彼方からの刺客……?
2期のネタバレを含みます。
日曜の午後一時半。部屋着のまま、スマホで音楽のプレイリストを流しては、歌詞を眺めていた。
「……ここ、もうちょっとはっきり歌った方がいいな」
前の家では出来なかったけど、ここは近所に家がないから、思いっきり歌っても問題ない。今日はお母さんいないし、どれだけ全力で声を出しても良い。いや、別にお母さんがいる時に歌ってもいいけど、全力で歌ってたねとか声をかけられるのが少し恥ずかしくて。
歌詞を読み込んで、アーティストの歌い方をよく聞く。もっと喉を上げて、お腹から声を──
トゥルトゥルトゥルン……
音源の再生ボタンをおそうとした時に、スマホの着信音が鳴った。電話なんて珍しい。イワシ以外がかけてくることなんか滅多とないのに。
「誰から? えっと、あ? 雷斗じゃん。なんだろ」
受話器のマークを押して、電話に出る。
「はい」
けど、電話先から声が聞こえない。
「え? もしもし聞こえてる?」
「……兎夜、すまない。ちょっと助けて欲しい」
声が深刻そうで、ゾワッとする。また何かあったんじゃないかと思うと、少し手が震えた。
「お前今どこにいる!? 家でいいのか!?」
「ああ……」
「今はお前だけか!? ひなみと雅之は」
そういう途中で電話がブツっと切られてしまった。
なんでだ。だってもうあの事は全部終わったはず。それなのに、なんでまた……!
急いで着替えて家を飛び出す。うちの家から雷斗の家までは少し遠い。けど、何も考えずに全力で走った。
「頼むから、生きててくれ……!」
神崎家の前に着く。本当はちゃんとインターホン押して入った方がいいのはわかってるんだけど、そんなこと言ってられない。
「……おじゃまします」
小声でボソッと呟いてから裏門をくぐる。そこから雷斗の部屋がある離れに向かって、着いたら階段を駆け上がる。
部屋の中から異様な空気がする。でも、鉄臭い匂いはない。それだけまだ救いかもしれない。
「雷斗! 無事か!?」
意を決して扉を開ける。けど、そこに広がっていたのは光景は、思っていたよりも平和だった。
「くっ……十連敗か」
「なんですか、大したことないですね。ひーさん、帰りましょうよ」
「う〜ん」
部屋の液晶にはゲーム画面が映っていて、悔しそうにコントローラーを握っている雷斗と、何故か少し面倒くさそうな顔をしているひなみと、鹿の角がある人……いや妖怪? がいた。急な脱力感に襲われたけど、体勢は崩さないようにした。
「……帰っていいですか?」
雷斗がバッと振り返ってこっちを見る。
「兎夜、 ちょっと待て……!」
近づいてくるなり肩をガって掴まれて普通にびっくりした。
「なっ! びっくりした……てか何この状況。 お前が言うより全然平和そうなんだけど?」
「違ぇ、違ぇんだ兎夜! あれだ、その……ちょっとややこしくてな。けど、お前の力が必要なんだ」
「お前の力が〜って、ゲームしてるだけじゃん」
「いやまぁそうなんだが! そうじゃないんだ!」
少し声を抑えてコソコソ話すように話していると、角がある人がすっごいジト目でこっちを見てきた。
「はぁ? 何ですか? 仲間呼んだら勝てるとでも思ったんです?」
「そういうわけ……ともいえねぇか」
「ふ〜ん。まぁいいんですけどね、別に僕的には問題ないんで」
なんだろうこの人、雰囲気的に強そうな感じしないけど……強いのか? というか、そもそもなんでたかがゲームでこんなにガチなんだ?
「すみません、俺ちょっと事情全くわかってないんですけど」
右手を小さくあげてそう言うと、角の人はため息をついた。
「いいですか、ひーさんは元々僕らの仲間なんです。けど、ひーさんは自分のお姉さんを探してて、四百年ぶりに一緒に過ごせるからっていうことで、僕らはひーさんを見送ったんですよ。そして様子を見に来たらこうですよ! お姉さんじゃないじゃん! わけわかんないよ! って感じですね」
「あ〜……」
頭の中でどうしてこうなっているのかを整理していく。雷斗の前世、神崎イセがひなみが言うお姉ちゃん。そして四百年ぶりに会いに来たらお姉ちゃんは男になってた。それをこの人多分知らないんだ。
「しかも、こいつ祓い屋家系の長男じゃん! 祓い屋の人間なんか、いつ何をしてくるか分からないのに、僕らの大事なひーさんを置いておけるわけないでしょ!? だからひーさんを連れて帰る!」
ひなみの方をチラッと見る。本人がすっごく面倒くさそうな顔をしている。なんだ? こんな顔してるひなみを見た事がない。
「こじか〜、だからわっちは」
「あぁもうひーさんちょっと黙ってて!」
ひなみがより面倒くさそうな顔をした。なんだろう、顔文字みたいな顔になってる。
「で、なんでゲーム対決になってんのかは全くわかないんだけど」
「それに関してはな、こじかがひなみをかけて決闘をするって言ってきたから、刀を抜こうとしたら、俺はそんな物騒な決闘はしない! これで勝負だ! ってゲーム機を指さすもんだから……」
「あ〜、だから俺の力が必要ってことか。雷斗ゲーム弱いもんね」
「うるせぇ。しょうがねぇだろやり込んでないんだから」
「あぁはいはい」
床に置かれたコントローラーを手に持つ。ゲームは今話題のシューティングゲームで、俺もよくやるやつだった。
「てかこれ、雷斗も持ってたんだ」
「もってことは、お前もやるのか?」
「やってるよ。少しブランクあるけど」
コントローラーを借りてエイムを合わせる。まぁ、ギリギリ撃てなくもないくらいのエイムだった。
「で? どういうルールでやるんだ?」
「一人増えたんならツーオンツーだね。こっちも仲間呼ぶから、逃げ出すなよ」
「誰が逃げるかよ」
こじかさんと雷斗の間に火花が見える。なんか俺だけ冷静なことを言うのも場違いな気がして、そのままノリでコントローラーを握っていた。
「てか、仲間って誰だよ。ひなみは参加しないだろ?」
雷斗がそう聞くと、ひなみが首を横に振った。
「わっちはやらないよ。そもそもゲーム機今から雷斗に貸すし」
そういうひなみを横目に、こじかさんは指を鳴らした。
「大将、ツーオンなんでやりますか」
「お! 面白そうなことすんじゃん! いいぜやろうぜ!」
部屋の開きがガラッと開く。中からまた見たことがない人が出てきた。
「おっす、俺はこいつらの大将してます! よろしくよろしくぅ!」
「は? 窓からならわかるが、なんで開きから出てこれるんだよ」
いや、窓から来るならわかるってのも違うだろって雷斗につっこもうかと思ったけど、ややこしくなるからやめた。
「俺、そういう妖怪なんだわ。ぬらりひょんっての。人の家に上がり込んでのんびりしていく妖怪な! あ、仏壇の饅頭はもらったぜ、ありがとな!」
流石の雷斗もため息をついていた。ドンマイって感じで肩を叩いたら、引きつった笑顔を返されたから、苦労してんだなって思ってしまった。
「ルールは簡単、ツーオンツーの試合で先に二勝した方が勝ち。適用ルールはレギュラー。難しくないし、問題ないでしょ?」
このゲームは基本的に四対四でやるやつだから、正直ツーオンツーのイメージがわかない。けど、まぁ……やるしかないよね。
「レギュラーか。相手を倒す以外にも保有エリアを広げる必要もあるな。その上相手が何の武器を使うかで有利不利が大きく変わる」
「レギュラーなら、相手を倒すより保有エリアをどれだけ増やせるかだね。雷斗の画面見たけど、あれ使うんなら俺は俺の持ち武器で行くよ」
画面をパッパと切り替えて持ち武器を持つ。射程が短い代わりに弾速が早い二丁拳銃。これ以外のが使えないわけじゃないけど、相手がどう来るか分からない以上、一番使えるのを使うのが一番いい。
「準備出来ました? こっちはいつでも大丈夫なんで」
「あぁ……いつでもかかってこい」
「ふぅん……」
バチバチと火花を散らしてる二人とは対称に、大将さんはすっごく楽しそうな顔をしてるし、ひなみはジト目でゲームの画面を眺めていた。
「いつでもいいですよ」
俺がそう言うと、こじかさんが試合準備完了のボタンを押した。
「兎夜、大将の方はわかんねぇが、こじかは馬鹿みたいに強ぇ。まじで覚悟しろ」
「……わかった」
雷斗がそう言ったのに返事をすると、すぐにカウントダウンが終わって試合が始まった。
保有エリアを広げながら前に進んでいく。ツーオンツーになってもステージの広さは四対四と同じだからなかなか保有エリアが広がらない。
「先いくぞ、兎夜」
雷斗は保有エリアを広げるのを中断して前に出た。相手を倒しに行くつもりなんだ。
「まぁ、来ると思ってましたよ」
「お前にはもう負けまくってるからな、俺も考えなしに突っ込んだわけじゃないぜ!」
雷斗がこじかさんを見つけるなり、即必殺技を使った。たしか雷斗の必殺技は一定時間武器が強力なバズーカになるやつだ。どれだけ使えるかは知らないけど、それを使えば……
「それを使ったら倒せると思ったら大間違いですね」
こじかさんがボソッとそう呟いたあと、バズーカが発射される音がする前に、雷斗がやられた音がした。
「一発も撃てない……だと!?」
「まぁ、姿が見えたら撃てますね」
雷斗がやられたのを横目に保有エリアを広げていく。すると、高台の方から敵の気配がした。様子を見ながら距離を詰めていく。居たのがこじかさんなのか大将さんなのかわからないけど、視野を広く持たないと。
「えっ……?」
周りを見ようとした次の瞬間、画面上の俺はやられていた。何が起こったのかわからない。
「甘いぜ兎夜ぁ! 不用意に近づくなよ!」
画面の表示とかけられた言葉からして、俺をやったのは大将さんだ。雷斗が強いって言うくらいだから普通にできるくらいの人たちだと思ってたけど、これは本当に強い人たちだ。
「雷斗! 前に出すぎるな! 倒しに行くよりも」
作戦を伝えようとした段階で、雷斗はもう一回こじかにやられていた。
「なんでだ、なんで姿が見えねぇんだ!」
「こちらからは丸見えなんですけどね」
「くっ……」
そのまま、じわじわと相手二人が迫ってきて、あっという間に試合終了の笛がなる。為す術なく、一回目は俺たちが負けた。
「言ったろ……敵の姿が見えないんだ。どこにいても、どうやっても、気がついたらやられてんだ」
「普通なら、ゲームでこれだけ実力差あったら勝てないぞ?」
雷斗の表情からして、それは理解してるって感じだった。でも、なにか簡単に諦められない理由があるらしい。
「でも、こいつらひなみを無理やり連れて帰るって言うんだ。ひなみもなんか……だるそうだろ? こじかも大将も悪いやつじゃないとは思う。けど、とりあえず勝たないと、ひなみの意思が尊重されないかもしれない。それが、気に食わない」
「なるほどね……じゃあこれはたかがゲームなんかじゃないってことだ」
そうは言っても、なんとなく大事にはならない気がしていて、正直少しノリでやっていた。けど、雷斗の意思には応えようと思った。
「準備できたかお前ら!」
「いつでも大丈夫ですよ」
神経を集中させる。ここからガチだ。
数秒して、試合開始の合図が鳴る。さっきは、俺と雷斗の連携が崩れていた。姿は見えなかったけど、こじかさんと大将さんは間違いなく連携がとれている。俺たちと相手の大きな差はまずここにあるはずだ。
「雷斗、少し引き気味を意識して。前に出る時は、俺が援護できるようになってからだ」
「っ……わかった」
まずは二人で必殺技を使える状態に持っていく。保有エリアも増えるし損なことはない。
「兎夜、後ろ来てるぞ!」
「なっ!?」
気がついた時には、背後にこじかさんがいた。姿を捉えることが出来たけど、相手の方が速い。こじかさんの横に雷斗が投げた爆弾が落ちている。こじかさんはそれをなんなく避けると銃口をこちらに向けた。その行動の隙を見て撃ってるのに、当たらない。射程が足りてない。
「届かねぇ……」
「ま、それじゃあね」
気がつけば画面は敵色に染まっている。自分の画面に映っているこじかさんが、バズーカを掠った。
「使えるようになるのが遅いんだよ!」
雷斗が必殺技を使って、攻撃したらしい。雷斗とこじかさんにはまだ距離がある。この距離ならこじかさんの攻撃は届かない。
「いけるか!?」
「いけ……えっ……?」
そう思った矢先に、雷斗の方からやられた音がした。いつの間にか、大将さんに近寄られていたらしい。
「おっと。こじか、それは死ぬぜ?」
「いや、大丈夫でしょ。あんな弾じゃ当たんないよ」
なんだ……? 行動を全部読まれている? これじゃあどんな作戦を立てても無意味か? 試合終了時間が刻々と迫ってくる。もうすぐ半分を切りそうだ。
「兎夜、考えるのはやめようぜ。あいつらに俺らの作戦は多分効かねぇ」
「いやでも、考えなしに突っ込むのは」
「確かにな。でも、いくら考えても、あいつらの方が俺らの動きを読んでくるんだろ? だったらもう、感覚で動くしかないだろ」
そう言うと、雷斗は前に突っ走って行った。
「あっ、だから前出過ぎるなって!」
急いで後を追いかけたら、雷斗はいきなりこっちに向かって爆弾を投げてきた。仲間の爆弾は効かない仕様だから大丈夫だけど、なんでだ?
「兎夜、後ろだ!」
ハッとして振り返ると、後ろから大将さんが出てきた。
「お! 見抜いたか!」
大将の攻撃をスライドしながら避ける。俺も大将に向かって追跡型の爆弾を投げて、距離を取った。
その直後、雷斗が必殺技を使って大将にかすり傷を入れた。
「これならいける!」
大将に急接近して、銃口を向ける。ダメージが入ってると画面が見えずらくなってるはずだから、俺の動きも見えづらいはず。
「……っ!?」
相手の攻撃が掠りはしたけど、なんとか大将を倒せた。目線を雷斗に移すと、少し遠い高台から、こじかさんの銃口が雷斗を狙ってるのが見えた。
「雷斗! 後ろ……」
俺が言い終わる前に、雷斗は勢いよく後ろを向いて、必殺技を撃った。最後の一弾が残っていたらしい。
「まってそれは無理……!」
雷斗が、こじかを、倒した……? 画面に敵全落ちの表示が出る。
「姿が見えてりゃ、撃てんだよ……!」
「か、返された!?」
喜びに浸っている場合じゃない。残り時間が後三十秒を切っている。
「雷斗! 今のうちに保有エリア広げるぞ! もしかしたら!」
「わかってる! 行くぞ兎夜!」
相手ふたりが復活してくるまでの間で保有エリアを広げる。試合終了五秒前でこじかさんと大将さんの姿が見えたけど、互いが銃口を向け合う前に、試合終了の合図が鳴った。
試合結果が表示される。割と差をつけて、勝ってる!
「やるじゃねぇかお前ら!」
「なんで負け……? あ、自陣の保有エリアせっま!! しまったなぁ僕ら二人とも前出ちゃったか。良くなかったな、反省しなきゃ」
相手二人の反応も少し面白い。こじかさんはなんか少し気が立ってるように見えるけど、それでも、心から楽しんでゲームをしてるように見える。
「さ! 次がラストバトルだぜ! 準備はいいかお前ら!」
顔が少し引きつったままの雷斗の肩を叩く。
「そう気合い入れすぎなくて大丈夫。あぁ見えて、二人とも楽しんでるだけだよ。気が詰まったままじゃ楽しめないでしょ? 少し肩の力抜きなよ」
「けど、これ負けたら」
「大丈夫。どっちに転んでも、とりあえず楽しもうぜ」
そう言っても、雷斗は楽しそうだという顔はしなかった。
「わかった」
けど、もしかしたら、やってるうちに楽しくなってる可能性はありそうな表情はしていた。
「おーし! 始めるぞ!」
大将さんがそう声をかけると、試合開始前のカウントダウンが始まる。
「今回はもう、僕の持ち武器でいく。保有エリアの広げ忘れで負けるなんて、そんなミスしたくないんで」
こじかさんはどうやら武器を変えてきたらしい。さっきまでは高火力長射程の武器だったけど、今度は真逆の武器を持っていた。そうなればそれこそ、読みなんて通用しない。
「雷斗、得意の感覚でカマしてやれ。俺も上手いことのってくから」
「言われなくてもだ。……ちゃんと着いてこいよ」
さっきまで少し自信なさそうにしてたくせに、ちょっとニヤついてたのを俺は見逃さなかった。
試合開始の合図が鳴る。
雷斗は最初よりも無闇に突っ込もうとしなくなっている。俺自身も、無理に前には出ずに、保有エリアを広げつつ、全体を見る。反対側を見てる感じ、相手も少し慎重に動いてるみたいだ。
必殺技が使える状態になった頃に、雷斗が敵陣に突っ込み始める。それと同時に俺も前に出る。相手も考えていたことは同じようで、こちらに向かって爆弾が飛んでくる。
「それ起爆が早いやつだから気をつけて!」
「わかってる!」
爆弾が爆発し終えるなり、雷斗はすぐに必殺技を使った。少し遠くにいるこじかさんをやるつもりだ。
「見えりゃもう撃てるんだよ!」
雷斗がバズーカを勢いよく撃った。弾が描いた軌道は、間違いなくこじかさんに直撃しているはず。
「残念でした」
「そっか! あの武器の必殺技は!」
こじかさんは、設置型の巨大なバリアに守られて、傷一つついていない。
「くっ……だりぃな」
こじかさんがバリアを抜けて雷斗に近寄ってくる。射撃精度はこじかさんの方が上だ。
「雷斗、そのままいていいよ」
雷斗に向かってくるこじかさんに向かって、俺は必殺技を使った。特攻型の爆弾に乗って、こじかさんに急接近して爆破する。流石のこじかさんも、これは避けられない。爆破と同時に、こじかさんが設置したバリアは、パリンと音を立てて消えた。
「ありがとう、助かった」
「まぁ、さっきの試合ではちょっと助けられたからさ」
けど、安心もつかの間で、俺たちの少し先には、空中に浮かんでエネルギーを溜めている大将さんの姿が見えた。
「時間稼ぎありがとな、こじか。キメるぜ?」
「そうだ、あいつが使ってる武器の必殺技は……!」
「やばいな、一箇所に固まってたら二人ともあれに巻き込まれ……!!」
言ったそばから、俺たちの足元に大将さんのエネルギー弾が落ちる。そのからものすごい勢いで攻撃判定が入って、二人ともやられた。
「ナイス大将」
「おうよ、早く戻ってきな」
「よし、体勢立て直すぞ兎夜。自陣はもうしっかり広げてるし、あとは敵陣をどれだけ取れるかだ」
「だな。ワンチャンあるぞこれ」
二人同時に前に出る。装備の関係で、少し雷斗の方が早く前線に出たけど、間もなく俺も前線に出る。
「もう一発カマすぜこじかぁ!!」
「ああもう、やっちゃってください!!」
大将さんはまた空中に浮かんでエネルギーを溜めている。またあの強力なエネルギー弾がくる。
「クソ、俺の必殺まだ溜まってねぇ! 溜まってたらあいつ撃ち落とせてたのに!」
「ないものはしょうがない! とりあえず二手に別れるぞ!」
「承知した!!」
別れた先にいたこじかさんに、追跡型の爆弾を投げる。けど、すぐに撃ち落とされて距離を詰められる。エネルギー弾はどうやら雷斗の方を狙って投げられたみたいだけど、なんとか避けたみたいだ。
「バーリア!!」
「っ! こんな近距離でバリアか……!」
あと一歩のところまで体力を削ったけど、俺の方がやられた。追跡型の爆弾を投げたけど、それはまた撃ち落とされた。
「けど、バリア内に設置した爆弾は、バリア無効だよな……?」
こじかさんの横に、雷斗の爆弾が置いてある。いつの間にか来てたんだ。
「うっわまじかよ」
こじかさんはバリア内から出て避けようとしたけど、元々体力がギリギリだったせいで、爆発に少し当たってやられていた。けど、雷斗も雷斗で、大将さんのエネルギー弾の傷が癒えきってない。すごい速さのスライドで寄ってきた大将を撃ち落とす弾が残ってなかったみたいで、銃口を向けてはいるけど、弾が出ていない状態だった。急いで戻って爆弾を投げたけど、間に合わなかった。
「次はお前だな?」
「ま、相棒の仇取るんで」
「それ言ったら俺もなんだよな!」
二丁拳銃同士で撃ち合う、スライドの動きは俺の方が速い。けど、相手の弾が的確だ。俺は速さで攻めて、大将さんは的確さで攻めてくる。最後の弾が同時に当たったみたいで、相討ちになった。それと同時に、画面に残り一分の表示が出て、音楽が切り替わる。
「お、割といい勝負じゃん?」
「ぜってぇ負けねぇから」
「まぁ、ね。冷静にやればこっちが勝てるんで」
「おう! 楽しんでいくぞお前ら!!」
四人同時に前線に出ると、撃ち合いが激化する。純粋な腕前では敵わないから、雷斗の感覚的な行動に合わせて動く。それと同時に、敵の動きがだんだん見えるようになってきた。
「雷斗! 右爆弾来てるぞ!」
雷斗がそれを避けると、俺の前方で展開された簡易シールドに爆弾を投げた。簡単に壊れる音がする。
「爆弾使ったんなら残り弾数かなり減ってんでしょ!」
「まぁな。けど油断すんなよ!」
雷斗が、この短時間でこじかさんを相討ちに持っていけるようになってる。どんな成長速度してんだ。
「そろそろ倒しとかないと危ないですよね?」
遠目に見える大将さんは、もうすぐ必殺技が溜まりそうな雰囲気だった。多分あれは、こじかさんが帰って来てから、安定した状態でエネルギー弾を放つつもりだ。
「そうはさせない……!」
ちょうど溜まったこちらの必殺技を使う。大将さんがいるところまで、高速で特攻する。
「シールドもこれには無意味なんだよな」
大将さんをもっていったと同時に、敵陣に入り込みすぎていた俺は復活してきたこじかさんにやられた。けど、エネルギー弾を止めたのはかなり大きいはず。
復活して急いで前線に駆け上がる。前線ではこじかさんと雷斗がやりあっていた。
「雑魚がよ」
「え! 雑魚って言った! 今雑魚って言ったぁ!? わぁもうキレちゃうもんねー!」
なんか楽しそうなんだけど、少し雷斗が押されぎみだった。
「くらえクソ雑魚が! 必殺……!」
「させないもんね! バーリア!!」
「必殺溜まんないけど、内側に潜り込めば!!」
「俺の必殺は溜まりやすいぜ! 行くぞお前ら!!」
試合終了前のカウントダウン。
バリア内にいたこじかさんと俺が相討ちになる。雷斗が空中に浮いてる大将さんを撃ち落としたみたいだけど、先に大将さんのエネルギー弾が着弾したみたいで、バズーカで機動力が落ちてる雷斗は、それに巻き込まれてやられていた。
全員がやられて、フィールド上に誰もいなくなったところで、試合終了の合図が鳴り響いた。
結果発表の画面が映る。……僅差で、こじかさんたちが勝っている。
「あーもうちょっとだけ焦りましたよほんと!」
そういうこじかさんを見て、雷斗が少し顔をしかめている。
「ま、そういうことなんで。ひーさん、帰りますよ」
こじかさんがそう言うと、大将さんがこじかさんの両肩をドンっと叩いた。
「いや〜楽しかったわ! 誘ってくれてありがとな、こじか! 今度はひなみもやろうな!」
「え? 大将? 何です?」
「あと、兎夜と雷斗だよな? いや〜お前らも楽しかったぜ! また遊ばせてくれよ! 俺お前らのこと気に入ったからさぁ!」
大将さんはすごく満足げだった。
「すまん、ひなみ。勝てんかった」
そういう雷斗のことを、ひなみはオレンジジュースを飲みながら横目で見ている。
「ひーさん、帰りますよって」
「え、やだ」
やだと言われたこじかさんは、少し固まっていた。
「やだぁ!?」
「だから何回も言ってるじゃん。雷斗は男の子だけど、お姉ちゃんであることには違いないの。まぁたしかに、お姉ちゃんと雷斗は別物だよ? けどわっちはこれでいいって思ってるからここにいるの」
「え、けどひーさんこいつは祓い屋のやつで……」
「知ってる。けど、雷斗はわっちに酷いことしたこと一回もない。ね、雅之?」
「まぁ、僕もここ数年ここにいるけど、攻撃されたことはないね。危険ではないことは、僕が保証しよう」
いつの間にか、ひなみの肩の上に蜘蛛の姿の雅之が乗っていた。ひなみが持っているオレンジジュースがどこから出てきたのか、それでなんとなく察しがついた。
「え……けど」
「おらこじか! 俺たちは帰るぞ。あいつらと今日はタコパするって言ってただろ? モタモタしてるとあいつら俺らの分まで平らげちまう!」
こじかさんは少し迷ったような表情をしたけど、自分の顔をパンパンと叩くと、少し表情が引き締まった。
「わかった。ひーさんがそういうなら、今回は見逃しますよ。けど! もし何かあったらすぐ連れて帰りますからね!! わかった!?」「ふぁ〜い」
ひなみは、あくびをしながら適当に返事をした。
「おいこじか! 俺先に行くぞ!」
そう言って大将さんは開きの中に帰っていく。不思議な力でどうやらそこで出入りできるらしい。
「はいはい。じゃ、僕らはこの辺で」
こじかさんは大将さんと一緒の方法では帰れないらしくて、ちゃんと扉から帰っていく。当たり前のことなんだけど、少し新鮮な感じがした。
「あ、あと……」
扉の取っ手に手をかけたこじかさんが、少し振り返った。
「ゲーム、普通に楽しかった。よかったら、またやりましょう」
少し微笑んでそういうと、こじかは帰って行った。扉が閉まると同時に、部屋が一気に静かになる。
「あぁ……疲れた」
「んん〜、ごめんね雷斗、兎夜。こじか、悪い人じゃないんだけど、時々過保護になるんだ」
過保護。まぁ、いわれてみればそんなかんじだったかもしれない。
「けど、俺はなんだかんだ楽しかったし、大丈夫だったよ」
最初は何事かと思ったけど、結局は全員でゲームを楽しんだだけ。ただそれだけだった。雷斗はかなり気を張っていたみたいで、少し疲れていそうだった。
「あぁ、本当にどうなる事かと思った」
「けどお前、だいぶ楽しそうだったぞ?」
「は? そんなわけ……」
「試合中、最後の方とか顔ニヤけてたぞ」
そういうと、雷斗はハッとした顔をして顔を片手で覆った。
「いいじゃん別に楽しんでたって。みんな楽しかったって言ってんだしさ」
自分が楽しんでたのが恥ずかしいのかなんなのか分からないけど、少し微妙という顔をしていた。けど、一息つくなり
「まぁ、それもそうか……正直少し、楽しかったよ」
と言っていた。それを聞いたひなみが、今日一の笑顔を見せていた。
「兎夜、ありがとうな、急に呼んだのに来てくれて」
「いやいや、全然いいけど、なんかもっと普通に呼んでくれる? 助けてくれなんて言うからほんとに心配した」
「それはすまなかった。けど、他に言葉が浮かばなくて」
「にしても、そんな死にそうな言葉選びするなよな。心臓に悪いって」
「す、すまん……」
本当に、電話かかってきた時は死ぬほど焦った。けど、結果的にこんな感じで済んでるから、結果オーライだ。
「またなんかあったら誘ってよ。普通に遊びに行くくらい全然できるからさ」
そういうと、雷斗は口元に手を当てて、少し考えるようなポーズをとった。
「……気が向けばな」
まぁ、これがあいつなりのわかったなんだろうと捉えて、その日は帰ることにした。
一週間後、俺はまた家で音楽を聴いていた。歌詞をしっかりと読み込む。ここはもっと感情を表現出来れば──
トゥルトゥルトゥルン……
電話が鳴っている。先週と同じ、雷斗からの電話だった。
「はい、もしもし?」
「おい兎夜、なんか先週来てたヤツらがうちを気に入ったとか言って仲間全員連れてきたんだけど」
仲間全員を想像したらため息が出た。
「こじかと大将がまたお前とゲームしたいって聞かなくてさ」
「ゲームだったらネット繋げば出来るだろ?」
「いやそれが……人数オーバーでネット繋がらなくなってさ」
さすがに俺も頭を抱えた。けどまぁ……どうせ暇だし。
「今から準備するから、三十分はかかるって伝えといてくれる?」
「わかった、すまんな」
電話が切れる音がした。我ながら不思議だ。大勢の妖怪があの一部屋に集ってゲームをするなんていう、異様な光景に、自ら顔を出そうとするなんて、なかなかありえない。
「けどまぁ、俺もそれなりに楽しんでたってことだよな」
そんなことをボソボソと呟いて、自分の家にあるゲーム機をカバンに入れた。
「ちょっと、行ってきます」




