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神無月の守護者 短編集  作者: なまこ
2期
14/22

死とは

雅之視点です。鬱っぽいです。

「……っ!!」

ベッドを叩きつけるようにして彼は起き上がる。今日はこれで二度目か。呼吸が荒い。時期に合わず、汗までかいてしまって。

彼は、時計をチラッと見るなり、少し前かがみになって、自分の身体を抱きしめていた。齢十三の幼いその身では、耐えられぬような悪夢を見たんだろう。


「まさ……ゆき」

珍しく、彼が話しかけてきた。彼は、この時間に飛び起きても、話しかけてくることは滅多とない。

「どうした?」

僕が返事をすると、彼は、苦しそうな声で、語り始めた。


「……また、死ぬ夢を見た。今回は、杏奈が……俺を……」

あぁ、妹さんに殺されたのか。あんな幼い子に、殺しが出来るはずがないのだが、出来てしまうのが、夢なのだろう。

「俺は……あと、何回死ねばいい? 何回、失えばいい? 何度、何度……?」

あの日、彼を助けて以来、彼はずっと悪夢に悩まされ続けている。自身が死ぬこともあれば、彼の大切な人が死ぬこともある。死にはしなくても、ずっと責め立てられたり、とにかく毎晩、彼は夢に蝕まれている。


「……なぁ、雅之」

彼は、少し震えるような声で僕を呼んだ。

「……いっそ、俺を殺してくれないか」

「殺し……て?」


「俺が……俺が死ねばよかった。俺は、死んでも構わない……もう、いっそ、殺して」

「そうか」

彼の言葉を遮るようにして、返事をした。それに違和感を覚えた彼が、こちらを向こうとした。そんな彼の体に糸を絡めて、ベッドに叩きつけた。彼が驚いたような顔をしている。


「どうした? 殺して欲しいんだろう?」

彼の目からは、寝て起きた時に泣いていた涙の残りが垂れている。

「死を目前にした気分はどうだ? 僕がこの手を引けば、君の首は飛ぶ」

彼は少し震えるような状態で、目だけ動かして僕を見た。彼の鼓動の音が聞こえそうだ。


「いいかい? 君が自分のことを蔑ろにするのは構わんがね、殺して欲しいなんて二度と言うんじゃないよ。次にその言葉を口にしようものなら、僕は、ある知識全てを用いて、君を惨たらしく殺す」

「え……?」

「何故困惑している? 殺してほしいなんて言って、死ぬ気はなかったのか? 半端な覚悟で死を語るな。死が何を意味するか、他人がどう思うのか、お前は誰よりもよくわかっているだろう」

彼の鼓動が早くなっていくのが分かる。それも、あえて無視した。


「……」

「怖気付いてろくに言葉もでないか。その感覚、よく覚えておくといい」

そう言い終わるなり、彼の拘束を解いた。ピクリと跳ねるように両腕が動いて、喉が震えていた。

「もう、寝なさい。夢に蝕まれる君にとっては、酷なセリフなのだがね」

首元にだけ残しておいた糸で、彼の首を軽く絞めて気絶させる。キュッというような軽い悲鳴じみた声をあげて、彼は動かなくなった。

本来、こんな方法をとると気管にダメージが入ってしまうのだが、今回はあまり入らないよう、上手く気絶だけさせられるように手加減した。


「別に、怒りたかった訳では無いんだが……」

彼の以前を知らないから、なんとも言えないところはあるが、僕の知っている彼は、自分を蔑ろにするくせがあった。自虐程度なら誰でもあるだろうが、彼は、自身の存在そのものを否定していた。それが前々から、見ていられなかった。

彼は、僕の前では一度も、死にたいとは言わなかった。しかし、自分の命を容易く捨てるようなことを言っていた。自分を大事にしろとは、何度も言ってきたが、虚ろな目で笑って誤魔化すばかりだった。

「だったらもう、こうする他ないだろう」


彼は、昼間までずっと眠ったままだった。今日は休日らしい。もし今日が学校の日だったら、僕はわりと戦犯だったかもしれない。


「ねぇ……雅之」

ひなみが、大きなクッションに埋もれて、眠気まなこのまま、声をかけてきた。

「昨日ね、怖い夢みたの。雅之がね、雷斗のこと殺しちゃおうとする夢」

おや、見られていたか。あの時、ひなみは寝ていたはずだが……。

「雅之は、雷斗を殺したりしないよね……?」

偶然、似たような夢を見ているだけならいいのだが、もし、見られてしまっていたのなら、ひなみに可哀想なことをしてしまったかもしれない。

「そんなこと、するわけないだろう? 僕は、君らを殺すような真似はできないさ」

「だよね……よかった、夢でよかった……」

ひなみは、そのままふにゃふにゃと、またクッションに深く埋もれていった。

「……まぁ、一種の荒治療ということにしておいてくれ」

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