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1話

ちょくちょく修正は入るかもしれませんが、大筋は変わらないようにします


もう半日ほど歩いただろうか。

町の関所を出た時には昼間だったはずが、夕焼け空も消え去り視界はもう暗闇の中だった。

苦心して手に入れた地図他の情報は全て頭に入れてある。

小さめの灯りを点けながら、鬱蒼とした森の中の獣道を進む。


強盗団のアジトの場所を知るのは簡単な事ではなかった。

強盗団が巧妙な上、俺はまだ見習い騎士だったし、今回の事件は特に危険が多いと捜査に加われていなかったからだ。

しかし諦める訳にはいかなかった。

強盗団に拐われたあいつがまだ共にいる可能性があるなら、なんとしても向かうつもりだった。






あいつーーーセフィア・アーレストと俺、アラン・エルガードは昔からの貴族の家の生まれで、家も近かった為よく互いの家を往き来していた。

向こうは病弱で大切に育てられた箱入り娘だったから主に出掛けたのは俺だったが。

正直、最初は親同士の仲が良かった為半ば無理矢理引っ張られて行っていた。

しかし向こうはなかなか同年代の人間と話す機会もなかったようで、俺の話すちょっとした雑談や子供っぽい武勇伝の話をなんでも楽しそうに聞いてくれた。

楽しそうなセフィアの顔を見ていると嫌な気はせず、こっちもいろいろ出向いて話をするのが少しづつ楽しみになっていった。

セフィアから市場をみたいと言われ、俺がこっそりセフィアを外に連れ出し、市場に連れていった事もある。

流石にお互いの両親に二人揃って怒られたが、同時に説得により許可も得る事ができたので、少しずつなら外出ができるようになった。

その後は良い友達だったと思う。


本格的にセフィアを意識し始めたのは、俺が全寮制の騎士養成学校に入学すると決まった時だ。彼女は身体が弱く、親がずっと家庭教師を家に呼んでいたが俺はそうもいかない。

文官・学者を目指す王立学院か、騎士を目指す騎士養成学校に12歳になったら通うようにと親に言われていた。


12歳になり、それをセフィアに伝えたある日の事。

いつものようにあいつの家に向かうと、何故かセフィアの行動が少しぎこちない。

時折何か伺うようにこちらを見ており、こっちが


「どうした?」


と聞けば、


「ううん、何でもない」


の一点張り。

気にはなったが三、四回同じ事を繰り返しても一向に教えてくれないのでもう諦めていつものように他愛ない話をしていたが、帰りがけになって、


「……あのさ、」


と、少し緊張しながら切り出してきた。


「……何だ?」

「もうすぐ、会えなくなるんだよね?」

「……まぁ、五年間は学校の寮で暮らすからな」

「あのね、今日はゴメンなさい。」

「?」

「ホントは、今日会ってすぐに渡そうと思ってたんだけど……」


そこで彼女は自分の引き出しから何かの入った袋を取り出し、それをこっちに渡してきた。

軽い。


「開けてみて」


袋の口を開けると、何だろう……ペンダントだろうか。


「これは……、四葉のクローバー、か?」

「うん、幸運のお守り」


中には四葉のクローバーの形をした小ぶりなペンダントが入っていた。透き通るような緑色が少しセフィアの目の色に似ていて綺麗だ。


「……ありがとう。」

「ううん、こちらこそ。私はずっとアル君に助けられてきたから」


本名のアランをアル君と呼んでくるのはセフィアだけだ。


「俺?」

「うん。ちっちゃい時からアル君はずっと家に来て、いろんな話をしてくれた。私はちっちゃい頃は特に身体が弱くって家からほとんど出られなかったけど、アル君はいろんな事を教えてくれた。」

「俺はずっと自分の話を勝手にしてただけだし、正直最初は親が…」

「うん。最初は面白くなさそう顔してたよね。けどアル君は、私の話をちゃんと全部聞いてくれた。」

「対等な話をしてこその友達だろ?」

「そういう所、はっきり言ってくれるよねアル君。」

「当然の事だからな」

「そういう気持ちが、ずっと嬉しかったの。だから、そのお礼。いつかしないとなって、思ってたんだ」


プレゼントを渡しつつ少し顔を赤くしてそう言って笑ったセフィアの顔を見て、こっちも顔が熱くなってしまった。


その熱に浮かされたか、結局俺は、最初の大きな休みの時に一度家に戻って、すぐに会いに行った。その時のセフィアの嬉しそうな顔はもう駄目だった。直視できなかった。



それから六年が経ち、今では親同士も半ば公認の仲になっていた。

卒業したらあの日以降結局伝えられなかった自分の思いもちゃんと伝えるつもりだった。

その矢先に事件は起こった。





思い出すほど焦りが募る。

首にかかるペンダントを握り締め、俺は道なき道を急ぐ。






どれくらい進んだだろうか。

辺りはもう長い間自分の手元の明かり以外完全に暗闇の中だったが、不意に明かりがぼんやりと道の先に見えた、ような気がした。

慌てて明かりを消し、道の脇に逸れて近くの茂みに隠れる。

すると明かりはみるみる大きくなり、多くの話し声が聞こえるようになってきた。


「もうだいぶアジトから歩いたよなぁ」

「まだこっからじゃ町までのが長いぞ」

「えぇ?そうだっけ?」


十五、六人はいるだろうか。周りが静かな事もあり声は十分聞き取れそうだ。


「しっかし、今週からアジト出て次の下準備に入れってのは、また念の入ったこったよなぁウチのお頭もよぉ」

「次は……予定じゃ半月先だったよな」

「いっつも思うんだけどちょっと手間かけすぎじゃねぇ?」

「俺も思ってた」

「まぁまぁそう言うなって」

「おう。その準備のおかげでウチの面子が騎士共に捕まった事は一度もねえんだからよ」

「まぁな。お頭の言う事に間違いはねぇ」

「そりゃそうだが」


どうやら強盗団の連中で間違いないらしい。

この先にアジトがあるのも話から確かなようだ。


この強盗団は実際非常に厄介な手練れのようで、騎士団でも捜査はかなり難航していた。

町の中、近くに拠点は作らず、しかもその拠点も細かく移動を重ねて居場所を悟らせない。しかし情報は網羅しているようで、推定二十~三十人前後のメンバーで無理なく襲える範囲で防備の薄い、または薄くなった隙を逃さずに押し入り、一晩で全て終えて夜明け前には影も形もない。


セフィアの家も警備の更新と交代で人が減っていた所をやられたようだった。

セフィアの両親や使用人、警備兵らの遺体はあったが、セフィアだけは何故か見つからなかった。


基本的に強盗団は人拐いはほとんどせず、慰み者とした女性もその場で始末していく手口がほとんどだった。しかし、過去の調査結果をよく調べると、数回、同様に行方不明となった例もあった。

その場合は全て、山奥の廃屋や洞窟など、過去に拠点として使われていた形跡のある場所などでずいぶんと経った後に遺体が見つかる。

しばらく生活の跡があり、長くいたぶった後に口封じに殺されるようだ。

……逆に考えれば、アジトを移動していなければ、生きている可能性はある。なら移動の前になんとしても見つけなければならない。



生きている可能性はある。が、時間はない。すぐにでも助けに行きたかったが、手がかりは一向に見つからず半月程が過ぎた。

俺個人、家の情報網にはもちろん、騎士団の捜査網にも何もかからなかった。

時間だけが無情に過ぎて行く。


一ヶ月が経ち、ようやく調査班の騎士が今の居場所らしき情報を掴んだという話を聞き、その騎士を苦労して特定し、正面からでは教えてくれなかったので情報をこっそり盗み見るのに更に一週間。

古くなって使われなくなった流通のルートに巧妙に偽装された上で拠点の場所は隠されていた。

騎士団は包囲を固めて裏付けを取ってから動こうとしていたが、その遅々として進まない裏付けを俺はもう到底待てそうになかった。


だから今こうして獣道を進んでいる。

何も強盗団相手に大立ち回りをしようって訳じゃない。護身用に短剣は準備したが、武器というより鍵開けなどの小道具用だし、あいつさえ助けられればすぐに逃げるつもりだ。


正直無計画にも程がある行動だと自分でも少し思う。

ただ、手がかりがあるのにこれ以上じっとしている事はもうできなかった。


アジトは少し進むと見えてきた。

さっきの男達が構成員の大半だったのか、すでに次の準備とやらで人はもうすでにほとんどいないようだった。何人かの見張りが一応いるくらいか。

もう少し遅ければ騎士団が乗り込む頃にはまたもぬけの殻になっていた可能性は高い。


入口、裏口は流石に見張りが固めてあったが、すでにほとんど引き払っているのか二階の窓は空いている所もある。窓や柱を使えば登れそうだ。

俺は入り口と裏口の死角になるような角に沿って進み、目の前の部屋に誰もいない事を確認して窓枠に足をかけた。





俺が侵入した二階の部屋はすでに空き部屋だったようで、荷物を少し動かした跡が残る以外何もなかった。

昔は誰かの別荘だったようだが、今は手入れされておらずすでに廃墟となっているようだ。

周囲から観察した際、窓が閉まっており、明かりの点いていた部屋が一部屋だけあった。

そこ以外をまずは慎重に探っていく。



誰もいない。

それどころか人が入った気配のない部屋もある。

一階を主に使用していたという事か、それとも行きの道ですれ違った男達が使っていた場所なのか。

ではセフィアはどうなったのだろうか。一階だとまだ人が多そうで厄介だ。すでに連れ出されていればもう遅い。もしくはもう……

いや、ならもう、証拠は何もここに残っておらず、すでに誰もいない……はずだ。

嫌な予感は拭えないが、まだ諦めるのも早い。


そう言い聞かせながら何部屋目だろうか、その扉を開けた時だった。

ようやく最近人が入った痕跡のある部屋に入った。

男女問わず衣服が散らばっている。

微かに独特の異臭が漂う。

つまりは………そういう部屋か。

しかし、ならばここで、しかもこの状態なら……


部屋の中を見渡す。

乱れたベッドの上に人影があった。

逸る気持ちを抑え、静かに近づいて行く。

そこには……俺の探していた人、セフィアの姿があった。

衣服は派手に引き裂かれている。

目の前が暗くなりかけるが、急いで向かう。

目が少し開いており、表情は虚ろだ。


嫌な予感がして思わず腕を握る。

まだ温かい。

急いで脈を確認する。






脈は……あった。


生きている。


息をしている。


目立った外傷はない。


……良かった。








…が、しかし、呼び掛けても返事がない。

目は開いているはずなのに。

言葉ともつかない曖昧な反応が帰ってくるだけだ。







……遅くなってごめん。








そのままはまずいのでとりあえず自分の上着を被せ、急いで抱えて部屋の扉へ向かう。

そのまま廊下に出ようとしたが、二階で唯一明かりの着いていた部屋の方から声が近づいてきたので、少し部屋を出るのを待つ事にする。


「では先に行って準備してきまさぁ」

「頼んだ」


足跡が一つ足早に一階へ降りて行った。

そのまま誰かは話始める。

二人……だろうか。


「しかしあの女、非常に便利だな」

「あぁ、まさか聖女の力を持っているとは」

「最初はお前が殺ったはずだったんだよな?」

「おう、確かに殺したはずだったのに、ちょっと目を離してたら女の傷がたちまち治っててよ。見た目も真っ白だしバケモンかと思って慌てて兄貴に報告したが」

「聞いた時はお前がイカれたかと半信半疑だったぞ。あいつの涙だか血だかがたまたま傷に付いて、傷が嘘みたいに消えちまうまではな。こりゃひょっとすると、と思って連れ帰ったが……」

「血を浴びりゃ誰でもどんな傷でも治っちまう。何回も実験して試したんで能力は間違いなさそうだな」

「あぁ。あれがあればこれから怪我は一切怖かねぇ。本当に良い道具が手に入ったもんだ」


確かにセフィアは生まれつき色素が薄く、肌も髪も真っ白だ。どうもセフィアの話で間違いない。

道具扱い、実験という単語に不穏な空気を感じたが、それより気になる単語が聞こえてくる。


……セイジョ、殺したが、傷が治った?

…意味がわからない。


足音はゆっくり進んでいる。

扉の裏に隠れるようにしながらも、引き続き部屋を出るチャンスを伺う。


「じゃあ下で次の仕事の前祝いといこうか!」

「その前にもう一回あの女で楽しんでくるぜ」

「お前はあの真っ白女が本当にお気に入りだな。確かに見た目の白いのがちょっと不気味な以外はなかなかだったが、そろそろ口封じしとかねぇと。流石に連れ回せねえぞ。血はもう十分取ってあるしな。」


……心臓に刃が突き立てられたような気がした。

そのまま二人の話は続く。


「えぇ…もったいねぇ。」

「移動時に荷物が増えれば足手まといになんだろうが」

「ちょっとだけだろ?それに口封じったって、どうやって殺るんだよあんなの」

「流石に首落とせばいけんだろ」

「どうだかな。指のあともいろいろ試したけど、結局腕、足までは余裕でくっついたし」

「マジか」

「首でも無理なら連れてくしかないぜ、兄貴」

「いやしかしなぁ……もう会話もろくにできねぇし動かねぇし、ほぼ人間としちゃ壊れっちまってるんだろ?首切って投げ捨てて放っとけば……」

「壊れてても誘導されれば、何か受け答えはできるかも知れねぇしよ、万一復活して全部しゃべっちまうとまずいぜやっぱり。」

「……わかったわかった。俺の負けだよ。連れ回すなりなんなり好きにしろ」

「やったぜ!やっぱり話わかるな兄貴は!じゃあいってくるわ」

「結局行くのかよ!…もう先に行っとくぞ。ほどほどにして来ねぇと飯なくなっても知らねぇからな?」

「わーかってるって。でも、あの女にも栄養出してやんないとこれからも血がとれねぇだろ?」

「はぁ…ホント好きだなお前」


もう怒りはとうに限界を超えていたが、どうやら片方こっちに来る事はわかる。


足音が近づいてくる。

廊下は一本道だった。

窓は嵌め殺しになっている。

逃げ場はない。


……やるしかない。


どうやら入ってくるのは一人で間違いない。

一人だけならチャンスはある。

何より怒りをもう抑えきれそうにない。


セフィアを静かにベッドに戻し、念のためにと持ってきていた短刀を構える。


足音が近づいて来る。


開いた扉の影になる位置の棚の裏に隠れる。

扉が開く。


「さぁーて、今日もいっぱい楽しもうなー」


男が灯りを持って入ってきた。

後ろから扉を音を立てず素早く閉める。

少しでも音漏れが防げれば良いが。

と、同時に男に後ろから近づき、一息でその心臓の辺りに短剣を突き入れる。

相手は音もなく崩れ落ちた。

灯りを倒さないように素早く奪い取る。


訓練以外で剣を握るのも、ましてや人を殺すのも初めてだ。

が、心は既に凍っていたのか、なんの感慨も湧かなかった。


短剣を抜こうと思ったが抜けない。強く引っ張ろうかとも思ったが、血が吹き出るとまずい事に気付く。


……やめた方が良さそうか。量産品をこの日の為に買ったので思い入れはない。

そのままずっと隠れる訳にもいかない為、短剣と死体はそのままにし、セフィアを抱えて足音を立てず素早く部屋を出る。


一階から声が聞こえてくるが、廊下には人影はない。

最初に侵入した部屋に向かう。


色々と不可解な事を奴らは話していた。

最初は利用価値があったおかげで殺されずに済んだのかとも思ったが、そうではなく、殺せない、と言っていた。

感情からではなく物理的に不可能だったような言い方や、気分は悪いが指、腕を落としたなどという内容が気になる。


セフィアの身体を軽く確認したが、目立った外傷はなく、もちろん指や腕もあった。


だから少し安心した面もあったのだが……


そして、セイジョ。

…それが最初に思い付く通り聖女という意味だったとしたら、もっと訳がわからない。

何十年、何百年かに一度、特別な癒しの力を持った人間が表れるおとぎ話、みたいなものを聞いた事はある。

が、実際に見た事はないし、あれはあくまでも作り話だと思っていたが……


腕に抱える幼馴染に何かが起こっているのか。

謎は深まるばかりだったが、セフィアは何も答えてはくれない。

まずは逃げ切ってから考えようと思考を切り替える。








一階の宴が盛り上がっている様子が聞こえてくる。

そのおかげか、屋敷を出るのは拍子抜けするほど簡単だった。

急いでやってきた森の獣道を戻る。






どれほど進んだだろうか。

流石に人一人背負って進み続けるにはそこそこきつい山道だ。少し疲れたので、辺りに何もいない事を確認し、脇に逸れて木陰に座り込む。

後ろにセフィアを寝かせて水分補給をしていると、不意に後ろから声が聞こえた。


「…あうぁ……う……こ、こは…?」


それは久しぶりに聞いたセフィアの声だった。


「目が覚めたか?」

「……外?……の、夢……。久々…見る…なぁ…」


まだ意識がはっきりしないのだろうか、独り言を呟いている。


「大丈夫か?」

「アル君がいる…夢……、やった。」


まだ混乱しているようだ。当たり前だろうな。

そのまま手を伸ばし、俺の頬に触れてくる。


「どうした?」

「アル君、すっごいリアル…だなぁ…。」

「目の前に、いるからな」

「こんな風に助けに来てくれたら……」

「うん?」

「でも、もう会えないのかなぁ……」


ん?何だ?


「今目の前にいるじゃないか」

「夢に出てきてくれたのは嬉しいけど……もう私……私…は…」


そのまま少し涙ぐんでしまう。


「何も聞かない。でも、これだけは言っておく。本当に、生きてくれていて良かった。」

「うん、アル君はそう言ってくれそうだけど……私はもう駄目だよ。……もうすぐ、強盗団に殺されちゃうんだ。たぶん次は首だろうし。」


どうにも話が噛み合わない。


「…そこからは一応、助け出したんだぞ」

「もう一月くらい経つけど、結局全然強盗団の人達、誰も焦ってなかったし……」

「……それは……遅くなってごめん」

「……。夢だからって、少し意地悪言っちゃった。最期にちゃんと夢に出てくれたから…良いよ。」


まだ夢だと思ってる、のか。


「いやだから夢じゃないって」

「あーあ……こんなことならもっと無理に学校とかに会いに行けば良かったなぁ…」

「もう卒業だ。これからはもっと会いに来れば良い。なんなら俺の家に住めば良い」

「わぁ、夢だとアル君積極的だなぁ……」

「だから……、夢じゃない。俺は、今、ここに、お前の前に、いるぞ!」


あまり声を張ると誰かに聞こえるかもしれないが、これははっきりと言った方が良いと思い、肩を掴んで少しだけ語気を強める。


「ふぁ?…………んっ………あれ?アル君、本物?えっ、なんで、外……?だって私……」


少し目の焦点があってきた…か?


「だからお前を、俺が助け出したんだ。……遅かったかもしれないけど、もう大丈夫だから。」

「えっ、だって、こんな山奥で……でもアル君…、さわれる」

「あぁ、これは俺の手だ」

「………これって……夢じゃない?」

「夢じゃない。」

「ホントに?」

「あぁ、ホントだ」

「実は夢でしたーって事は?」

「ない。現実だよ」

「……アル君」

「あぁ、俺だ。」

「アル君、アル君、アル君…」

俺の名前を呼んだ後、セフィアはそのまま静かに泣き出してしまった。

「…ッ……グスッ……も、もう…絶対、だ、駄目だって…おもっ、思ってた……」

「っ……本当に、遅くなってごめん」


口をついて出るのは謝罪しかない。

そこでようやく、泣きながらも彼女は表情を和らげ、


「……あ、謝ら…なくてっ…いっ、良い、よ」

「いや、でも……」

「たす、助けに、来て…くれた、んでしょ?」

「……ああ。」

「ありがとう。無理、して怪我してない?」

「あぁ、大丈夫だ。帰ろう、町へ。」

「……うん」


俺の言葉に頷いてくれた。


しばらく休憩したので、回復してきた。

一応セフィアが歩けるか確認しようとしたが、立ち上がろうとした瞬間セフィアがふらついて倒れそうになった為慌てて助け起こす。

そのままさっきまでと同じように彼女を背負う。

セフィアが顔面蒼白になったのですぐに話を切り上げたが、どうやらずっとあの場所から身動きできない状態だったらしい。

一人背負って進むのにも慣れたし、任せろと言うと、震える声だったがちょっとだけ微笑んで

「よろしくお願いします」

と掴まってきた。


そのまましばらく歩いていると、セフィアは静かになり、控えめな寝息が聞こえてきた。


ようやく少しは安心してくれたって事だろうか。


俺はまだまだ遠い町へと道を急ぐ。

続きます。

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