10 《乳拳道》
本日二話更新です!
これは二話目です!
ご注意ください!
僕は洞窟の地面をマグマで焦がしながら転がり、しかし、受け身を取って、反動で起き上がる。
「……猿山で鍛えた功夫ですか」
「そこも見てたのかよ。変態め」
「巨乳に興味はないですよ、さっきも言いましたが」
筆縊死は、洞窟内の入り口に近い場所で泥を斬りまくっている雲長に目を向けた。
「僕の趣味はあれくらいの『え? ある? ない? ……あっ、微妙にあるね!』くらいの板です」
「ハイそこ! 聞こえているで御座るからな! そっ首叩き落してやるで御座る!」
「よそ見厳禁だ、三国志マニア」
「ウワーッ! また増えたで御座るーッ!」
なんか微妙に楽しそうなのがアレだ。
しかし、
「……あー、鼻血出てるわ。女の顔殴るってどういう了見?」
「中身は男だと聞いています。――まあ中身も外見も関係ありませんけどね。
僕は、僕の敵を殴る。それだけです」
「一周回ってジェンダー意識が高そうに見えてきたけど、暴力行為を働いてる時点で論外だなぁ。
もっと愛のある攻撃じゃないとダメだね、具体的には光り輝く説教パンチ」
僕は溶岩のドレスを纏ったまま、両手を構えた。
腰を落として、手のひらを相手に見せたその姿勢は、
「《乳拳道》も観測してた、ってことだね?」
「体術スキルを熟練させたものを、猿山の拳法ゴリラとの戦いの中で拳法として成立させたもの――でしょう?
ミノタウロスであれば、《チャージアタック》は基礎で覚えているでしょうし」
「そっか」
短く言って、僕はこっそりと息を吐く。
よかった。
まだ、バレていない。
溶岩は攻略されたけど――おそらくは火=火属性の特性で術式を燃やして解呪したのだろう、と思う――それは、今や僕の手札のひとつにすぎない。
手首を返して手の平を自分に向け、くいくい、と誘って見せる。
「来なよ。答え合わせをさせてあげる」
「言わずもがな――行きますよ」
再度、鬼人の吶喊が走った。
●
筆縊死は、自分の想定通りに事が進んでいると感じていた。
――結界は僕の解呪術式で燃やして無効化、ジーティエは狭い地形で無効化し、仮に無理やり召喚されたとしても、こちらには沙流漉がいます。
――伊奈莉愛の残りの手札は、拳法モドキのみ、です!
だが、それに関しては、むしろ一番対策が楽であると、筆縊死は考えている。
なぜならば、
「――遅い!」
「ぬぅ……!」
基礎スペックの差だ。
猿山ダンジョンで、功夫を用いるゴリラ相手に拳法の修行をしていたのは、当然知っている。
それによって、我流ではあれど、型のようなものを見せてモンスターを叩き潰す姿も。
しかしながら、それらの体術はすべて、伊奈莉愛のスペックに乗せられて撃ちだされる打撃に過ぎない。
速度が、足りない。
さらに言えば、
――僕も拳法家です!
筆縊死の格闘センスは、群を抜いていた。
伊奈莉愛の型から繰り出される拳を回避して、もう一撃、その顔に見舞う。
二メートル半ある巨人の体躯で、一メートル半ほどもない伊奈莉愛に攻撃すると、基本的には上からの打ち下ろしになる。
結果、体の一番上に位置する頭部へと攻撃が集中するわけだ。
腕に展開した解呪術式が、伊奈莉愛の溶岩の結界に込められたMPを部分的に『燃やして』解呪し、その柔肌へと攻撃をぶち込む。
「ぶっ……!」
軽く吹き飛ぶその体の右腕を、左腕で掴む。解呪により、接触によるダメージは無効化された。
大きく体勢を崩した牛娘の体を強引にホールドして、さらに一撃、右腕による打撃を入れる。
――さすがにHPは多いですが、これを続ければ僕の勝ちです!
防御力の低さゆえに、こちらの打撃は良く通る。
速度の格差ゆえに、相手の攻撃は当たらない。
拳法家としての力量差は如実とくれば、負ける道理はない。
「僕の勝ちです……!」
言って、拳を振り下ろす。
ゴッ、と肉を打つ音がして、血が舞う。
「最強は――僕です……!」
ゴッ、ゴッ、と音を鳴らして、高らかに宣言する。
事実、前提条件が合っていれば、筆縊死の勝ちは確定したようなものだった。
「――取った」
しかし、前提条件が、ズレていた。
筆縊死は、そして仙士団の観測は、最初から間違っていたのだ。
殴られながらも、伊奈莉愛の左手が、筆縊死の腹部へと翳すように伸ばされていた。
――なにか、来る……!?
ぞわり、と全身が総毛立つ。
筆縊死は、とっさに左手を伊奈莉愛の体から離して、両腕を構えた防御態勢を取った。
それが生死を分けた。
「《乳拳道・掌底壱打》!」
直後。
筆縊死の体は、洞窟の外まで吹き飛ばされていた。
感想がないのはいかんぞう(抱腹絶倒ギャグ)
(筆縊死くんや沙流漉ちゃんにも「理由」と「信念」があってほしい、敵役にこそカッコよくあってほしいって思いませんか? 僕は思いますけど)
(それはそれとして視点と人称がコロコロ変わるのは申し訳ないです。慣れてくれ)




