三話
リビングに行くと、そこには食い入るように猫を見ている朱里の姿があった。
ネコが好きなのか。 可愛らしい所もちゃんとあるんだな…。
「猫が好きなのか?」
「ま、まぁそうだけど」
照れているようで少し頬を赤らめているのが見える。
……これは照れるのかよ。
「もしかして飼いたいとか?」
「別にそこまでじゃないから」
朱里はそっぽを向いた。
おお? これは正解か? 相変わらず反応がめちゃくちゃわかりやすい。
「あーあ、そうなのか。 でも俺は飼いたいなぁー、(チラッ)」
「飼えばいいんじゃない?」
そっぽを向いたまま突き放すように言われた。
「でも朱里は嫌そうだしなぁー、(チラッチラッ)」
「別にそうは言ってないけど」
ギロリと睨まれてしまった。
眼力強いよォ。 なんでそんなに睨むの? 俺のハートはガラスレベルだから取り扱いには気をつけてよね!
「朱里はどうしたい?」
「私は…飼いたいな」
聞きたいことは聞けた。
ならば行動に移すだけだ。
「OK両親には俺が交渉するから、朱里はどんな猫がいいか決めといてくれ」
心なしかキラキラとした目を向けられる。
そう、これが欲しかった。
言葉にすればこうだろうか、「お、お兄ちゃんありがとう! 私嬉しいっ!」。
不純な動機だが、写真ばかり見ているのを見ると実物を触らしたくなる。
最近始めたバイトでお金を少し持っているから、それでネコのおもちゃとかを買えればいいな。
両親が帰って来たのを確認すると、俺はお願いしてみる。 すると意外にも簡単にOKを出してくれた。
「でも、ちゃんと自分達でお世話するんですよ?」
「自分達?」
疑問にに思ってそう聞くと、義母はくすくすっと笑った。
「昔から朱里は猫が好きでしたからね。 今は少し余裕があるので聞けなかった分のわがままを聞いてあげたいんですよ」
ゴッドマザーだ。
な、なんだこの母親は。
もはや神や仏の域だ。
はっ、まさか神話の神は母親だった!?
「ありがとうございます」
「いえいえ、それに私に敬語は必要ありませんよ?」
え? でも奥さん、あなたも敬語でっせ?
「私はこれが素ですから」
そですか。
俺も素ですよ、おそろいですねって言ってやりたいが違うので言えない。
「じゃ、じゃあ、ありがとう。 大切に育てるよ」
「はい。 他に何かありますか?」
首を振ると、そのままお別れをする。 クルリと後ろを見ると、そこには少し顔を出し、こちらに目を向ける朱里がいた。
俺は朱里にグッジョブすると、グッジョブが帰ってきた。
そのまま合流し、とりあえず俺の部屋に行く。
俺はベッドに座るが、朱里はなかなか椅子に座らない。
もしかして俺の座ってる椅子は嫌だった!?
これが噂に聞く反抗期、か。
「その、ありがとうお兄ちゃん」
「あ、ああ。 どういたしまして」
朱里の頬を赤くし、照れた様子にこちらも少し恥ずかしくなる。
そのお礼を聞くために頑張ったんだぜ…。
はっ、お礼のために頑張る姿、もしかして俺はヒーローだった?
いや、そもそもヒーローはお礼のために動くんじゃなかったか。
なんて思っていると、朱里がだんだん近づいてきた。
そして俺の両肩を掴むと、そのまま押し倒される。
「お、おいどうした?」
俺に跨り、どこか潤んだ瞳を向けられ動揺してしまう。
まさか俺、襲われてる!?
兄妹で不純なこと、お兄ちゃん認めませんよ!
「な、なぁ落ち着こうぜ。 俺たち兄妹だろ? 兄妹でこんなこと」
「私たちに血の繋がりはないから大丈夫だよ。 それに、知ってる? 昔は兄妹でもOKだったんだよ…」
朱里はそう言うと顔を近づけてくる。
雰囲気に呑まれ、そのまま受け入れそうになるが理性がストップをかける。
「な、やめよう。 兄妹だし、それにこういうのは恋人になってからじゃないと」
するとどこか苛立ったような表情を向けられる。
え、お兄さん、怖いのは駄目なんですけど。 抵抗するの怖くなってきたんですけど。
「お兄ちゃんは私が恋人にじゃ駄目? 私はお兄ちゃんのこと好きだよ…」
好きと言われて胸の鼓動が高まる。
しかし、俺はそんな目で朱里を見たことはないし、ましてや恋をしてるわけじゃない。
雰囲気で流して後悔するのは嫌だった。
「俺はそんな目で朱里を見たことはない。 それに朱里も俺を兄として好きなのかもしれないだろ? せめて、お互いが恋だと認識してから付き合おう」
朱里は膨れっ面を作る。
可愛らしい姿だが、やはりそこには妹としての感情しか湧かなかった。
「私は女として好きなのになぁ。 そんなに意地張ってるから友達出来ないんだよ」
「それは余計だよ!」
唐突な言葉の暴力反対! 次やったら裁判に訴えてやる!
「まぁ、いいや。 なら、お兄ちゃんをわたしに惚れさせればいいんでしょ? なら余裕だね」
余裕…だと?
なんてこと抜かしやがる。
舐めるのも大概にせぇよ!
俺の心はガラスのハート、しかし既に固まったガラスはそう簡単に変形しない!
だからって叩いたりはしないでよね!
「俺が妹に惚れるわけないだろ。 諦めて他を探せよ」
「い、や、だ♡」
「き、きめぇ」
つい思ったことを口に出してしまう。
聞こえていたようで、朱里の口の端がつり上がった。
まさか、ドMだった!?
なにをするのかと戦々恐々としていると、朱里はその場で腰を揺すり出した。
「お、おいバカふざかるな! 不順異性行為反対! てか、降りろ!」
「やだ、強引」
こいつ、さては痴女だな!
実在したとは。
今の今までえろ本の世界にしか存在していないと思ってたぜ。
俺は朱里を下ろすと、急いで部屋から飛び出す。
こうなったら、神(お母さん)に言いつけてやる!
やーい、お前ん家ー、ちーじょすーみやーしきー。
ダメじゃん。
俺の家に痴女が住んでいるのをただ叫んでるだけじゃん。
それから日に日に朱里の手を出す量は増えていた。
これが今から少し前のできごとだった。