死とは
雅之視点です。鬱っぽいです。
「……っ!!」
ベッドを叩きつけるようにして彼は起き上がる。今日はこれで二度目か。呼吸が荒い。時期に合わず、汗までかいてしまって。
彼は、時計をチラッと見るなり、少し前かがみになって、自分の身体を抱きしめていた。齢十三の幼いその身では、耐えられぬような悪夢を見たんだろう。
「まさ……ゆき」
珍しく、彼が話しかけてきた。彼は、この時間に飛び起きても、話しかけてくることは滅多とない。
「どうした?」
僕が返事をすると、彼は、苦しそうな声で、語り始めた。
「……また、死ぬ夢を見た。今回は、杏奈が……俺を……」
あぁ、妹さんに殺されたのか。あんな幼い子に、殺しが出来るはずがないのだが、出来てしまうのが、夢なのだろう。
「俺は……あと、何回死ねばいい? 何回、失えばいい? 何度、何度……?」
あの日、彼を助けて以来、彼はずっと悪夢に悩まされ続けている。自身が死ぬこともあれば、彼の大切な人が死ぬこともある。死にはしなくても、ずっと責め立てられたり、とにかく毎晩、彼は夢に蝕まれている。
「……なぁ、雅之」
彼は、少し震えるような声で僕を呼んだ。
「……いっそ、俺を殺してくれないか」
「殺し……て?」
「俺が……俺が死ねばよかった。俺は、死んでも構わない……もう、いっそ、殺して」
「そうか」
彼の言葉を遮るようにして、返事をした。それに違和感を覚えた彼が、こちらを向こうとした。そんな彼の体に糸を絡めて、ベッドに叩きつけた。彼が驚いたような顔をしている。
「どうした? 殺して欲しいんだろう?」
彼の目からは、寝て起きた時に泣いていた涙の残りが垂れている。
「死を目前にした気分はどうだ? 僕がこの手を引けば、君の首は飛ぶ」
彼は少し震えるような状態で、目だけ動かして僕を見た。彼の鼓動の音が聞こえそうだ。
「いいかい? 君が自分のことを蔑ろにするのは構わんがね、殺して欲しいなんて二度と言うんじゃないよ。次にその言葉を口にしようものなら、僕は、ある知識全てを用いて、君を惨たらしく殺す」
「え……?」
「何故困惑している? 殺してほしいなんて言って、死ぬ気はなかったのか? 半端な覚悟で死を語るな。死が何を意味するか、他人がどう思うのか、お前は誰よりもよくわかっているだろう」
彼の鼓動が早くなっていくのが分かる。それも、あえて無視した。
「……」
「怖気付いてろくに言葉もでないか。その感覚、よく覚えておくといい」
そう言い終わるなり、彼の拘束を解いた。ピクリと跳ねるように両腕が動いて、喉が震えていた。
「もう、寝なさい。夢に蝕まれる君にとっては、酷なセリフなのだがね」
首元にだけ残しておいた糸で、彼の首を軽く絞めて気絶させる。キュッというような軽い悲鳴じみた声をあげて、彼は動かなくなった。
本来、こんな方法をとると気管にダメージが入ってしまうのだが、今回はあまり入らないよう、上手く気絶だけさせられるように手加減した。
「別に、怒りたかった訳では無いんだが……」
彼の以前を知らないから、なんとも言えないところはあるが、僕の知っている彼は、自分を蔑ろにするくせがあった。自虐程度なら誰でもあるだろうが、彼は、自身の存在そのものを否定していた。それが前々から、見ていられなかった。
彼は、僕の前では一度も、死にたいとは言わなかった。しかし、自分の命を容易く捨てるようなことを言っていた。自分を大事にしろとは、何度も言ってきたが、虚ろな目で笑って誤魔化すばかりだった。
「だったらもう、こうする他ないだろう」
彼は、昼間までずっと眠ったままだった。今日は休日らしい。もし今日が学校の日だったら、僕はわりと戦犯だったかもしれない。
「ねぇ……雅之」
ひなみが、大きなクッションに埋もれて、眠気まなこのまま、声をかけてきた。
「昨日ね、怖い夢みたの。雅之がね、雷斗のこと殺しちゃおうとする夢」
おや、見られていたか。あの時、ひなみは寝ていたはずだが……。
「雅之は、雷斗を殺したりしないよね……?」
偶然、似たような夢を見ているだけならいいのだが、もし、見られてしまっていたのなら、ひなみに可哀想なことをしてしまったかもしれない。
「そんなこと、するわけないだろう? 僕は、君らを殺すような真似はできないさ」
「だよね……よかった、夢でよかった……」
ひなみは、そのままふにゃふにゃと、またクッションに深く埋もれていった。
「……まぁ、一種の荒治療ということにしておいてくれ」




