花火大会2023
旭飛視点のお話です。
兎夜が高校三年生になった時空。旭飛は高校二年生。
「ねぇさぁ大輝」
「んー? 何?」
とある快晴の日、私と大輝は帰りのバスを待っていた。
「大輝はさぁ、今年も花火大会は屋台出す側なの?」
「おー、そうだな。父ちゃん母ちゃんは別の店も出してるし、兄ちゃんたちもなんか忙しそうだからな。今年も俺だと思うよ」
「ふーん」
陽炎が揺れている道の先を見る。特に意味なんてないけど、とりあえず、見る。
「俺もさあ、普通にちゃんと見えるところから花火見たいんだけど、いっつも屋台越しなんだよな。旭飛はまた小春と行くんだろ?」
「……うん」
「なーっ、いいな〜。俺の分まで楽しんでくれよな」
「うん。楽しんでくる」
あからさまに不機嫌な顔をしてやっているんだけど、大輝は特に何も言ってこなかった。
「あ、ほら。アイス。半分食いなよ」
大輝は、さっきコンビニで買った、棒が二本着いているアイスを折って、こっちに向けた。
ボソッとありがとうって言うなり、サッと食べてしまって棒をゴミ箱に投げ入れた。
「ハズレてるからって投げなくてもいいじゃん。あ、俺もハズレた」
「なんもかんもハズレまくっとるけんさ」
そう言っても大輝は首を傾げていたから、帰りのバスでは一切口聞いてやらなかった。
そのままいつもの道で別れたあと、めちゃくちゃ大きなため息を着いた。
なんなんだあのびっくりするほどの鈍感は。私自身も鈍感って言われることあったけど、大輝ほどじゃないでしょ絶対。
「もうちょっと、なんかあってもいいじゃんさ……」
下を向いてトボトボと道を進んでいると、急にスマホが震え始めた。
「え! 電話じゃん誰何? え、柚希先輩!?」
スマホに映った柚希先輩の文字を見て急に笑顔になる。すぐさま応答のボタンを押した。
「もしもし柚希先輩! お疲れ様です!」
「あ、お疲れ様〜。ごめんね急に連絡して」
「いえいえ! 学年変わってから声聞けてなかったので凄く嬉しいです! どうしたんですか? 先輩?」
「いや、なんとなく、旭飛ちゃん元気にしてるかなって思って」
「はいもう元気バリバリです! 夏休みなんでめちゃくちゃ遊び回ってます!」
「そっか、それは良かった。他のみんなも元気そう?」
「そうですね、みんな元気です! そうだ、この間文化祭があって、私たちお化け屋敷したんですけど、兎夜先輩たちがすっごい怖がってくれて〜」
文化祭の話を中心に、自分のことや周りのことを話す。柚希先輩は、部活の時と同じように、優しく話を聞いてくれた。
「みんな楽しそうでよかった。あぁそうだ、夏休みに入ったってことは、そろそろ花火大会の時期だよね? 旭飛ちゃんは行く?」
「あ……」
さっきまでみたいに、元気に返事をしたかったのに、声が止まってしまった。
「旭飛ちゃん?」
「……ねぇ〜! 聞いてくださいよ柚希せんぱーい!」
電話越しに大きな声を出しながら、大輝のことを愚痴ってしまった。我ながら情けないことをしているとは思ったけど、気がついた時には、思ったことが口から溢れ出てしまっていた。
「そっか、大輝くんはお家が屋台やってるからね。それは残念だね」
「そうなんですよ! いやもうせめて気がつけよって話なんですよ! なんであんなに鈍感なんですかね!?」
「大輝くんだからじゃないかな」
「ですよね分かります!! あーもう!」
多分今、フグみたいな顔をして電話してるんだろうな。絶対鏡なんか見たくない。
「ねぇそしたら、浴衣着て、旭飛ちゃんが出向いちゃえば? お店、少しだけならお家の人が変わってくれるかもだし」
目を瞑って想像を膨らませる。
「……ありかもしれません」
「でしょ? 良いようになるといいね」
そんな感じで、電話は終わった。浴衣着て屋台に突撃か……楽しそう。
ニヤニヤしながら道を歩いていたら、いつもなら見ない標識が見えた。
「あっ!? 待ってこれ家通り越してる!」
その場で回れ右をして、走って家に帰った。近くを歩いていた人がすごい顔してた気がするけど、まぁいいや!
一週間後、花火大会当日。
「ねぇおかーさん、髪飾りどこいったか知らん?」
「知らんよ! あんたまた変なとこ置いたっちゃないの?」
「あ? 花のやつかね? それなら可愛かったけん玄関のところ飾ったよ?」
「え!? なんで父ちゃんはそれ玄関に飾ろうって思ったん!? もう!」
バタバタしながら準備をする。今年は小春にも声を掛けてない。完全に賭けだ。
いいくらいに日も暮れてきた。少し涼しくなってきてちょうどいい感じ。
「じゃあちょっと行ってくる!」
「あ? 小春ちゃん今年は一緒やないの?」
「別のところで待ち合わせしてるの!」
サラッと雑な嘘をついて、家を飛び出した。
たくさんの人達が、海沿いに向かって歩いてる。そこまで大きくない花火大会だけど、この辺ではここしかないから、結構人が来る。
一人で歩いてるのがちょっと浮いてることは何となくわかってる。けど、真っ直ぐに、誰の顔も見ず、屋台が出ている所にむかった。
空が少しずつ暗くなり始めた頃。
屋台が出ている通りに行くと、大輝はそこでたこ焼きの屋台をしていた。
「たこ焼き二人前ですね、八百円です!」
美味しいのかはわかんないけど、それなりに列ができている。それの最後尾に並んで、大輝と話せる機会を待った。
運がいいことに、私の後には誰も並ばない。よかった、少しゆっくり話せそう。
「ありがとうございました! 次の方……って旭飛じゃん! 来てくれてありがとうな。てか小春一緒じゃねぇのか?」
「うん。今日は一人」
「え! 珍しい!」
ここまで来ても、何も気が付かない。それはそうか、だって、二人で花火見たいななんて思ってるの、私だけだもんな。けど。
「ねぇ。屋台、抜けられんの?」
「うーん……親父たちちょっと離れてるし、今年流行りの屋台出しちゃったからな。ダメだろうな」
……なんで、なんでこうも簡単に、賭けに失敗するんだろう。しょうがないって分かってるのに、少し悔しくて。涙が出たらどうしよう。
「あ〜忙しいったらありゃしねえなぁ!!」
隣の屋台から男の人の声が聞こえる。こんな状況を引き裂くような声に少しイラッとしてそっちを見る。けど、そこに居たのは、人間じゃなかった。
「あ〜いらっしゃい! おん? たこ焼き五人前? 了解ちょっと待ってな〜!!」
単眼、タコ足の化け物。後ろの椅子には人間みたいな子どもが座ってるけど、二人とも間違いなく人間じゃない。
「はーいお待ち! 火傷すんなよ!」
ササッと渡すと、爆速でまたたこ焼きを焼き始めた。なんでこんな化け物が屋台やってて誰もツッコまないんだろう。
「隣の屋台……いつの間に。だから急に客が減ったのか」
「……大輝、隣の人、どんな人が屋台してるの?」
あまりにも普通にしているから、普通の人たちには違うように見えているかもしれないと思った。
「え? 普通にお兄さんじゃね? 旭飛、目ぇ悪かったか?」
「いや全然、何となく聞いてみただけ……」
人間のお兄さんなんかじゃないって言おうと思ったけど、何故か言う気になれなかった。
「おうおう、なんだよガキども。なんか少し暗い空気漂わせやがってよぉ。もうすぐ花火の時間だぜ?」
タコ足の化け物がこちらに話しかけてくる。
「そうっすね! 俺はまたこの屋台から見るんですけど……」
「屋台からじゃ見えにくいだろ〜? 兄ちゃん普通に花火見たことないんじゃね? 一時間くらい一緒に店回しといてやるから、そいつと見てこいよ!」
タコ足の化け物は、私を指さした。
「え、いいのか!? けど、お兄さん大変じゃ」
「おぉん? 俺を舐めてもらっちゃ困るね! 俺は、プロだから……!」
神がかった手さばきで、たこ焼きが綺麗に焼きあがっていく。その辺の人より全然上手いし早い。
「すげぇ」
「な? だから行ってこいよ! あ! 礼はお前が作ってるたこ焼き一人前、娘のために貰っとくぜ!」
化け物がそう言ったあと、目線を子どもに移すと、既に子どもがたこ焼きをフーフーしながら一口ずつ食べていた。
「……旭飛!」
「え!? 何っ!?」
「行こう!」
大輝は屋台に置いていた綺麗なタオルで手を拭くと、私の手を掴んだ。
「えっ!? えー!?」
少し早足で、大輝が前を歩いていく。
「俺さ、ずっと行ってみたい場所があってさ! そっからだと花火すっげぇ綺麗に見えるって聞いてたんだ! やっと見に行ける! しかも旭飛と行けるなんてな! 嬉しい!」
急な出来事すぎて、頭がまだ追いつかない。けど、嬉しくてしょうがない。
「大輝! あと二分で花火始まるよ! 間に合う?」
「お!? うーん大丈夫だ! 旭飛は浴衣、動きづらくないか?」
「うん! 平気!」
大輝が連れてきてくれた場所は、割と有名な場所みたいで、人がもういっぱいだった。でもそれは、間違いなく花火が綺麗に見える場所だっていう証拠でもあった。
「人多いな!」
「まぁね、けどいいよ!」
そう言って大輝を見たと同時に、ヒューという音がなって、空に花火が広がった。周囲からも歓声が上がる。
「うぉー! すげー! ここから見ると花火ってこんなにでっかいんだな!」
「ね! ここいつも人多いなって思ってたけど、こんなに近いんだ!」
大輝は、屋台越しじゃない所から花火を見ることが久しぶりだったみたいで、ずっと花火に釘付けだった。花火が目に写って、キラキラしている。本当に嬉しそうな顔をしていたから、私まで嬉しくなった。
「え!! すげぇ今の見たか? ニコちゃんマークだったぞ!」
「なんだ!? 色が変わってるぞ!? すごい、いつの間にあんな花火出来てたんだか」
「うぉー! すげー! でっけー!!」
花火が上がる度に大輝の歓声もあがっていた。それに対して何回笑ったのか、もう思い出せない。
打ち上がる花火の数がだんだん多く、大きくなってきて、最後はしだれ柳が空を埋め尽くす。その余韻すらも消えてしまった後、周りからは大きな拍手が聞こえた。
拍手をしようとして、大輝の手を離した時に気がついた。私たち、一時間手を繋ぎっぱなしだった……?
途端顔が熱くなっていくのが分かったけど、いちいち言う自分もバカだし黙って──
「ごめん! 今気づいた。手、繋ぎっぱなしだったよな……?」
大輝ならどうせ気にしないと思ってたのに、なんか違う。おそるおそる大輝の表情を見ようとすると、反対側向いてしまうから全然見えない。けど、大輝の耳が若干耳が赤い気がする。
「えー、かわいい」
全然大丈夫! 気にしないよって言って鈍感カウンターしようと思ったのに、心の中の声と口に出す声が逆になってしまった。漫画でよく見るやつになっちゃった。
「と、とにかく戻ろうぜ。店、そろそろあのお兄さんに悪いし」
「そうねー」
なんだかわからないけど、なんかしてやった感が急に出てきて満足してしまった。
屋台に戻ると、お兄さん(化け物)がニヤニヤしながら待っていた。
「よぉお前ら。楽しかったか?」
「ウス、ありがとうございました」
化け物は、大輝がそう言ったのを見てニコッと笑った。相手は化け物だけど、この時ばかりは感謝しなくちゃって思った。
「じゃあ俺は帰るからよ。あとは頑張れよ」
化け物は娘を抱っこしたなと思うと、目を逸らした隙に、屋台諸共居なくなってしまった。
「……あれ? あのお兄さんもう帰ったのか? 片付け早すぎだろ」
「たこ焼き作るのも上手かったし、片付けも早いっちゃろ」
「ふーん、そっかぁ」
そっかで済むほどの早さではなかったんだけど、そこはいいことにしておこう。
「大輝、屋台撤収するよ!」
遠くから、大輝の両親の声がした。そっか、屋台片付けないといけないよね。
「片付けあるもんね、私、先に帰るよ」
そう言って帰ろうとしたら、大輝はニコッと笑った。
「ありがとう、旭飛。ここ来てくれて。おかげで俺も花火見れたし、楽しかった」
「うん、こっちも楽しかったよ」
「来年はさ、最初から一緒に、屋台回って花火見れるように、調節してもらうから……そんときは、また一緒に見てくれたりしないかな?」
大輝からそれを言われると思ってなくて、一瞬反応が遅れた。けど、答えは決まりきっている。
「もちろん! 来年もまた一緒に花火見よう!」
「……おう! よろしくな!」
大輝の両親が私に気がついたから、軽く挨拶だけして、邪魔にならないようにさっさと家に帰った。浴衣だから動きにくいはずなのに、体が羽のように軽い。
「どうしたんあんた、いつになくルンルンしとるやん」
「花火、超楽しかったけんさ。もうルンルン」
「そうね、よかったね」
家に帰って、すぐに浴衣を脱ぎ捨てて部屋着に着替えた私は、上機嫌になって鼻歌を歌っていた。
また一緒に見てくれたりしないかな……? って? いやぁもうオッケーに決まってるじゃないですかヤダー!
「あさちゃんお風呂入んなさいよ〜」
お風呂からホカホカになったお父さんが出てくる。はーいって返事して、お風呂に入って……そこからは記憶がない。
気がついたらベッドでぐっすり寝ていた。お母さんに確認したら、終始ニヤニヤしながら早めに部屋に帰っていったらしい。変なこと言ってなくて良かった。
柚希先輩にも、昨日のことを報告していたらしく、良かったねというメッセージと、ピースしているキャラクターの絵が送られてきていた。
午前十時を過ぎる頃、一階にある風鈴の音と、うるさいくらいの蝉の声が聞こえる。夏のクライマックスが終わった。
きっとまた、来年も素敵な夏になるんだろうな。
そんなことを考えながら、こっちを見ている部屋のカエルに特大のスマイルを見せつけたのだった。




