫は老婆にイモの半分をポーンと投げた。
「・・・ありがとさんよ。(ムカムカ)
じゃあ、このリンゴを・・・」
「リンゴ、いらなーい。」
「えっ、リンゴ、好きじゃないんかい?」
「うん、別にどーでもいい存在ってやつ?」
おかしいわね、王国便りのプロフィールに載ってたのに・・・。
継母がどうしたものかと思案していたら、黒雪姫がムセ始めた。
ハンター・チャーーーンス!!!
継母は、瞬時に黒雪姫の側に走り寄り
とんでもない火事場のバカ力を出して
グシャッとリンゴを握り潰した。
フリッツ・フォン・エリックの先祖かも知れない。
「ああ、ほら、炭水化物系をガッつくから!
このリンゴをお食べ!
水分たっぷりで喉のつかえが取れるよ!!」
「あっ・・・!」
黒雪姫が何かを言おうとした瞬間
継母が黒雪姫の口にリンゴを押し込んだ。
「ゲホッゴホッ」
喉をかきむしってのたうち回る黒雪姫の顔色が
みるみる真っ青になっていく。
数秒後、前のめりにズシーンと地面に倒れる黒雪姫に向かって
拳銃バキューン 銃口の煙フッ の仕草をしながら、継母が言った。
「ジ・エンド」
恥ずかしいほど古い女である。