黒雪姫 11
「何から先にすべきかしら。
殺害を命じた従者たちの処刑?
それとも黒雪姫への追撃?」
閉じた扇子で手の平をピシャンピシャンと叩きながら
ウロウロと歩き回る継母に、鏡が助言をする。
「従者の処刑は、理由付け等の準備が面倒だから後回しにして
先に黒雪姫を殺りに行くべきとちゃいまっか?
今度こそ確実に仕留めるためにも
あんさんが自ら出向いた方が良いと思いまっせ。」
継母は鏡に感心した。
「あら、おまえ結構知恵が回るのね。」
「へえ、わいは陰謀用鏡なんですわ。」
陰謀と鏡に、一体どういう関連があるんやら。
「では、この手で黒雪姫を殺りに行くわ。
あの娘は今、どこにいるのかしら?」
「へえへえ、諜報も任せておくんなはれ。
え~と、あれっ? 何で?????」
「・・・・・・・・・・・」
鏡が黙り込んだ。
「何なの?」
「ああ、いや、ここはちょっと行きにくいから
わいが直接送り迎えしますわ。」
「そう? じゃあ用意をしてくるから
それまでにそっちも準備を整えといて。」
継母が部屋を出て行った後、鏡は考え込んだ。
“東国出身” という事で、黒雪姫が映ってるんやろうけど
ここ、どう見ても妖精の森やなあ。
どうしたら人間があそこに紛れ込めるんやら。
どうもイヤな予感がしまんなあ・・・。
この懸念も、戻ってきた継母を見て忘れ去った。
手にリンゴを持っているのである。
「それで撲殺でもするつもりでっか?」
「そう、こう脳天めがけてグシャッとね
って、アホか!」
「見事なノリツッコミでんな。」
呆れる鏡に継母が言う。
「リンゴは黒雪姫の好物なのよ。
まったく貧乏舌なんだから。
王家の姫なら、せめて巨峰ぐらい言いなさいよ、って話よね。
で、この中にメルヘン用毒を注入してきたのよ。
食べたらイチコロよっ、うふん絵文字略!」
はあ・・・、と気のない返事をする鏡に構わず
継母が続けて相談する。
「でね、思ったんだけど、あたくしが行ったら警戒されると思うの。
そこで、あたくしだと気付かれないようにしたいんだけど
どういう変装が一番バレにくいかしら?」
「単にスッピンになるだけで
そのすべての問題が解決しまっしゃろ。」
ガッシャーーーーーーーン パリーン
継母が積み上げていた皿を、数枚叩き割った。
鏡のアドバイスの的確さと、その意味を瞬時に理解した自分が
とてつもなく腹立たしかったからである。
その後、鏡の前に座った継母は、無言でクレンジングを始めた。
怒りに満ちた表情だが、摩擦ジミを作らないよう
動作はあくまで丁寧なフェザータッチであった。
これが美容の基本。




