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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪魔は、転生令嬢と末長く幸せに暮らしました。

「うわぁ、可愛いワンちゃん。モフモフだわ」

 

 木の下に突っ立っていたその娘は、俺を見てそう言った。

 

 年の頃は、15歳くらいだろうか。茶色の長い髪に大きな緑の目のとても愛らしい顔をした娘だ。 

 俺は、貴族の屋敷の裏庭に出たつもりだったが、娘の着ている服は、貴族のものにしては、みすぼらしかった。おそらくシルクのドレスなのだろうが、黄ばんでいるし、かなり着古したもののようだった。

  使用人の娘か‥‥‥?そう思いながら、俺は、娘を見上げた。


「ワンちゃん、どうして、ここに来たの?」

 

 娘は、しゃがんで俺に手を伸ばした。


 俺は、『ワンチャン』なんて、名前で呼ばれたのは、初めてだった。


 この世界では、俺みたいに黒い毛で、猫より少し大きくて、キツネみたいに鼻が長いフサフサの尻尾がある動物は、『悪魔』と呼ばれているんだ。

 最も、この姿は人間界での姿で、本当の姿は別なんだがな。


 『悪魔』の大好物は、黒く汚れた魂だ。この世界で言うと、特に貴族の魂が美味い。

 この世界の貴族ってやつは、平民より魂が汚い。人を陥れたり、簡単に殺したり‥‥‥大抵の貴族達は、平民より欲深いから、魂が汚れている。

 

 だが、この娘の魂は、透き通っていて、とてつもなく綺麗だ‥‥‥。だから不味そうだし、俺には食べられないから、さっさと他の場所に移動するとしよう。

 

 転移魔術を発動しようとすると、今まで感じたことのない温かいものが、俺の頭に触れた。初めての感触に、俺は思わず目を閉じた。


 恐る恐る目を開けると、しゃがみこんだ娘が、俺の頭を撫でまわしていた。


 「やめろ」と言葉を発するが、この体では、その言葉は「キューン」という動物の鳴き声になる。その声を聞いた娘は、微笑んで、ますます俺の体を撫でた。

 それは、ムズムズとする慣れない感触だったが、娘の手の温かさは、心地良かった。


 少しの間、娘のされるがままになっていたが、腹が減ってきた。

 よし、せっかく100年ぶりの食事なのだから、汚れた美味しい魂を探しに行こう。そう思い、再び魔術を発動させようとした時、今度は、俺の頭に何か冷たいものが降ってきた。


「ワンちゃん…‥‥、私、屋敷に入りたくない。裏庭に隠れて、時間をつぶしていたのだけど、そろそろ帰らないと、ダメよね‥‥‥」

 

 冷たいものは、娘の涙だった。さっきまで、俺を撫でまわしていた手で、娘は自分の涙をぬぐっていた。


 『悪魔』は、人間界に来ることは滅多に無い。1人分の魂を食らえば、100年は腹がいっぱいだし、人間界に出て来ても、人間は弱すぎて退屈しのぎの喧嘩相手にもならない。

 大抵の悪魔は、魔界にやってくる勇者だか救世主の相手をして暇をつぶしたり、天界の天使にいたずらをしたりして、魔界で過ごしている。


 悪魔は魔界、天使は天界に住んでいる。人間達は、俺達を悪者扱いするが、神によって与えられた仕事で住む場所を分けられただけで、俺達は、元々は同じ神の使いだ。

 本来の姿も、悪魔と天使は同じ姿だ。だが、人間を導く為には、姿を変えたほうが分かりやすいだろうと神が言ったから、悪魔は、黒い動物の姿で人間界にやって来るようになった。


 悪魔は、100年に1度、人間の汚れた魂を食い、世界のバランスをとる。汚い魂の奴らが増えると、世界が滅亡する可能性があるからだ。

 天使は、綺麗な魂を持つ人間に守護を与え、聖女や賢王にすることによって、そいつらに世界を良い方向に導かせる。

 ちなみに稀に魔界に来る天使がいるが、そういった天使は、悪い奴を罰したい(食らいたい)と思う正義感が強い奴が多いかな。

 あと、たまにとんでもない暴君や狂人が世界に現れたりするが、ああいう奴の魂は、予め神が、悪魔に食われないように細工をしている。それは、神が人間の文化や文明の進化を促す為に敢えて行っているらしい。まぁ、神のご意志ってやつだ。

 

 俺は、100年前ぶりに久々の食事にやって来たのだが、この娘の魂は、本当にダメだ。魂が綺麗な上に、俺への恐怖も無い。

 悪魔にとって、人間の恐怖でゆがむ顔や、死にたくないと泣き叫ぶ顔を見ながら食らう汚い魂が、一番、美味しいものだからな。


 さて、どうしたものか‥‥‥。さっさと立ち去りたいが、娘が、俺の急所の尻尾を触りながら、さっきよりも、激しく泣きだした。


「あのね‥‥‥、ワンちゃん、私、今日、久しぶりに城へ呼ばれて、アベル王子に会ってきたの。そしたらね‥‥‥婚約破棄と言われたわ…‥‥。私、気持ちが悪いんだって。彼が知らない技術や食べ物の話をするからだって‥‥‥。気持ち悪いし、妹につらく当たるような女は、心が汚れているから、王妃には相応しくないのですって‥‥‥。私、妹につらく当たったことなんて、ないのよ。

妹のほうが、私に意地悪で、私の持っているドレスは、妹が着古したものだけだわ‥‥‥。ううん、違う、別に妹が悪いわけじゃない。彼、私のこと…‥‥、好きじゃなかったのよ。ただ、私は彼と年が近い公爵家の娘で、王様が婚約者と決めただけ‥‥‥」


「クゥン‥‥‥」

 

 娘の話は、俺には興味がないものだった。話の途中で、俺は無性に腹が減ってきた。

 「もう行くぞ」と言ったつもりだったが、この姿では、俺は話せない。本来の姿になったほうがいいかなと考えてると、俺の尻尾をまた娘が触り始めた。


「きっと‥‥‥、お父様とお義母様は、怒っているわ。また、ぶたれるかもしれない‥‥‥。私の価値は、王子の婚約者に選ばれたことだけだって、普段から言われているから‥‥‥。私ね、お母様が亡くなった後、お父様が再婚して、妹とお義母様がこの屋敷に来てから、ここ何年も、食事の時は、1人なの。お父様とお義母様と‥‥‥妹は、一緒に食べているのに‥‥‥」


「キューン」


 「おい、尻尾を放してくれ」そう言ってみるが、娘は、俺が娘の話を聞いていると思ったようで、また話始めた。


「ワンちゃん、私の話がわかるの?賢い子ね。あのね、お父様は、私のお母様と結婚する前に、お義母様(あの人)と結婚の約束をしていたんですって。‥‥‥妹は、私が生まれた少し後に、お義母様(あの人)との間に生まれたのよ‥‥‥。私、いらない子なの‥‥‥」

 

 なんと愚かな親と王子なのだろう。

 ここまで綺麗な魂の娘は、滅多にいない。もう少ししたら、天使の守護が与えられ、娘は聖女となる。聖女がいる間は、国が栄えるだろうに‥‥‥。当然、家にも恩恵があるに違いない。


 ふと、気がつくと、あたりが暗くなってきている。

 早く魔界に帰りたいし、この娘の屋敷でその馬鹿な親の魂でも食らうか、そう思い俺は、「早く行こうぜ。」と屋敷のほうを見て言った。


「クゥン、クゥン‥‥」

 

「ワンちゃん、お腹すいたの?怒られるかもしれないけど‥‥‥、今日は、私の食事を分けてあげるわ。いつまでも、ここにいる訳にもいかないし‥‥‥、とにかく、何を言われても、婚約破棄のことをお父様とお義母様に、説明しないとね‥‥‥。」


 俺は、娘に抱きかかえられて、屋敷に入った。

 怒り狂った親でも立って居るかと思ったが、楽しげな声が、料理の匂いと共にダイニングルームから漏れている。

 その声を聞いて、娘は俺を抱いたまま、足を止めた。


「よくやったルナ、見事にアベル王子のお心を掴んだな。私からは、リーナより下の娘が可愛いから、婚約者を変えてくださいなどとは、言えないからな‥‥‥。」


「ウフフ‥‥‥。悲しそうな顔をして、リーナお姉様にいじめられている、と言ったら、アベル王子は、とても優しくしてくれました。それに、お姉様より、ルナのほうが、美しいですって。今度、素敵なドレスもプレゼントして下さるそうです。お姉様、アラン王子にも、自分は違う国の記憶があるって言っていたそうですよ。訳の分からない話をする女より、可愛らしく笑うルナのほうが、良いのですって‥‥‥。あぁ、早く婚約式の日取りが決まらないかしら‥‥‥」


「ルナは可愛らしいから、アベル王子も幸せでしょうね。最初から、ルナが王子の婚約者だったら、よかったものを‥‥‥。あんな変な娘、私は、もう顔も見たくありませんわ。熱い湧き水を引いて、風呂を作りたいだとか、化粧室に水を流したいなどと訳のわからないことばかり言って。

この前など、貴族だからと言って、使用人を殴るのはおかしいと、私に抗議をしたのですよ。もちろん、頬を叩いて、間違いを正してやりましたわ。」


 どうやら、娘の家族のようだ。漏れてくる話を聞いて、俺は、この3人の魂が美味いに違いないと思った。

 「よし、いただくぞ」と叫び、俺は娘の腕の中から飛び降りて、部屋に駆け込んだ。


「ワンッ」


「あ、ワンちゃん、ダメよ、私の部屋に隠れて‥‥‥」


「キャー、悪魔!」


 俺を見るなり、金髪の派手に着飾った娘が叫ぶ。これが、娘の妹だろう。

 テーブルの中央に座るでっぷりとした男が父親で、その向かいに座っている濃い化粧の女が義母だな、そう思いながら、俺は、部屋の中を見渡した。

 どうやら、食事中だったみたいだ。3人とも、驚きのあまり、スープをこぼしたり、肉を突き刺したフォークを床に落としたりしている。


 これだよ、この恐怖にひきつる顔‥‥‥。3人とも魂が真っ黒だし、美味そうだ。俺は舌なめずりをした。


 「リーナ、お前、悪魔と契約したのか!‥‥‥生まれた時から、違う世界の記憶があるとかおかしな事を言っていたが、お前…‥、魔女だったのか!それとも、元々、悪魔か…‥!」


 でっぷりとした男が、椅子の上で喚く。

 どうやら、動くこともできないほど、俺が恐ろしいようだ。


「お父様‥‥‥。違います。この子は、裏庭でみつけたのです。それに私、日本という国の前世の記憶があるだけで‥‥‥」


 おお、娘は、転生者か。俺は、やっと気が付いた。俺の姿を恐れないのもそのせいか。

 そう思いながら、娘を見上げると、娘は泣きそうな顔をして、3人を見ていた。


「ひいぃ!こっちを見ないで、この悪魔!」


「お姉様、王子は返すから、殺さないで‥‥‥!」


 それぞれ、必死の形相で、喚いている。

 あぁ、いい顔だ。もう、我慢できない‥‥‥、娘も、思いつめた顔で立って居るし、もう、いいだろう‥‥‥。そう思い、俺が、魂を吸い込もうと口を大きく開けた時、娘が叫んだ。


「お義母様、ルナ、落ち着いてください。何をおっしゃっているのか‥‥‥。先ほどの話だと、ルナとアベル王子は、婚約するのですね?じゃあ‥‥‥、私は、この家から、出ていきます。前世の記憶があれば、街で仕事もできますし‥‥‥」

 

 俺は、ふぅ‥‥とため息をついた。

 やっぱり、綺麗な魂の人間が考えることは、よくわからない。


  汚れた魂の人間であっても、聖女の意志に反して、魂を食らう(殺す)と、神のご意志に背いたとか文句を言いながら、天使が攻撃してくることがある。

 特にこの娘は、あまりこの世界にはいない転生者らしいから、ますます神のご意志ってやつを感じるな。

 

 この娘は、まだ聖女じゃないが、稀に見る綺麗な魂だ。天使達がもう目を付けているかもしれない。ここは、ぐっと我慢して、神のご意志通り、進めるとしよう。


 とりあえず、こいつらに分かるように言ってやらないと‥‥‥。

 俺は、魔力を自分の周りに溜めると、目を閉じた。

 

 目を開けると、高くなった俺の視界に白い顔をした3人が、声を出すこともできずに歯をガチガチと言わせている様子が入ってきた。


「おい、お前達…‥‥、とりあえず、俺は、腹が減っているし、久しぶりの人間界で疲れた。今夜は、ここで寝るから、邪魔をするな。あと、この娘ではなく、お前達がこの屋敷から出ていけ。そうそう、屋敷にあるものは、すべて置いて行けよ。どうせ、屋敷以外にも隠してある財産があるから、困らないだろう?あとは‥‥‥、俺が明日、目覚める前に出発しておくように。朝一で空腹だと、寝ぼけてお前達の魂を食ってしまうこともあるからな‥‥‥」


 俺は、黒い獣の姿から、本来の姿に戻って、震えている3人に言った。


 とりあえず、今晩の寝床と娘の住む場所は、確保した。

 住むところを無くした聖女が、身を売ったりして魂が汚れてしまうと、天使が束になってやって来る可能性があるからな。


「天使様‥‥‥。私の為に、来てくださったのですか‥‥‥。黒髪のなんて美しいお姿‥‥‥。黒いローブでも、神々しい‥‥‥」


 ふと、娘を見ると、潤んだ目で、俺を見つめていた。頬も何故か真っ赤に染まっている。

 今の俺の話を聞いていたのかいなかったのか、娘の目は、俺だけを見ていて、まるで夢でも見ているような様子だ。

 まぁ、天使と悪魔の本来の姿は同じだからな。間違えるのは仕方がない。しかし、さっきの『ワンチャン』と随分、俺を見る目が違う気がする。


「‥‥‥とにかく、寝るぞ。ベッドはどこだ」


「はい‥‥‥。ご案内します」


 俺は、魂が抜けたようになっている3人をギロリと睨み、ダイニングルームを出た。

 娘は、3人の様子は視界に入っていないようで、俺を見つめたまま、後をついてきた。



 しばらく、ベッドの用意をするというので来客用の部屋で待っていたが、娘が来て、今度は自分の部屋へと俺を案内した。


「‥‥‥お前のベッドで寝るのか?」


「天使様、申し訳ありません…‥。使用人が、何故か全て帰宅してしまって‥‥‥、その上、何故かお父様とお義母様、妹までも出かけてしまったようで‥‥‥。シーツを探したのですが、私では、どこにお客様用のシーツがあるかは分からず‥‥‥」


 娘は、困惑している様子でそう言った。

 

 ‥‥‥うん、やっぱり、さっきの俺の話は、聞いてなかったな。

 転生者には、俺が姿を変えたのが珍しいことなのだろうか?


 自分のベッドを使えと言っているが、俺に身を捧げるとか、俺を誘惑して要求を叶えようという訳でもなさそうだ。しかし、美しい娘だから、いざ一緒に寝るとなると、そそられる‥‥‥。だが、ここで己の欲求に負ける訳にはいかない。娘の体を汚すと、天使に報復されるかもしれない。

 仕方が無い、『悪魔』の姿のほうで寝るか。


「ワンちゃん‥‥‥!い、いえ‥‥‥天使様!」


「ワンッ。ワンッ」


「お前も、同じベッドで寝ても構わないぞ。」と言い、俺は、娘のベッドで丸くなった。


「ワンちゃん‥‥‥、モフモフだわ…‥」


 娘は、俺を撫でまわしながら、眠りについた。






 翌日、俺は、何時になく安らかな気持ちで目覚めた。

 これが、聖女の力ってやつなのか‥‥‥?と思いながら、娘の寝顔をしばらく見つめた。しかし‥‥‥、腹が減った。


「ワンワンッ」


「ん‥‥‥、おはよう、ワンちゃん」


 「おい、起きろ」という俺の声で、起きた娘は、起きるなり俺の頭を撫でた。


「あ、いけない。天使様、申し訳ありません。私、前世で犬を飼っていて、毎晩、一緒に寝ていまして‥‥‥」


 娘は慌ててベッドを出て、朝の支度を始めた。


 屋敷の中には、誰もいないようだ。いくつか部屋も覗いたが、衣裳部屋にはドレスがそのままだし、娘の義母の部屋と思われる部屋には、高価そうなネックレスや指輪がそのまま置いてあった。

 よし、とりあえず、これで、聖女が身を売ることはなくなった。住むところさえあれば、大丈夫だろう。


 ‥‥‥あとは、俺の食事だな。昨日、娘が話していた王子の魂は汚れていそうだ。100年ぶりの食事は、そいつの魂とするか。


「ワン、ワンッ」


 俺は、「そうと決めたら、行こうぜ」と娘に声をかけて、スカートを引っ張った。


「ワンちゃん、スカートの裾を引っ張ってはダメよ‥‥‥。あ、ダメです、天使様」


「ワンッ」


「よし、行くぞ」と娘に声をかけ、俺は、転移魔術を使う。

 娘の思念で、城の場所は割り出せたから、訳もなく移動できるだろう。






「リ、リーナ‥‥‥、どうやってここへ‥‥‥。はっ、黒い獣!婚約破棄をされて、気でも狂ったか!悪魔と契約を交わすなぞ‥‥‥!」


 俺達は、城の庭で剣の鍛錬をしていた王子の元へ着いたようだった。周りには、側近や使用人達がいたが、ギャーギャーと喚かれるとうるさい。俺は、王子以外の人間を魔術で眠らせた。


「ウーッ、ワン、ワンッ!」

 

 「悪魔は、人間と契約なぞしない。魂を食うだけだ」 そう言ってから見た王子の魂は、権力への執着と浮気心で真っ黒だった。

 なんて旨そうな魂だ‥‥‥、俺は、その魂にむしゃぶりついた。

 

 一瞬にして、王子の体は抜け殻となり、その体は、地面の上に横たわった。


「天使様…‥‥、一体、何を?」

 

 魂は、人間には見えないから、娘には、俺が王子に向かって、深呼吸でもしているように見えたのではないかと思う。


「クゥーン。クゥーン」


 「魂を食ったんだ。美味かったぞ」と説明してやるが、俺は、そこで気が付いた。

 もしかして、王子を殺したのは聖女の意志に反したことになるのか…‥。いや、それよりも、聖女候補の婚約者でこの国の王子の魂を食べてしまったのは、まずかったかもしれない。


 この娘が王妃かつ聖女なら、この国は、栄えるだろう、つまり‥‥‥、この娘を王妃にして、この国を栄えさせるというのが、神のご意志だったかもしれない。


「もしや‥‥‥。天使様、私の為にアラン王子に天罰を‥‥‥。いけません、そんな、私ごときの為にお力を使われるなんて‥‥‥」


 娘は、潤んだ目で、俺を抱き上げた。

 娘の腕の中は心地良いが、俺は、困惑していた。さて‥‥‥、どうしたものか。


「キューン」


 「げ、まずい」俺は、つぶやいた。

 

 娘の魂は、少し汚れてしまったようだ。‥‥‥王子が死んだせいか、浮気心で少し黒ずんでいるぞ。

 ‥‥‥どういうことだ?


 ええい、仕方が無い。

 これでどうだ、と俺は、王子の容姿に擬態した。変身の魔術ってやつだな。そして、王子の姿で、娘の前にひざまずいた。

 俺が、王子になって、この娘と結婚して国を栄えさせれば、神のご意志通りだろう、娘の浮気心も消えるかもしれない‥‥多分。

 

 それに、王子と結婚すれば、この娘も幸せな一生を送れるわけだし、本物の王子は死んだが、納得するだろう。そうだろ、と言うように、娘の目をみると、娘は何故だか顔を真っ赤にしている。


 「‥‥‥天使様‥‥‥、私の為の気持ちを静めるために、そんなことまで、して下さるのですか‥‥‥。でも、私、貴方に惹かれています…‥。あの神々しいお姿‥‥‥、はっきりと目に焼きついております‥‥‥」


 ん‥‥‥。王子の姿は、好みじゃないのか‥‥‥。仕方が無い。じゃあ、本来の姿に戻るとするか。


「天使様‥‥‥。素敵です」


 そう言って、娘は、本来の姿に戻った俺を、うっとりとした目で見た。


 とりあえず、俺の姿が王子に見えるように他の奴らには、魔術をかけておこう。いや‥‥‥、この国全体にかける必要があるか。やれやれ、と思うが、神のご意志の為だ。仕方が無い。


 「あの‥‥‥、できれば、たまにワンちゃんの姿になっていただけると、嬉しいです。あのモフモフに、触りたいです‥‥‥」

 ふん‥‥‥、魂が汚れると要求が増えるもんだな。でも、撫でられながら眠るのも、悪くない。


 俺は、うなずいて、娘の前で片膝をついた。

 俺が娘の出した手に口づけをすると、娘は、とても可愛らしく笑った。





 俺と結婚した娘は、早速、日本とかいう国で食べていたとかいう料理や、奇妙な道具を国に広めた。

 結果、野菜中心の健康的な料理で国民の病気が減ったみたいだし、トイレの水が流れる道具で、街が清潔になった。

 

 相変わらず、娘の手で撫でられるのは気持ちがいいし、俺も、なんだかんだ政治ってやつをやっている‥‥‥。半年後には、子供も生まれるらしい。

 まぁ、相変わらず、娘はうっとりした目で俺を見つめてくるし、次に腹が減るまで、ここに居ようと思っている。


 天使達は、1度やって来て、綺麗な魂を失ったことに酷くがっかりしていた。だが、聖女がいなくても国が栄えれば、問題ないんじゃないかと言っていた。

 この世界のどこかの国で、暴君が出現して、好き勝手に人を殺しているらしいから、多分、バランスはとれているだろうとも言っていたな。


‥‥‥という訳で、物語の最後は、こう締めくくることにしよう。


 悪魔は、転生令嬢と末永く幸せに暮らしました。

読んでいただき、ありがとうございました。


※(2020.7.3)句読点と改行位置を変更しました。内容は変えておりません。

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