流す。
華代視点の物語です。
1期葉月までのネタバレを含みます。
ザーンザーン。波の音が聞こえる。私は家から比較的に近い浜辺に来ていた。周りには誰もいなくて、ただ波がこちらに向かってくるだけ。それを、テトラポットに座って眺めていた。
午前2時を過ぎた頃、私は突然家を飛び出した。別に親と揉めたわけじゃない。ただ、自分の部屋っていう狭い空間にいるのがすごくいやだった。真っ暗で静かな部屋にいることが急に息苦しくなった。
日に日に近づいてくる明確な終わり。明日が輝いて見えるなんてよく言うけど、私にとって明日は……やめよう。
勢いで家を飛び出した割に、部屋着からしっかりワンピースに着替えてきた。どうせこれが最初で最後だってわかってるし、全力で楽しみたかった。私がもしお母さん達に、真夜中の海に1人で行ってくる! ……なんて言ったら絶対止められるだろうから。黙って抜け出した。バレてたら怒られるかも。
辛いんだか楽しいんだか分からないごちゃごちゃした気持ちと反対に、星は静かに光っている。さすがはド田舎、星が綺麗。
「せっかくやけん写真撮りたいな……」
ポケットを漁ったけど、スマホは出てこなかった。……忘れてきたっぽい。
「スマホ忘れるとかどんだけなん」
独りでカラカラと笑った。
しばらくすると、波が少し近づいてきた気がした。今から満潮なのかもしれない。私は、テトラポットを降りて波に近づく。途中でサンダルを脱ぎ捨てた。足が軽い。
「空、広いな。花火大会ありよる海とは少し違うにしても、こっから見る花火も綺麗やろうな」
そうだ、来年はここに来てみよう。少し早めに屋台で買い物して、とやまると……
「…………来年、なんて、ないんやった」
深夜の海に浮かれすぎた。辛いことを考えるのはやめようって、そのために来た。けど、
「……かえって辛い、かもしれん」
今年の神無月で、私は死ぬ。
これは、誰にも変えられない、決まったこと。でも、
「……最後になんて、最後になんてさせない」
とやまるは、そう言ってくれた。
嫌だった。暗いのも怖いのも死ぬのも、全部嫌だった。でも、選ばれた人はみんなそうやって、順番に死んで行った。抗おうとした人は、とても傷ついた。
「嫌、なんよ。自分のせいで、誰かが傷つくのを見るのは。もっと、嫌なんよ」
頭に浮かぶのは、私を守ろうとして傷つく大切な人達の姿。信じてないわけじゃない。けど、違う。
「無理なんよ。本当に、誰も助からんの。けど……」
自分の心の奥底、ずっと堪えてた言葉が溢れてくる。
「……最後にさせないって言って貰えて、ちょっと、嬉しいって思ってしまった」
死にたくて死ぬ人なんて、この世の中には居ない。私も、死にたいわけじゃない。涙が溢れてくる。
「私だって、生きていたいに決まっとるやん……!」
こぼれ落ちた涙は、つま先まで来ていた波にさらわれて、消えていった。下を向いたら、ワンピースのレースが海風に揺られているのが見えた。嫌なくらいに綺麗だった。
足元を波がさらっていく。少し蒸し暑い夏の空気と対称に、海の水はひんやりしていた。
「……私、とやまるにひどいことをしてしまったかもしれん」
私のために優しくしてくれたのに、私はそれを振り切って帰ってしまった。もう、会う約束すらもしてないのに。
「夏休み明け、気まずくなっちゃうな……でも」
本当はこんなこと口にしちゃダメなのかもしれない。でも、ちゃんと話そう。たとえこれが、とやまるやみんなに迷惑をかけることになったとしても……。
止まらなくて、水の波紋を作り続けていた涙が止まる。水は膝下まで来ていた。
前を向くと、もう空が明るくなって来ていた。朝が来る。風が頬を撫でて、涙が流れた跡を拭うように乾かしていく。もう、大丈夫。
登ってくる朝日に背を向けて、放り投げたサンダルを拾って砂浜を歩く。もう、涙も気持ちも海に流した。大丈夫。
朝の涼しい風に背中を押されて、私は家に帰る道を辿った。不安や恐怖はもう、どこにもなかった。




