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17 牛


 入った瞬間、ソレと目が合った。巨大な牛――『マッドブル』よりもさらに大きい、体高三メートル級。自分が小人になったような気すらする。牛の頭の高さは僕よりもはるかに高いところにあって、そこから見下ろされているのだ。ていうか、


「いきなりいるのは卑怯でしょ……!」


 慌てて両手を地面に叩きつける。《溶鉄結界》を発動しようとするけれど、こちらのそんな行動を意に介さず、のんびりと息を吐いた。なんだ……モンスターじゃないのか?

 注視すると、『ギガントブル・ライダー レベル:95』の表示が。……ライダー? もしかして……?

 恐る恐る、牛よりさらに上を見る。一つ目のデカい巨人が、乗っていた。ライドオンしていた。騎乗していた。体高三メートルの牛に、それに見合うサイズの巨人が。トータルのサイズは五メートル級。手にはフォーク型農具を持って、案の定、麦わら帽子とオーバーオールを装備している。

 こいつらは――セットで一体のモンスターなのだ。で、上の巨人が僕にまだ気づいていないため、ヘイトが向いていないのだろう。


「……どう見ても物理っぽいよなぁ」


 いけそうな気がする――のは、慢心だろうか。ともあれ、背後にはすぐに逃げられるワープホールがあるのだ。いざとなれば、そこに飛び込めばいいだけ。

 挑む価値は、十分ある。ささっと着ていたインナーをアイテムボックスにしまいこむ。本日三回目の全裸コートモードである。アレ、もしかして僕、積極的にインナー脱ごうとしてないか……? 露出狂の気が、本当に……? いや、いやいや、ないない。ないよ。うん。


「――《獄炎熔界》!」


 僕の両手を基点にして、莫大な量のマグマが溢れ出す。赤熱するそれは瞬く間に半径五メートルを埋め尽くし、そこにいた『ギガントブル・ライダー』を焼き始めた。

 ぐぉお、と怪物が呻き、さすがに巨人が僕に気づいた。

 ――が、しかし。もうすでに、HPゲージが減り始めていることは確認している。十秒以内に焼き溶かし尽くしてやる……!


 だが、相手もそれに気づいたのだろう。牛ごと突進し、その角が僕に突き刺さる。ダメージは――なし。

 いける。

 巨人のフォークがスキルの光を纏いながら僕に突き出される。それも、無傷。ノックバック効果もなく、僕に物理攻撃のみで太刀打ちできるわけもなし。


「熔けろ!」


 焼き尽くす――!

 戦闘時間、十秒。巨人と巨牛は光の粒子となり、消えていった。

 オモテ面とはけた違いの経験値が流れ込んでくる。格下とはいえ、レベル1の差。即レベルアップできるほどではないにせよ、それなりの経験値は貰えるようだ。

 ――うん。やっぱりこのダンジョン、いけそうだ。


 バカでかい牧場を、マグマを纏いながら歩き回った。

 出現するのは『ギガントブル・ライダー』だけではない。巨人なしの『ギガントブル』や、オモテ面のデカい獣たちをさらに巨大にした『ギガントクック』や『ギガントブー』がボコスカ殴り掛かってくるけれど、すべてが物理攻撃だ。おそらく、とんでもない威力なんだろうけれど――それこそレベル95の灼熱百目牛頭鬼こと、ごずっちの超必すら受けきった僕の火耐性だ。


 突進やかみつき、ついばみといった攻撃を全身に食らいながら、僕は次のエリアへの扉を探す。木の柵の切れ目に、それらしきものを発見するころには、ボックスの大半を『霜降り牛肉』や『高級な鶏肉』『六元豚肉』が埋め尽くしていた。六元って、数字を増やせばいいってもんでもあるまいに。

 それらをジュッてやって食べると、かなりうまい。塩が欲しい。ずっと塩が欲しいと言い続けている。町に戻ったら、絶対に買おう。


 僕は木の柵をくぐって、次の階層へ。

 もしクリアできれば、レベル106は固いだろう。そうなれば、僕はさらに死ににくくなるはずだ。この過酷なデスゲーム異世界を、僕は生き抜いてみせる。


 ●


 で、僕は二階層もさらっとクリアした。

 獣たちは数を増やし、すべての獣に『ライダー』パターンが追加されたけれど、やはり物理偏重型。大した脅威ではない――二階層も美味しいお肉を食べながら、直径十メートルの地獄を引き連れて難なくクリア。ありがたいことに平均レベルが100もあったおかげで、小一時間の冒険で僕のレベルは101まで上昇した。ボーナスポイントは入り次第火耐性にぶち込んでやった。


 三階層目の入り口、柵の切れ目を抜けると、そこには扉があった。木製の、しかし巨大な扉が、これまた巨大な――それこそ、大型の野球場みたいに大きな畜舎の正面にあった。

 間違いない。ボス部屋だ。

 少し悩んだけれど、問題ないだろうと判断する。この身体、僕の火耐性は無敵である。

 扉に手を触れると、ひとりでに開いて、僕は超巨大畜舎の中へといざなわれた。


 屋根のすき間からこぼれる陽の光。足元にはワラくずが散らばり、すえた匂いが広がる。ホール状の部屋の隅は陽が当たらないためか、ボス部屋の大部分は暗くてよく見えない。今までの直径五十メートルほどだったボス部屋とは比べ物にならないサイズだ。野球場に例えたけれど、中もそれと同等の広さがある。


 ほえー、とあたりを見回していると、僕のすぐ隣を巨人が走り抜けていった。――うわびっくりした! なんだおまえ!?

 気配なく現れるものだから、まったく気づかなかった。すでに《獄炎熔界》は発動済みなので、不意打ちされても耐えられるとは思うけれど、びっくりするものはびっくりする。予告してから出てきてほしい。


 その巨人は一心不乱に壁の影に近づき、手に持っていた大きなワラの塊を捧げるように持ち上げた。

 そして――そして。


 その巨大な影が。

 僕が影だと思っていた巨大で真っ黒いものが。

 真っ赤な口を開けて、巨人ごとワラを、食んだ。


 ――おいおい。嘘でしょ。さすがに――デカすぎる。

 身長三メートルある巨人が、一口で食べられてしまうサイズ。

 のっそりと立ち上がったソレは、真っ黒な体毛を逆立てつつ、一歩ごとに地響きをとどろかせながら、僕へと近づいてくる。


 目測――体高、五十メートル。僕は大昔のマンガを思い出した。そのマンガには、五十メートルの壁が登場する。そしてその壁の向こうからそれ以上の大きさを持つ巨人が襲ってくるのだ。だけど、いま、僕が相対しているのは巨人ではない。


 牛。

 巨大な、牛。

 ボス名の表示が眼前に現れる。


『”山食らう巨牛”ジーティエ レベル:105』


 これは、さすがに――だめかもしれない。

 サイズが異常だ。高さにして、ゆうに十階建てを超える大きさなのだ。一世紀前に建てられた東京スカイツリーの大きさが、たしか六百メートル程度だったので、その十分の一程度の大きさしかないと考えたら少しは安心できるかもしれない。いやできない。サイズ感がおかしい――僕は一体なにと戦おうとしているのだろうか。


 そいつはワラと巨人の混ざったものをバリバリ、ゴリゴリと噛み砕きながら寄ってきて、僕をはるか高い所から、その巨大な瞳で見下ろした。

 直径十メートルの僕の結界。

 その領域には到底納まりきらない巨体――!


 ジーティエは、ふいにその頭を上げて鳴いた。

 ぶもうぅう、と。

 その音圧だけで、体が吹き飛ばされそうになる。びりびりと全身が震えて、思わず両手をついて這いつくばってしまった。

 まずい――まずいまずいまずい!

 これは、非常にまずい!

 僕は振り返ったけれど、畜舎の巨大門はとっくに閉じられていた。

 上を見ると、また、ジーティエの巨大な瞳が――真っ赤な瞳が、僕を見下ろして、また低く鳴いた。今度は唸るように。ぐるぐると、喉の奥で――怒りを示すように。


 戦闘開始の合図だった。



A:後書きを読んでもよろしいですか?

B:どうぞ。ところで評価、感想は今までにどれくらいですか?

A:五件ほどですね。

B:なるほど。このページの下のほうに評価欄、感想欄がありますね。

A:はい。

B:あなたがそこをスルーしなければ

C:ちくわ大明神

B:たくさんの作者が感想をもらえたんですよ。

A:ちょっと待てだれだいまの


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