7 灼熱百目迷宮、二階層
灼熱百目牙芋虫の群れを見つけたら、そいつらに向かって歩く。
群れが僕にかみつき終わったら、チャージしてまとめて倒す。
腹が減ったらドロップした芋虫肉をその辺の溶岩で焼いて食って、そしてまた灼熱百目牙芋虫を狩る――。
夢中だった。
夢中になって、ダンジョン内を歩き回った。
探索の中で、階下に降りる階段を見つけたけれど、無視した。
下は芋虫以外も出る可能性が高い。
だから、まずはここでレベル上げだ。
レベルが上がれば上がるほど、力のステータスも上がっていき、それに応じてチャージ時間を減らしても狩れるようになっていった――といっても、最低十分以上はチャージが必要だったけれど。
芋虫以外出現しないことを確認した僕は、調子に乗ってダンジョン内で寝たりした。
溶岩で窒息死しないよう気を付ける必要はあるけれど、芋虫の攻撃ではなにも感じない。
――僕の場合、外や街で寝て人間に襲われる方が怖い。
そして、まる一日が経過したころ、僕のステータスは大きく変化していた。
【”大物狩りのミノタウロス”伊奈莉愛】
《ステータス》
●レベル:65
●HP :2498
●MP :66
●力 :7
●魔力 :7
●防御 :7
・火耐性:8996
・水耐性:2
・木耐性:2
・光耐性:2
・闇耐性:2
●素早さ:7
※未使用ボーナスポイント:320
《スキル》
・『チャージアタック』 取得条件:ミノタウロスレベル1
・『スタンプ』 取得条件:ミノタウロスレベル5 力5以上
・『ビッグ・ワン』 取得条件:称号”大物狩り”装備時使用可能
《装備》
称号:”大物狩り”
武具:なし
防具:なし
アクセサリー:なし
《アイテムボックス:最大枠50》
・初心者セット
・灼熱百目牙芋虫の肉
・灼熱百目牙芋虫の牙
……残りのアイテムボックス内は肉と牙がみっちり詰まっているだけなので割愛する。
それはそれとして、レベル上げに励んだ結果、あることがわかった。
どうやらこのゲーム、ステータスの大元となる基礎値(便宜上こう呼ぶことにした)にボーナスポイントを加算していくらしい。
そのため、ポイントを振ったか振ってないかで、大きく成長に差が出てくるようだ。
「……レベル66なのに力7だもんな」
スキル『スタンプ』の取得条件を見る限り、本来は『バランス型』等の指向性キャラメイクを用いて振られたステータスは、レベル5前後の段階で力5を達成するようなバランスで設定されているのだろう。
ボーナスポイントを振ることを前提にしているから、振っていないステータスは低くなるようだ。
特に耐性値はレベルアップによる上昇倍率がすこぶる低いらしく、たったの1しか上がっていない。
そういうわけで、火耐性極振りの僕はもうなんだコレバカじゃねえのと笑ってしまうアンバランスなステータスとなってしまった。
レベルは高いけれど、おそらくレベル10かそこらのプレイヤーに力比べを挑んでも、普通に負けてしまうだろう。草。
ちなみにボーナスポイントにはまったく手をつけていない。
この先の階層で危機に陥ったときとか、必要なタイミングで使いたい――そう考えている。
おそらく、キャラメイク時に使った100ポイント同様、基礎値に加算されるはずだ。
振れば一気にステータスが伸びる可能性もある。大切に使おう。
そう、僕の中で、次の階層に潜ることは確定事項となっていた。
ここは絶好の狩場であり、もはや僕のホームと言って過言ではない。
外敵たるNPC、PCを寄せ付けず、けれど僕には安全で、ごはんも芋虫が供給してくれる。
火耐性極振りの僕が、奇跡と勘違いによって手に入れたセーフルーム。
それがここなのだ。
喜多代の言うとおり、セーフルームは大事だったわけだ。
しかし、今後、多くのプレイヤーが対抗手段を得て、このダンジョンに潜るようになるだろう。
火耐性100はバカのする行いだとしても、《溶岩》は《水乗火》特性を持つスキルで無効化可能だと書いてあった。
《水乗火》特性というものがなにかは知らないけれど、火耐性100の代わりになるようなものだろう。
火耐性100に満たないものが、つまりそれ以外のステータスにもちゃんとポイントを振ってある奴らが、僕のセーフルームを侵しに来る未来が見える。
とてもこわい。
だから、僕はとにかく力をつけなければならない。
外敵どもに対抗するために、力を――。
いや、喜多代のように敵ではないものもいるけれどね。
だけど、大多数が敵であることは間違いがない。
ひとまず、灼熱百目牙芋虫を狩り続け、やつらよりひとつ高いレベル81まで上げるつもりだ。
がんばるぞー。
●
デスゲーム化してから六日目。
一度もダンジョンの外へ出ることなく、僕はレベル81へと到達し、そして予想通りそこからレベルが急に上がりづらくなった。
やはり、自分よりもレベルが低い相手からは、ほとんど経験値を得られないようだ。
ちなみに火耐性は12291。五桁超えちゃったよ。
芋虫の肉をその辺の溶岩でジュッてやって食べると、気合いを入れて階段を下りた。
ワクワクしてきた反面、不安もある。
灼熱百目牙芋虫がレベルのわりに弱かったのは、ノックバックつきの溶岩弾を持ち、地形ギミック《溶岩》と組み合わせて戦うという凶悪な仕様だからだろう。
が、階下はレベル相応に強いモンスターが出てくるはずだ。
気を引き締めていかないと、死ぬ。
死んだら死ぬのだ。
当たり前のことだけれど、このゲーム異世界で死んだら、僕の魂はありとあらゆる繋がりが断たれて消滅する――それだけは避けなければならない。
ドキドキしながら降りた先は、一階層と変わらずマグマが光り輝く安心感のある地獄だった。
――いや、安心感のある地獄ってなんだ?
ともかく、僕はほっとした。
《溶岩》があれば、あらゆる攻撃が火属性になって、僕の受けるダメージはかなり軽減されるはずだから。
でも、なんだろう。上の階層よりも、マグマの輝きが強いような気がする。
システムメッセージ:『地形効果《溶鉄》発生中!』
お。ということは、上よりも効果が高いのかな。《溶鉄》を注視する。
『《溶鉄》地形では防具、およびHPが毎秒5%ずつ減少します。これらは火耐性100以上、あるいは《水乗火》特性を持つスキルによって軽減でき、火耐性1000以上で無効化が可能です。また、地形内で発生するすべての攻撃に火属性と特性《火剋金》が付与されます。』
「わお……」
なんということでしょう。
二十秒で人が死ぬ空間だぞ、ここ。
しかしながら僕は火耐性1000どころか火耐性10000オーバーなので、上と同じく快適空間と言える。
地形だけは。
問題はモンスターのほうだ。
どんなモンスターが出てくるのだろうか。
恐る恐る足を進める。
進めるたびにじゅわじゅわと足元から音が鳴る。
僕は無傷なんだけど、割と正気じゃない光景だな、コレ。
洞の左側の壁にくっついたまま、探索を続ける。
さて、鬼が出るか蛇が出るか――。
結論から言うと、鬼が出た。
下半身に袴を履き、筋骨隆々な上半身を晒した鬼が。
体中にびっしりと目玉が埋め込まれていて、立派な角を額から二本生やしている。
「こわ……どういうデザインだよ……」
見つめれば、『灼熱百目鬼 レベル:90』と表示が出る。
レベル差は4。
見つめたせいか、鬼は僕の存在に気づいた。こちらに足を向けて、のしのしと歩き出す。
戦闘になるだろう。
僕は念のため、ひとつのスキルを用意する。
「――《ビッグ・ワン》発動」
光の膜が発生し、僕を包み込んだ。
先日取得した称号”大物狩り”は、自分より10以上レベルが高い相手を倒したときに手に入れられる称号だ。
称号欄に装備している間、一日一回だけ、自身の持つMPすべてを消費してスキル《ビッグ・ワン》を発動できる。
ぐぉお、と鬼が唸りながら僕に近づいてくる。
――近づいてきて初めて気づいたけど、この鬼、思ってたよりもデカい。僕の倍くらいはある。
三メートルあるんじゃないか?
そんなバカでかい鬼が拳を振り上げ、振り下ろした。
僕の頭と同じくらい大きい握り拳が、ハンマーのように僕の脳天に向かってくる。
大丈夫だとはわかりつつ、僕は目をぎゅっと閉じて待った。
――頭蓋のてっぺんが軽く叩かれる感触があった。
……恐る恐る、目を開ける。
僕は無傷だ――そして、鬼は不思議そうに首をかしげている。
光の膜がまだあることを確認し、ほっと一息ついた。
よかった。
この膜がなくなったら、僕はボーナスポイントを素早さにぶち込んで逃げ出さなきゃならなかったのだ。
「……《ビッグ・ワン》で発生する光の膜は九十秒間持続し、自分よりレベルが上の相手からの攻撃で発生するダメージを、一度だけ無効にするんだ」
と、鬼に説明してあげる。
たぶん理解してないと思うけど……雰囲気の問題だ。
「だから、レベル90のおまえの攻撃にも、反応する――けど、光の膜は消えてない。なんでだと思う?」
答えは簡単。
「おまえの攻撃じゃ、僕に対してダメージを発生させられなかったから、だ」
どういう計算式かは知らないけれど、ダメージそのものをゼロにできた場合、《ビッグ・ワン》の防御を抜くことはできない。
ダメージ計算式が知りたいところだけど、自分で検証するのも面倒だ。
そういうのは解析スレがやってくれるだろう。
この世界に解析スレがあるのかどうかは知らないけれど。
灼熱百目鬼が再度僕に殴り掛かった。
何度も、何度も。
時折、打撃に光のエフェクトが混ざるので、なにかしらのスキルも併用しているのだと思われる。
しかし、僕には一切効かない――我無敵ぞ。
僕はスキル《スタンプ》を構えた。
両手を組んで、掲げる。
――本来は、ハンマー系の装備を持って使うのだろうと思うけれど、そんなものはないので手でやる。
「――《スタンプ》!」
てち、と両手で作ったハンマーが灼熱百目鬼に炸裂し、0とダメージが表示された。うんうん。やっぱりそうか。
「また時間かかるやつじゃん、コレ……」
僕はギラギラ輝きながらドシュドシュと弾けて沸き立つ溶岩の中に手を突っ込んで、クラウチングスタートの構えを取った。
さて、まずは三十分くらいで試してみようか。
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