10 無敵と帰還と味噌汁と
本日三話更新しております。
前話、前々話未読の方はお気を付けください。
《獄炎熔流》が消え去ったあと、ホールの中心には大きな宝箱が残っていた。
ボスドロップだろう。
ワクワクしながら開けると、中に入っていたのは真っ赤で艶やかなレザーっぽい素材でできた布だった。
手に取ると、詳細が浮かび上がる。
『防具:獄炎の外套 効果:《破壊不能》《溶岩系地形効果無効》《初回クリア者限定ユニーク装備》』
はちゃめちゃな装備が出てきたね。
ビビるわ。
《破壊不能》のあとに《溶岩地形効果無効》がついているのは、明らかに《獄炎熔流》を意識した設計だろう。
さしずめ、このダンジョンの二週目以降、ごずっちの発狂行動を軽減できる装備……ということだろう。
《初回クリア者限定ユニーク装備》は、文字通り世界にひとつだけの装備を指すらしい。
正直、僕は素の肉体で《獄炎熔流》を無効化できるので、この装備には意味がない。
が、僕はいま全裸であった。
装備的には意味がなくとも、服としての意味は十分以上にある。
装備しておくことにしよう。
というわけで、僕は全裸の痴女から、全裸に真っ赤なレザーのコートだけを羽織った痴女になった。
襟が大きくV字になっていて、着ると胸が強調されるのはいいデザイン。
巨乳がこういう布がまっすぐ下に落ちる服を着るとデブに見えがちなんだけど、この服には胸の下にベルト状の絞りがある。
それをきゅっと締めれば一気に乳袋が形成され、ファッショナブルになり、絞った分、丈が上がって膝上になる。
谷間が見えるミニワンピみたいだ。
……全裸よりマシになったはずなのに、なぜか痴女レベルが上がった感がする。
が、しかしながら提言申し上げるが、よくよく考えてみてほしい。
この世のあらゆる服を着た生命体は、全裸の上に服を着ているだけに過ぎないのだ。
僕と同じ状態といって過言ではない。
来ている服が何枚あるか、どれだけ隠しているかという点は違えど、この広い世界から見ればほんの小さな問題、実質誤差と言っていいだろう。
僕が痴女なのではない。
――全人類、総じて痴人なのだ。
僕は大学の単位を一年半で取り終えた論理的な思考で、その答えを導き出すことができた。
この理論に穴は開いていない。
谷間は大きく開いているけれども。
それから、称号”熔融の主”を確認してみる。
『称号:”熔融の主” 取得条件:『【裏】灼熱百目洞』の単独制覇 効果:装備時にスキル《溶岩結界》系統の使用を解放』
スキルが増える!
《ビッグ・ワン》が強かったのだ。
こちらはもっと強力なスキルに違いない。
いそいそと装備してスキルの詳細をチェック。
《溶岩結界》系統のスキルは文字通り結界術のスキルで、自分を中心に直径十メートルの範囲を《溶岩》地形に変更するのだという。
使用者の火耐性が100以上で《溶岩結界》を、1000以上で《溶鉄結界》を、そして10000以上で《獄炎熔界》が使用できるようになる。
発動と結界の維持にMPを消費するけれど、このダンジョンで見たすべての地形効果を、僕は任意に引き起こすことが出来るわけだ。
それはつまり、
「……無敵じゃん……!」
僕は《獄炎熔流》を無効化できる。
が、常識的に考えて、これを無効化できるモンスターやプレイヤーはそうそういないだろう。
このダンジョンのMOBみたいに、『そもそもそこで活動できるように設計されている』生き物でない限りは、このフィールドは耐えられないはず。
そして、《溶岩系地形効果無効》を持つ装備は――これは推測だけれど――『獄炎の外套』くらいなんじゃないだろうか。
でなければわざわざ《初回クリア者限定ユニーク装備》なんて書かないだろう。
防御は火耐性で完璧。
地形効果で範囲内の生命は僕以外蒸発していく。
完璧な構成だ。
これ仕様設計したやつバカなんじゃないの?
バカなおかげで僕の生命が保障されるので、いいバカには違いないけれど。
僕は小躍りしながら詳細をさらに読み込んでいくと、なんと、さらにその先があった。
《大紅蓮熔界》――火耐性100000以上で使用できると書いてあり、スキルの効果は不明。
が、おそらく、《獄炎熔流》を超える火力があるのは間違いない。
読んだ瞬間、僕は迷いなく新たに取得したボーナスポイントをぜんぶ火耐性にぶち込んだ。
もはや火耐性以外に振る必要はない。
目指すは《大紅蓮熔界》が使用可能な六桁の火耐性のみ。
で、現在のステータスはこのようになった。
【”熔融の主”伊奈莉愛】
《ステータス》
●レベル:96
●HP :11334/11334
●MP :166/166
●力 :17
●魔力 :17
●防御 :17
・火耐性:48179
・水耐性:3
・木耐性:3
・光耐性:3
・闇耐性:3
●素早さ:17
※未使用ボーナスポイント:0
《スキル》
・『チャージアタック』 取得条件:ミノタウロスレベル1
・『スタンプ』 取得条件:ミノタウロスレベル5 力5以上
・『スイング』 取得条件:ミノタウロスレベル10 力10以上
・『溶岩結界』 取得条件:称号”熔融の主”装備時 火耐性100以上
・『溶鉄結界』 取得条件:称号”熔融の主”装備時 火耐性1000以上
・『獄炎熔界』 取得条件:称号”熔融の主”装備時 火耐性10000以上
《装備》
称号:”熔融の主”
武具:なし
防具:獄炎の外套
アクセサリー:なし
《アイテムボックス:最大枠50》
・初心者セット
・灼熱百目牙芋虫の肉
・灼熱百目牙芋虫の牙
・灼熱百目牙芋虫の――
《所持称号》
・"駆け出し" 初期から所持
・"大物狩り" レベル差10以上の相手に勝利
・【装備中】”熔融の主” ダンジョン『【裏】灼熱百目洞』の単独制覇
アイテムボックス欄は割愛。
HPの伸びがやたらといいのは、おそらくミノタウロス種族の特徴だろう。
一気にレベル96まで上がったところをみると、灼熱百目牛頭鬼からは大量の経験値をもらえたらしい。
たぶん、ボスだからそもそも高経験値であることと、単独撃破だからパーティに経験値が分配されず占有できた……とかじゃないかな、と思っている。
このダンジョンを周回してレベルを上げるのも悪くないかもしれないな――なんて考えていたけれど、また二十四時間もチャージするのはあんまり気がのらない。
肩凝るし。
いつの間にか、ボス部屋の扉の横に例のうにょうにょワープホールが形成されていた。
外に出るためのもの、だろうと思う。
僕はその辺の溶岩で芋虫肉をジュッとやって食べる。
ずいぶん食いなれた、塩もなにもない、味気ないごはんだ。
僕は強い。
強くなった。
レベルは96で、ユニーク装備を持っていて、たぶん僕以外には対策できない結界スキルまで得た。
外は怖い。今でも、怖い。
だけど――僕は、うにょうにょに、触れる。
ごずっちは敵だった。
リスペクトすべき、強敵だった。
それに比べたら、きっと、しょうもない現地人や渡界人どもの多くなんて、気にするほどのこともない相手だ――と、思う。
気に入らないやつはいる。
エルフの官吏も、受付のクリスも、気に入らない。
でも、みんながみんな、そうだったわけじゃないんだ。
空間が引き延ばされて、気づくと、僕は太陽と星空が混ざる茜色の空の下にいた。
透き通った空気が、星々がいかにきれいなのかを、そして太陽がいかに大きいのかを、教えてくれる。
現在時刻は早朝だったらしい。
時間の感覚がめちゃくちゃで、いったいダンジョン内で何日過ごしたのかも定かではない。
チャージ時間中心の生活をしていたせいで、生活リズムもなにもなかったし。
メニューを開いて日付を確認する。
デスゲームが始まってから、ちょうど一週間目に突入していた。
メニューからフレンド欄を開いて、そこにひとつだけある名前をタップ。
夜中だから、と迷ったけれど、あの遊び人風の男が規則正しい生活を送っているとも思えない。
フレンドコールで通話を試す――二回ほどコール音が鳴って、そいつは通話に出た。
「あ、喜多代? ――あ、うん。僕だよ。表示みりゃわかるだろ?」
僕から誘う。そういう約束だったから。
「あのさ。――こないだ言ってた宿屋の味噌汁、いまから食いに行かない?」
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