20 溶岩津波
雲長はマジであられもない格好をした痴女が、ガチであられもない体勢で地面に転がるのを見た。
――女性としては、なんというか、こう、くびれから腰までのラインに憧れたりするで御座るが。
――あそこまで大きな乳は、正直いらんで御座るなぁ。
男は馬鹿だということがよくわかるキャラクリエイトだ。
バランスこそが至上だと、雲長は考えている。
いや、個人の体はそれぞれに尊いものだし、その在り方を規定するつもりはない。
だが、それでも理想の姿、理想のバランスというものはたしかにあるし、二十二世紀に至っても、人類は『普遍的な美』という概念から逸脱してはいない。
ゆえに、バランスだ。
誰から見ても『飛びぬけてはいないが美しい』と思われることを目指すべきだ。
そういう意味で、この雲長のボディはよくできている。
身長はそこそこで、歳は少女、胸は大きすぎず、足は長すぎず、顔立ちは整っているが大人しいため悪目立ちしない。
しかしながら、全体のバランスはちょうどよく、黄金比率に則った造形。
――《乳拳道》や溶岩の鎧、形態変化に性質変化も本質は同じに御座る。
――巨大な攻撃、逸脱した能力をどのように扱うか、という点で、奇を衒った自己流に辿り着いて御座るが、そのどれもが『見た目重視』なもの!
――独りよがりな……!
いいで御座るか、と言って、雲長は偃月刀を回して花を散らす。
「デカければいいというものでは御座らん。
小さく、コンパクトに、けれども雅――そういう在り方もあるので御座る。
無駄を省き、己を高め、バランスを保つ。
しかし、そうすることで、結果として総合的にはランクが上がっていくので御座る。
先鋭化するにつれ、小さくてコンパクトなものは、デカくて派手なモノにも引けを取らぬ……いや、デカくて派手なモノには絶対に至れぬ域にまで到達するので御座る」
雲長が扱う神格術式《桃花》もそうだ。
MP消費も『負荷として溜まる熱を消費する』効果も結果として咲く花も、そのどれもが小さくてコンパクトだが、バランスよく運用し、積み上げることで、
――究極の先鋭化に至るので御座る。
花は咲き乱れ、満開となったモノから散っていく。
派手ではないが、吹雪となった光の花びらは、空気へと還り、あとには何も残さない。
始まりは小さく、終わり際は潔い。
それがまた雅で美しいのだと、雲長は思っている。
人から神へと成った関帝・関羽雲長という神仙にふさわしい術式だとも思う。
「……吾にとって、溶岩の結界などないに等しいもの。
神核宝珠のない、出力九割減の吾であっても、大英雄たる関羽雲長の力に偽りなし。
《桃花》は、エンジョイ勢の伊奈莉愛殿が超えられるほどたやすいものでは御座らん」
「そうかなぁ」
あられもない姿から立ち上がりつつ、溶岩の中心に立つ痴女が言った。
「あー、くそ。僕の防御を抜けるやつら、全員顔面狙いなの、どうかしてるよな……」
「相手の戦意を奪うなら、顔狙いが一番効果的で御座ろう。
視界に直に迫りくる暴力は、恐怖が大きいで御座るからな」
「少年マンガじゃないんだから、美少女がこうも鼻血を流すのはちょっとねぇ……」
伊奈莉愛は手を顔にかざし、水=水属性の太陰図を一瞬だけ展開。
顔に付着していた血は綺麗に流され、消えた。
「純粋に攻撃力で僕の火耐性を上回ったわけじゃないよね、今の。
かといって、鬼人の……あの……マンジダガーなにがしみたいに解呪したわけでもない」
「さよう。
火耐性の防御など、はなから壁と認識して御座らぬ。
……これでわかって御座ろう?
伊奈莉愛殿は吾には勝てぬで御座る。
わかったならば、さっさと投降し、そのけったいなエロ結界を解除するがよかろう」
「うん、ああ、わかったよ」
思ったよりもあっさりと言われたので、雲長は眉をひそめ、
――諦めて御座らぬな。
偃月刀の回転を速める。水蒸気の尾がいっそう白く夜の闇にたなびき、線を成す。
伊奈莉愛の目だ。
諦めとは無縁で、しかも、どこか現状を面白がっているような、不遜な光を放つ瞳。
その瞳の持ち主が、再度、戦闘の構えを取って、言った。
「僕なら雲長ちゃんに勝てるって、はっきりわかった」
●
ヒントは術式だ。
僕の火耐性を抜く方法は、大別すると二パターンしかない。
攻撃力で上回るか、溶岩そのものをどうにかするか、だ。
そして、雲長ちゃんが後者なのは、攻撃された瞬間からわかっていた。
術式の色だ。
木=木属性の太陰図と、莫大な量の桃の花弁。
視界に見えたのはその二色だけだったけれど、つまり、
――《桃花》以外の術式を、雲長ちゃんは使っていない!
負荷を吸って花を咲かせる術式しか使っていない。
僕に打撃が入った瞬間、莫大な量の花が咲いた。
であれば、あとは簡単な推理で想像がつく。
――アレは僕の結界を吸って咲いたんだ。
――マンジダガーが僕の結界の魔力を焼いたように、雲長ちゃんは僕の結界を『負荷』としたんだ。
だから、打撃が通る。
しかし、それなら、
――防御に《桃花》を転用しないのは、おかしいよね。
溶岩の結界を花に変えられるのなら、雲長の官服が僕の溶岩に熔かされることもないはず。
そして、僕を打撃した青龍偃月刀はダメージの燐光が散っていない。
雲長の武器は、僕の溶岩によって破壊されていない。
これがポイント。
青龍偃月刀と官服、その違いはなんだ?
「さて、それじゃあ、もう一回――試してみよっか!」
「悪いが、気絶するまで叩かせて頂くで御座る」
青龍偃月刀と体の回転を止めることなく構える雲長ちゃん。
それこそがすべて。
そう、それこそがすべてなんだ。
関節や偃月刀。回っている部分にしか、花は散っていない。
つまり、
「止めてあげるよ、その回転……!」
回転こそが《桃花》の要点だと、僕は考える。
太陰図を展開するのは右手の平。
《乳拳道・掌底壱打》をぶち込むのは、
「地面で御座るか……!」
斜め下に向けて射出したジーティエの蹄が、一瞬で大地を抉り、土砂をぶちまける。
もちろん、これで終わりにするつもりはない。
右手を引いて、左手を前に出す。打撃が射出され、今度は右手を前に出す。
そうして構成される一連の攻撃は、
「《乳拳道・双掌連打》!」
ワザ名は大事だ。テンションが上がるし、楽しくなる。
「おォ……!」
蹄の連打が、溶岩が混じった岩石質の大地を揺らして砕き、一枚の波としてめくり上げる。
ジーティエの膂力を活かした、対地形攻撃。
「溶岩と岩石の津波……!」
呑み込まれれば、身動きなど取れるはずもない軽災害級の自己流を、僕はぶち込んだ。
もう後書きネタないから真面目な話をするんですけど、さっきめちゃくちゃデカい鼻くそ取れたんですよね。
★で応援、感想、レビュー、ブクマ登録などよろしくお願いします!




