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神無月の守護者 短編集  作者: なまこ
1期
6/22

神無月の花園 ver.雷斗

神無月の守護者×偽の花園の作品。

リアと入れ替わって花園の世界にいってしまった雷斗のお話です。

……随分と長い間眠ってしまった。杏奈を失ってから五年間、しっかり眠れた日の方が少ない。邪神様を倒してからは夢にうなされる回数が減って、少しずつ眠れるようになっていたが、これほどまでに眠ってしまうとは。鳥の声が聞こえる。少しいつもとは違うように感じるが、多分それもよく寝たからだろうと思って起き上がった。


「……は?」

辺りを見渡すと、全く見慣れない部屋だった。俺の部屋よりも薄暗い。よく見てみると、今まで自分が寝ていたベッドもいつもとは違うものだった。俗に言う明晰夢ってやつかと思って頬を抓ったが、普通に痛い。訳が分からん。立ち上がって机の上や窓の外を見てみる。机の上に置いてある本は読めない上に、見える景色は西洋風の街並みだった。……まさか、俺は異世界転生したのか?

いやまぁ、数日前にあれだけ大怪我をしているから、寝ている間に死んでしまっていたとしても全然納得はできるが……あまりにも突然すぎるだろう。そんなことを考えていると、入口と思われる場所のドアが開く音が聞こえた。


「リアー? いるんでしょ? 出てきなさいよ」

リア? だがこの家には俺以外誰もいないらしくて、その声に返事をするものはいなかった。すると、廊下らしきところを歩く音が聞こえ、俺がいる部屋のドアが勢いよく開いた。

「リアー? あんた今日任務ある日でしょ? 遅刻なんていい度胸ね……って誰よアンタ!!」

コスプレみたいな服を着た女が出てきた。

「……いや、すまんが俺はリアではない」

「分かってるわよそんなこと! アンタ、リアになんかしたの?」

刃物を取り出しながらそう言って来る。何故か手元に月明刀はある……けど、ここでこれを使うのは違う。

「誤解だ。俺はお前のことも、そのリアってやつも知らん」

そう言ってもそいつは、俺に向かってその刃物を投げてきた。俺の顔の真横を通って壁に突き刺さる。


「ふぅん、逃げないんだ。意外と度胸あるのねアンタ」

度胸も何も、わけわかんねぇから動けねぇだけだけどな。

「まぁ、今回は見逃してあげる。でも、次またここに居たら……」

壁に突き刺さった刃物を抜いて、またこちらに刃を向けてから

「容赦なく殺すからね」

と言って、部屋を出ていった。全く、とんでもなく物騒な世界だなここは。


おそらく、ここはリアって言う奴の部屋なんだと思う。それ以外の情報も欲しいから、もう少しだけ部屋を探索させてもらう事にした。棚の上に置いてある写真立てには、ピンク色の髪をした女の子と、白髪の少年が写っている写真が飾られていた。だが、少年の方は写真立てのガラスが割れてしまっていて、顔がよく見えなかった。色の褪せ方からして少し古い写真なのだろう。


少し下を向いた時に、髪が視界を大幅に覆った。ちょっとうっとおしいから髪を結ぼうとしたが、ヘアゴムがない。あぁそう言えば、昨日風呂上がりに髪を結ぼうとしたら切れたんだっけか。いつもは腕につけてるんだが……通りでないわけだ。

机の上に髪を結べるものが置いてないか軽く見てみると、髪を結べそうなリボンを見つけた。

「ちょっと女みたいになるが……仕方ないな」

そう言って白色のリボンを手に取って髪を結んだ。鏡で見ると、やっぱり少し女々しく見えるが、赤いリボンで結んだり、結ばないよりはマシだろう。


なんとなく女性の部屋とわかっている以上、引き出しやクローゼットを漁る気にはなれず、机の上や棚の上のものを見させてもらう程度で探索は済ませた。着替えるものもないから、部屋着として使っているジャージのまま外に出る。人が多くいる通りに出ると、俺の格好は少し浮いていた。周りの奴からの目が少し痛い。出来るだけ目立たないように隅の方を歩きつつ、街並みを眺める。本当に、漫画で見るような西洋風の街並みだった。周りの人間も、服装や格好が俺たちの時代より少し前っぽい気がする。本当に異世界に来ちまったのか俺は……。


街中を歩いていると、一際大きな建物が目に入った。それに惹かれて中に入ってみると、そこは図書館のような場所だった。まぁ、入ったところで、この世界の文字は一切読めないが、言葉は通じるらしいので、なにか情報が得られることに期待しようと思う。そんなことを考えながらグルグルと館内を回っていると、高いところに手を伸ばす子どもがいた。……しっぽが生えている。妖怪なのかそういう種族なのか分からないが、とりあえず、取ろうとしているであろう本を取って渡してみた。

「あっすみません、ありがとうごさいます」

「いえいえ。ところで、ここは図書館であってるか?」

そう聞くと、首を傾げて

「そうですけど……迷子ですか?」

と聞かれた。迷子……まぁ、あながち間違ってはないがその言われ方をするとなんか嫌だな。

「あー……いや別にそういう訳ではないが」

さらに首を傾げている。なんか……子ども相手に意地を張っている方が恥ずかしくなってきた。

「いや悪かった……正直迷子だよ。この辺のことが全くもってわからん」

そういうと、

「なーんだ、最初からそういえばいいのに」

と言われた。なんかこう……やめてくれよ。


「どこか行きたいところがあるんですか?」

そう聞かれたが、何かあるかも分からない以上、行きたい場所なんてない。とりあえず今はこの世界についての情報が欲しいだけだった。

「特にこれと言ってないんだが、行きたい場所と言うよりは、この世界について知りたい」

そう言うと、

「よくわかんないですけど、勉強熱心なんですね。そういう内容だったら歴史の本が置いてあるコーナーになると思います。案内しましょうか?」

と言われたので、読むことの出来ない本を読んでも仕方がないが、図なら理解できるかもしれないからとりあえず案内してもらうことにした。


「まず、ここは国立図書館です。近隣地域の中では一番大きな図書館で、世界各国の本が揃っているって言われています」

これの他にも、何階は主になんの本が置いてあるかや、建物についての解説まで細かくしてくれた。この人、本当に子どもなのだろうか……。そんなことを考えながらその人について行っていると、見覚えのある人が横を通り過ぎた。


「……雅之?」

パッと見た雰囲気が雅之そのもので、思わず声が出た。もし、雅之もこっちに来ているなら何か知ってるかもしれない。そう思ってその人の方を叩いてみる。しかし

「……なんの用かね」

顔も声もすごく似ていたが、雅之ではなかった。途端何故か少し変な気持ちになって

「……すみません、人違いでした」

としか言えなくなった。俺がそういうなり、その人は何も言わずに前を向いて歩き始めてしまった。

「……館長さんと知り合いなんですか?」

俺を案内してくれていた人がこちらを見ていた。

「いや……見間違いだった」

そう言うと、そうですかと言ってまた道案内を再開した。


歴史関連の本が並んでいるらしいところに着くと、その人はもうすぐ任務があるからと言って去ってしまった。そういえば、朝部屋に入ってきたあの女も任務がどうとか言ってたな。なにかの組織の一員なのだろうか。そんなことを考えながら本をパラパラめくってみるが、全く読めないので、結局は意味がなかった。

少し道に迷いながら大きな図書館を出て街中を歩き始める。やはり周りの目が少し痛いように感じる。まぁそれは、世界観に合わない格好をしている上に、刀まで持っていればそうもなるよな。


随分と長いこと歩いた気がする。街中にいることは変わりないが、少し建物の規模が小さくなった。中心街から外れたのだろうか。近くの路地裏を見ると、大きめの武器のような物を持った人がネコを撫でていた。この世界にもネコはいるんだなと思っていたら、ネコを撫でているそいつと目が合った。赤い目が光っているように見えてゾッとする。そいつが、持っている武器に手を掛けたため、こちらも月明刀に手を掛けたが

「お前は違う」

と言って、一瞬でその場を去ってしまった。俺は違う? 異世界から来たことがわかってるって事なのか? 辺りにそいつが居ないか見渡してみたが、そいつはいなかった。代わりに、さっきまで撫でられていたネコが俺の傍に来た。

「すまん。食いもんは持ってねぇんだ」

そう言いながら撫でると、俺の足元にスリスリと顔を寄せてから、どこかへ行ってしまった。そうして、何もいなくなった路地裏を見て、その場を後にした。


規模が小さくなった街を歩きながら、実際これからどうしていくのかを考えていた。異世界転生していたとしても、それ系の本を読んだことがないからどうしたらいいのかは全然わからん。いっそもう、やけにリアルな夢を見ているだけならいいんだがなと思ってもう一回頬を抓った。やっぱり痛かった。

ため息が出る。独りであることにはなんの抵抗もないが、こうもわからんことが多いとなると流石に参った。この先どうしていくんだろうなと考えながら歩いていると、突然後ろで爆発音がした。


「……んだよ、アレ」

植物の化け物……? ひまわりみたいに見える。そいつが街を破壊していく。花の部分をクルクルと回して銃弾のようなものを飛ばす。物は壊れて人は逃げていく。一体どうなっているんだこれは。

「国軍の奴らはまだ来ないのか!?」

「北の街にバケモノが出て、それの討伐に行ってるから遅れるって聞いたぜ」

「そんなん待ってたら街が持たねぇよ!」

国軍……あの化け物から街を守るための軍があるのか?

「お兄さん、あんたも早く逃げな! じゃないと死んじまうよ!」

俺にそう声をかけてくれた人がいた。

「あぁ、ありがと……」

言い終わる前に目に入ったのは、化け物に狙われた子どもだった。すでに傷だらけで、顔に花の模様がある。

「アタシ、花の紋章があるから、みんなを守らなきゃ!」

そう言う子どもに化け物は、手のようになっている葉を振り下ろそうとした。それを見て、俺は何も考えずにその子どもを庇った。少し背中が痛い。

「……逃げな、危ねぇから」

「でもお兄ちゃん、アタシね」

「逃げな。お前にゃまだはえーよ」

子どもの言葉を遮るようにして言うと、子どもは走って遠くに行った。そうそう、それでいい。

化け物の狙いが俺に向く。この場で武器を持っているのは俺だけらしい。月明刀を抜いて、効くかは分からないが一応力を込める。刃が青く光る。

化け物がこちらに向かって種のような形をした弾丸を飛ばしてくる。こんなもの、邪神様に比べればチョロいもんだ。弾を刀で弾きながら化け物との距離を詰める。そして一気に葉の部分を切り落としてやった。化け物はわけも分からない奇声のようなものをあげて、根の部分で俺を叩きつけてきた。少しビックリはしたが、大したことは無い。根も大半は切り落として、暴れるその切れた根を土台に高く飛び上がり、化け物を真っ二つに切り裂いた。化け物は、耳が痛くなるような声をあげて、崩れ落ちて行った。その場には、ひまわりの種が数粒落ちていた。

……ふぅとため息をつくと、周りから歓声が上がった。

「あんちゃんすげぇな! 国軍兵だったのか!?」

「いや、俺は国軍じゃない」

「紋章もないのに強いわね! 旅の途中?」

「旅……まぁそんな所になるかもしれないですね」

街の人に詰め寄られて、多くの人から声をかけられる。少し目がまわる。

群がる人達の隙間をくぐってそこから逃げ出す。注目を浴びるのは得意じゃない。サッサとその場を去ってしまおうとすると、さっきの子どもが俺のところに来た。

「あの……お兄ちゃん」

少し間を空けてから

「助けてくれてありがとう」

と言った。あぁ、そうか、俺がこの子どもを助けたのは、少し杏奈に似ていたからか……。下手な言葉が口から飛び出してしまう前に、何も言わず、手だけをヒラヒラとさせて、人がいないところに歩き始めた。


さっきの子どもの顔を思い出すと、どうしても杏奈がチラついてくる。後悔の念が押し寄せて、少し胸が痛い。……馬鹿だ。後ろから重たいものがのしかかったような感覚に襲われる。こういうの、邪神様を倒して、杏奈の仇を取ったら無くなるんだと思っていた。だが、そんなことは無かったということを知った。ぼやっとしながらひたすら前に歩いていたら、いつの間にか森の中にいた。流石に街から森に入ったら背景が変わったことくらい気づきそうなもんだがな……相当ボーッとしていたらしい。

「ハハッ、あんまりだろ」

そう言った時だった。ものすごい殺気を感じて後ろに下がると、さっきまで俺がいた場所に薙刀の刃先が向いていた。


「ほう……これは避けるか」

避けるか……じゃねぇよあぶねぇだろうが。いきなりなんだと言おうとした時には次の一手がこちらに向けられていた。

「ったくなんなんだよ!」

文句を垂れながら月明刀を抜く。さっきの化け物とは違って見た目は人間っぽいが、格好的に中華系の妖怪の可能性もあるから、一応月明刀に力を込めた。容赦ない攻撃の雨をひたすら刀で弾く。このままだとキリがない。攻撃を防ぎながら、相手の攻撃に一瞬空いた時間を見つけて、起爆札を起爆させる。流石に攻撃が止んだ。


「全く、お前なんなんだよ」

そう言い終わるほんの数秒前、俺の左肩に鋭い痛みが走った。……あいつだ。攻撃された方向を向いた時には、頬が切れた。攻撃が、あいつの姿が見えない。分が悪いので大量の起爆札を投げて、起爆させる。立った砂埃の中、全神経を集中させて奴の気配を探る。

バッと振り返ってそこに攻撃を入れると、人肌に当たった感触がした。

「……なかなかやるな」

そう聞こえたが、今度は腹に鈍い痛みを感じで吹き飛んだ。思いっきり木に背中をぶつけ、葉っぱがザアザアと揺れた。さっき子どもを庇った時の傷も痛むが、すぐに立ち上がって移動する。俺が体をぶつけた木が音を立てて倒れていく。あそこであと一秒でも動きが遅れていたら、今頃俺は真っ二つだっただろう。またやつの攻撃を月明刀で防ぎながら隙を探る。ただ、一撃一撃がすごく重たい。このままだと状況が変わらないと思った時だった


「甘いな」

とやつが言って、今まで以上に重い一撃が入る。攻撃を防いでいた月明刀の刃が、音を立てて砕けていった。青い宝石みたいに光るそれが落ちる瞬間が、スローモーションみたいに流れていった。反動で倒れた俺に、やつは容赦無く刃を向ける。……あぁ、今まで攻撃に必死で気が付かなかったが、こいつ、守護者に似ている。表情は全然違うが、どこか似ていた。

「……んだよそれ、異世界では兎夜に殺されるのかよ」

為す術もないため、もう目を瞑っていたが、新しい痛みはない。目を開けると、やつの刃は、俺の首に当たる一歩手前で止まっていた。


「……お前、そいつを知っているのか」

「……え」

こいつ、守護者のこと知ってんのか?

「お前こそ、なんで知ってんだよ」

「前に会ったことがある。お前、あいつの仲間か?」

一体どういうことか分からないが、とりあえず、知り合いだと返事しておいた。そしたら、やつは薙刀を下ろして、そのままどこかへ行ってしまった。……よく分からないが、助かったらしい。


全身の傷が傷む中、薄暗くなった森の中を歩く。森にはあれくらい強いやつがうじゃうじゃいるかもしれんと思うとゾッとした。もう月明刀は使い物にならない。次に敵と出会ってしまったら、それこそ死だなと思った。しばらく獣道を歩いていると、人間が作ったであろう道に出た。この道を真っ直ぐ行けばこの森から抜けられるのではないかと思う。右も左も分からないが、とりあえず前に進もうとすると、ものすごい目眩がした。とてもじゃないが、立っていられない。よく考えれば、起きてから一度も休まず行動していたのだから、体にガタが来てしまったのだと思う。こんなところで倒れて、助かる気はしない。だがもう、それならそれで構わない。自分の傷から溢れる血の香りに包まれながら、俺は目を閉じた。



それから何が起こったかは分からないが、突然、全身にひんやりした感触を覚えた。おそるおそる目を開けると、誰かが俺を抱きしめていた。目を動かして、それが誰なのかを確認する。

「ひな……み?」

今日、散々そう言って違う人だったことを繰り返してきたから、また別人じゃないかと内心どこかで疑っていた。しかし、

「おかえり、雷斗」

と、ひなみの声が返ってきた。途端力が抜けて何も出来なくなってしまった。ひなみは、そんな俺のことをただ抱きしめてくれていた。


しばらくして動けるようになって家に帰ると、雅之が

「おかえり。帰ってくる方法なんて調べる必要なかったな」

と言っていた。どういうことか分からず、二人に話を聞くと、どうやら俺は、あの世界で生きている少女、リア・キルシュと入れ替わってしまっていたらしい。目が覚めた時に居たあの部屋と、コスプレみたいな服を着たあの女の発言から見て、確かに納得がいく話ではあった。それでも、全員がそういう夢を見ていたんじゃないかって一瞬疑ってしまった。しかし、頬に残った傷が、それが夢ではなかったことを証明している。少しヒリヒリする痛みで、生を実感した。


「ねぇ雷斗、雷斗が行った世界ってどんな所だったの?」

「西洋みたいな感じだった。あと、花みたいな姿の化け物がいたり、そいつから街を守るための国軍があったりした」

そういうと、

「リアちゃんが言ってた事と同じだ。体に花の模様がある人とかもいた?」

と聞かれた。

「いた。俺が見たのは子どもだったが」

「ふぅーん。全部本当だ! やっぱり雷斗とリアちゃんは入れ替わってたんだね」

……リア。俺があの世界に行っている間、こちらに来ていたやつ。


「なぁ、リアってどんなやつだった?」

ひなみにそう聞くと

「うーん、普通の女の子だったよ。あぁでも軍に入ってるって言ってた! 歳は雷斗よりと少しだけ幼いかも。色んなこと楽しんでくれる子だった!」

と言っていた。

「あとね、ちょびっとだけ雷斗に似てたかも」

「……俺と?」

「それは僕も同感だね。どこか君と似た面影があったよ。何か縁があるのかもね」

雅之までそう言っていた。俺はリアのことを一切知らないが、何か縁があったのだろうか。


話していると、強烈な眠気に襲われた。夢ではなかった以上、身体的疲労はついてきているらしい。髪を結んだままでは横になれないから、髪をほどいた。すると、手元にはヘアゴムではなく白いリボンがあった。

「雷斗、それどうしたの?」

「……たぶん、リアのやつだと思う。持って帰って来ちまったか」

そういった後の記憶はない。後日目を覚ますと、体の傷は癒えきっていて、俺があの世界にいた証拠になるものはこの白いリボンだけだった。




雷斗が眠ったあと、ひなみと雅之は少し話をしていた。

「……雷斗、寝ちゃったね」

「だな、そうとう疲れているのだろう」

「ねぇ雅之、リアちゃんがいた世界ってどんなところだったんだろうね」

「だいたいは、雷斗が話していた感じなんだろうが」

「ううん、そうじゃなくてね」

雅之は、ひなみが言いたいことを何となく察して話し始めた。

「……おそらく、僕らがいるここよりは過酷な世界だよ。もしかしてと思って確認していたが、月明刀が壊れていた。邪神と戦う時に使ったからと言って、月明刀がそう簡単に壊れるはずがないのだよ」

「……ってことは」

「それほどやばいのがたくさんいるってことだよ。まぁ、その世界の治安が悪いのは、あれだけ若い子が軍兵になっているあたりから見て御察しだがね」

ひなみは少し間を開けてから、口を開いた。

「……ねぇ」

「なんだい?」

と雅之が返すと、ひなみは少し不安そうな顔をして

「リアちゃん、また会えるかな」

と言った。

「……生きていれば、また会えるさ」

そう言って雅之は、部屋の照明を落とした。

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