NPCに高度なAI搭載問題
高度なAI。それはまるで本物の人間のように会話し、好感度という隠しステータスを持ち、プレイヤーのことを特有の呼称で自分たちとは別種の人間だと認識している存在。
よく描かれているのはこんな姿でしょうか。
大抵ゲームを始めたばかりの主人公が「まるで本物の人間かと思った。流石[ゲーム名]は噂通り凄い。本当のファンタジー世界に来たみたいだ」とモノローグしてさらっと流されるくらいのことが多い設定です。
でもそれ、本当に必要ですか?
安易にNPCを異世界モブとして描きたいだけなんじゃないですか?
この題材は、物語によっては有り、ゲームとしては基本的に無しという著者の立場で理由を述べて行きます。
ではまず、有りな場合の条件を3つ挙げておきます。
・高度なAI、というものが一般化されている。
・コミュニケーションを取ることがゲーム的に意味がある。
・AIはあくまでAIであり、高度に見えても本当の人間のように世界の不整合性に気付いたりはしない。
とりあえずこの3点が全てクリアしていたらセーフです。
先に例外も挙げておきます。
・オフラインゲーム世界が舞台
・高度に見えるだけで、ただ超大量の条件分岐を経てより正解に近い答えを返す擬似AI
他にあればご指摘下さい。今思いつくのはこれくらいなので。
では上から見て行きましょう。
人間と同じように会話が出来るAIというものが、一般化した世界。
それならば、既にあるデータベースを読み込んで、ゲーム用に調整するのは大変じゃないかも知れません。
これの逆は問題です。つまり「ゲーム外でもそこまで進化していないのに、このゲーム内だけにやたら高度なAIが実装されている」パターンです。
これに上手く説明が付けられる、もしくは物語的に意味がある、というなら良しです。
大抵の作品はゲームに特別性を持たせたいのか、ここの説明はしないですよね。読者の大半も気にして無いとは思います。
でも、これは言わせて頂きたい。
ゲーム制作会社よ。お前らどこに開発費使ってんだよ、と。
売りに出来るほど進んだAIを開発するのは、莫大な予算が必要です。恐らく、マトモな企業なら「それ、本当に必要? パターン化した会話で良くない?」となって認可されないでしょう。
だって普通は要らないですもん。ゲームに高度なAI。
AIだけを開発する企業はごまんといます。その全てを出し抜ける企業パワーがあるなら、ゲームなんか作らず、さっさとその先進的なAIで世界を席巻して下さい。何故ほんの一部のゲーマーを喜ばせて良しとしてるんですか?
使ったお金の分は、しっかり回収させましょう。ゲーム以外の方がよっぽど実用的で利益性があります。ま、現実世界の多くの人の職を奪ってしまうことにはなると思いますが、それは別の話。
これの説明や黒幕としてよく見るのが、企業がなんらかの実験場としてゲームを利用しているパターン。
でも、これもおかしくないですか?
人間なら不合理な決定を下すこともありますが、企業というのは合理的な判断が求められます。前述のように、無駄な事やリスクを負う事は極力したがりません。
例えば、AIが住む世界を構築し、その成長を見るなら、そこに居る人間はノイズです。実験とは、ノイズを減らさなければ正しい結果は得られませんから、人間には出て行ってもらいましょう。
それが次の段階に進み、人間との会話データがAIの成長を促すと言うなら、もっとオープンに行きましょう。
別に円卓を囲って「くくく、実験は順調だ……」とか言わなくていいです。「AIは、プレイヤーとの会話でどんどん進化しています! 皆さま積極的に会話をお楽しみください!」ってやりましょ?
ちゃんとゲーム開始前にそういうデータを取りますって認証画面表示させて、堂々とやって下さい。誰も怒りませんから。多分。
じゃあ、まだ成長中のAIを使っていて、オープンでクリーンな企業になったところで、次の項目に進みます。
コミュニケーションを取ることに、ゲーム的な意味、ありますか?
まず第一に、AIの運用には、恐らく多大な負荷がかかります。
何故なら、無数のプレイヤーとの会話や日常生活、その中の一つ一つの行動選択にマシンパワーが必要とされるからです。全てのNPCに一々「今日の夕飯何にしようかしら」と考えさせていたら、負荷どころの騒ぎではないでしょう。
何らかの新しい技術や、NPCの行動ルーチンを別サーバーで動かすことで解決したとしましょう。
でも、何度も言うように、企業は不必要なら採用しません。
この場合、AIの成長を目的としているなら、何が不必要でしょうか?
答えは簡単。楽しいRPG部分です。
リスクを負わないように、負担をかけないようにするために、無駄を排除していきましょう。AIとのコミュニケーションに必要なのは、楽しくおしゃべり出来る環境や物語であって、人間だけの冒険譚は要りません。
人間ではなくモンスターなどのAIも試行しているなら、AIの同行を強制させるのも良いんじゃないでしょうか? その方が沢山サンプルが取れますし、プレイヤーも楽しめるでしょう。
となると、MMOである必要性、無くなりますね。だって人間だけでパーティ組んで狩りに行くのがメインなら、NPCとの会話なんて最低限になるでしょうし、そんなプレイヤーを遊ばせておくのは目的に対しては無駄です。
プレイヤーの間口を広げるため、採算を取るためだとしても、そもそもRPGじゃなくていいですよね?
だから、オフラインゲームだったり、恋愛シミュレーションのような会話劇なら「有り」なんです。何故MMORPGをさせるのか。そこが不明瞭なうちは、モヤモヤが消えません。
とはいえ、この説明は前提が少しずるかったですね。
AIの成長がメインではなく、ゲームそのものを楽しませるためにあくまで添えモノとしてのAIだとしたらどうでしょうか。
ここで、クソゲーをクソゲー足らしめる一つの項目があります。
スキップ出来ない会話。
NPCと会話するゲームにおいて、これはベリーベリークソです。ベリクソ。
例えば映画的な「観る」ゲームならギリセーフです。でも、ムービーシーンでもありますよね? 右下あたりに、スキップボタン。
テキストベースのゲームにもありますよね? ボタンを押すと、テキストウィンドウに文字がパッと表示される機能。アドベンチャータイプのゲームなら、一度読んだ文章はスキップする機能もあります。
企業だけでなく、効率を求めるプレイヤーもごまんといます。そのプレイヤー達が納得するスキップ機能、AIに搭載出来ますか?
出来ないのなら、不満爆発でしょう。
毎度素材を売りに行く度に、業務手続きを待たされたり、会話のやりとりをしたり。
何度も受けるクエストを、また最初の「困ってるんじゃ冒険者さん。助けておくれ」から聞き始める必要があるのも、クソ面倒ですよね?
リアリティがあるから、と許される問題ではありません。リアルな異世界を冒険したいんじゃないんです。気持ちよくゲームが遊びたいんです。
最初は目新しさから我慢出来ても、絶対にマトモな頭の人間はそこが異世界だとは認識しません。だってゲームですから。
さくさく効率よくレベル上げがしたいし、つまらない周回作業も、何かの目的の為なら我慢します。MMORPGを遊んだことがあれば、容易に想像がつく状況です。あのレベルまで行きたい。あの武器が買いたい。あの敵を倒すためにこうしたい。
さて、その目的への時間が少しでも欲しいのに、死ぬほど足を引っ張るのが、きちんと会話するAIです。毎度毎度、スキップ出来ずに。
普通のMMOなら、それぞれの画面に会話ウィンドウを出せばいいので受付嬢一人で何十人も相手できますが、多分それもVR的には難しいでしょう。
ご想像出来ましたか? そのクソさ。
これで第二項目については区切ります。
残り一つの項目、AIがゲーム世界って認識しないの? という話は割愛します。ゲームとして、というより、AIの人権問題に飛び火して長くなりそうなので……。
ということで、私からは以上です。
このAI問題は、基本的にゲームの利便性はカケラも考えておらず、不具合は山ほどありそうなのに、全てに目を瞑っているからセーフ。という物語が多い気がします。
簡単な解決方法としては、AIとの会話とは別にインターフェースを用意して、そちらで機械的な処理も出来るようにしてあげれば良いんじゃないでしょうか。
ロールプレイしたい方はゆっくり会話を楽しんで、ゲームを楽しみたい方は普通のゲームらしく遊んでもらいましょう。
ほどほどのAIで、クリーンな企業が提供する、効率厨に優しいリアルなゲームが物語として面白くなるかどうかは分かりませんが。