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2 キャラメイク



 大学の授業は全部オンラインで済む。

 録画授業も併用して詰め込めば、二年生の前半には卒業に必要な単位は取り終わっていた。


 だから、僕は入学式を含めて一日も大学に通うことなく、ひとり暮らしの部屋の中で大学を終わらせた。

 二十歳の誕生日のことだった。


 親に「単位取り終わった」と報告すると、何十年か前のスマホアプリを経由して、僕の魂直結型デバイスに「ちゃんと大学に通え」とメッセージが届いてげんなりする。

 曰く、「大学に通うことで得られるものがある。そのために四年間があるのだ」と。

 大学が『通うもの』だった時代の考え方だ。

 もとより、大学とは『学ぶもの』であって、行けばいいというものではない。

 むしろ、親の世代よりもずっと真面目に勉強をしたからこそ、このスピードで単位を取り終わったのだと思うんだけど。


 世代間ギャップに辟易しつつ、魂直結型デバイスでテキトーに生返事を送っておく。

 西暦なんていうキリスト教圏史観の年代カウンターが二一〇〇年を超えても、いまだに親世代にはスマートフォンなる遺物を使い続けている人が多い。

 魂直結型デバイスは怪しいだとかカルトだとか、そういう論法だ。

 『魂だけどこかに連れ去られてしまうんじゃないか』なんてことを言う人もいる。


 バカバカしいにも程がある。


 科学的に解明された(ソウル)に拡張コンソールを導入してOSをインストールし、その上で走るプログラムを用いてアストラル界と交信、そこに張り巡らされた霊的ケーブルを経由してインターネットにつないでいるだけだ。

 技術が進んでも、人間が思い込みや先入観でその技術についていけないんじゃ、そっちのほうがよっぽどカルトだと思うけど。


 そんな両親に嫌気がさして、プログラミングのバイトと仮想通貨運用で稼いだ金で一人暮らしを始めたのが大学入学と同時。

 肉体と魂についての理解が進んでも、親の理解はなかなか得られない――というのが、僕の持論。

 しかしながら、大学卒業まで二年半以上も残っていることを考えると、親の言うとおり……というわけではないけれど、もう少しゆっくり単位を取ればよかったのかも、と思わなくもない。


 クソ暇。


 高校卒業の時点で二千万米ドル以上貯蓄があったから、いまさら暇つぶしにバイトってのも、いまいち興味がのらない。


 だから、僕は「せや! どうせやったら遊び倒したったらええんや!」と思い立ち、魂のOSにゲームプログラムをインストールしたのだ。


 いま一番話題になっている、一週間前にリリースされたばかりの魂転移型異世界構築(イセカイSR)システムを用いたMMORPG、その名も【開闢のエクサ・オンライン】を。


 導入からゲームスタートまで、完全に身体(と魂)だけで終わるので、思い立ってから五分後には、僕は生命維持ベッドの上に肉体を安置して、ゲームの世界へとダイブしたのであった。


 なんなら二年半ずっとこのゲームをやり続けてやる、くらいの勢いで。



 ●



 キャラメイクは本腰を入れてやるタイプだ。


 魂転移型異世界構築(イセカイSR)システムは、仮想現実でありながら、しかし紛れもない現実でもある。

 さすがにそこまで先進的な技術に関しては、自他共に認める天才、この僕であったとしても、なかなか理解は難しい。

 解説となればなおさらだ。


 アストラル界に虚数で座標を設定すると、新しい『白紙の世界』が開くので、その世界にコンソールを導入、こちらが自在に情報を設定できるように手を加えたうえで、こちらがデザインした情報をぶちこんで情報爆発(ビッグバン)を引き起こし、地球とは別の物理現象が支配する世界を作り上げる――とかなんとか。


 心底わかりやすく言えば、『別の世界』を作り出すシステムである、と言えるだろう。

 神さまみたいに。


 地球がある宇宙にもコンソールが導入できれば戦争はなくなる、というのが現在の通説だけれど、残念ながら当宇宙に世界を掌握するためのコンソールを導入するチャンスは約一三八億年前に過ぎ去っている。悲しいね。

 ともあれ、統一オセアニア州の老舗ゲーム会社は、そのあきれるほど高度な技術で、連綿と続く伝統的なゲームの文脈を存分に受け継いだ『別の世界』をデザインした。

 剣と魔法と精霊と妖怪と神と悪魔と天使と死神とUMAとその他もろもろが存在する、はちゃめちゃにエキサイティングな世界を。

 僕たちはそこにアストラル界を通して自分の魂を送り込み、渡界人(プレイヤー)と呼ばれる冒険者になって世界を救ったりするわけだ。

 だけど、そのためには『その世界』用の肉体を――つまり、キャラクターのアバターを用意する必要がある。


 さて。

 考えなければならない。キャラクターをどうするか、を。

 性別は女がいい。

 地球という世界では、僕は男だけれど、せっかく別の肉体を得られるのだ――おっぱいがほしい。

 いやおっぱいは男にもあるが。

 僕の天才的思考が、女性の肉体を得た方がいい――と理論的な解を導いた。

 なぜならば、おっぱいがあるからだ。証明終了。


 そう意気込んだものの、性別の前に選ぶものがあった。


システムメッセージ:『種族を選んでください』


 前述のとおり、バカみたいな種類の生物と非生物がひしめく世界なので、いろいろな種族を選ぶことが出来る。えげつない量の中から。

 地球同様の人間種族は細かく人種まで設定できるし、ファンタジーマシマシなエルフだけでも内訳は三十種類を超える。

 正統派の白いエルフにダークエルフ、大陸系の黄色エルフ、精神系の能力に特化したスピリットエルフなど、多種多様だ。


 僕個人としては、地球では黄色人種をやってるので、それこそエルフやドワーフのような存在しない生物がいい。

 迷いながら人間以外の種族リストをずらーっと上から下まで眺めて(スクロールしているだけで十分以上経過した)、気になる種族を見つけた。


 ミノタウロスである。


 牛頭人身の怪物で、なるほど、男であれば見るからにミノタウロス然とした姿だけれど、女を選ぶと牛の角が生えていること以外、ほとんど人間のような見た目になるらしい。

 種族特性はタフネス重視の高いフィジカルで、魔術適正は低め。

 種族説明によると、壁役に最適だそうだ。

 あとちょっとだけ身体が豊満である。ちょっとだけね。

 これは余談だからどうでもいいものの、僕の天才的頭脳は「たぶんこの種族が一番おっぱいでけえ」と導き出したので、ミノタウロスを選ぶ。

 うむ、必然が導き出した知的な選択だ。

 さて、次はいよいよ性別を選ぶターンが――。


システムメッセージ:『モチーフとなる牛を選んでください』


 ――やってこなかった。なるほどな。

 リストをまたずらーっとやれば、品種だけでなくブランドまで指定できるらしく、その数は軽く百を超えた。

 どこにこだわり持ってんだ。運営はなにを思って、これだけの牛種を実装したんだろうか。

 一周回って燃えてきた。

 とことんまでやってやろうじゃないか。


 僕はその後、三十時間かけて理想のミノタウロス女としてゲーミング異世界『開闢のエクサ』に降り立った。

 最後のほうはほとんど意識がなく、大量の項目を含んだ初期ステータス設定だとか成長傾向だとかは、脳死でかなり適当に選んでしまった――ような気がする。

 地球の肉体が猫舌なので、こちらはそうならないよう、あまり役立ちそうにない火耐性にポイントを振ってしまったのは少し後悔しているけれど、レベルが上がれば取り戻せる程度の誤差だろう。

 キャラクターで大切なのは一にも二にも三にも四にもおっぱいを含む外見とおっぱいと胸なので、ステ振り程度をわざわざ熟考する必要はない。


 ――ちなみに、のちに知ったのだが、多くのプレイヤーが、おおまかな種族と性別を決めたあとは「指向性クリエイト」なる、自分のなりたい外見やステータスの傾向を大まかに読み取ってオートでキャラクターを作ってくれるシステムを利用していたらしい。

 ま、僕はこだわり派なので、たとえそのシステムを知っていたとしても、こうやって三十時間かけていたことだろうけれど。

 クソが。





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