無理ゲー過ぎる落単科目とツンデレ教授:Reboot
これは本編ではありません。もし題名通りの物語ならばどうなっただろうか、という幻想、並行世界、IFの物語です。
「君の描く図面ってサイテーだね」
彼女はそう言って俺の描いた図面を細切れに引き裂いてから宙に投げた。
パラパラと舞う俺の描いた図面は、新生活を彩る桜の花びらのように儚い。
俺が思っていた新生活、2年生、それって…こんなんだったっけ!??
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「2年生の機械手書き製図って講義、スゲー大変らしいぜ!」
俺は理系の大学に通う、春から2年生になれた男、頭綿覚雄だ。そして、隣でひたすら次受ける講義に不安を抱いているのは1年からの友人、星頭紀霊だ。
「手書き製図?製図ってあの、設計図みたいなあれだろ?難しいのか?」
正直、この大学に入って俺はまだ難しい講義に出会っていない。星頭なんかは、「工業力学Ⅰ無理ぽよ~!!」なんてTwitterで良く呟いていたが、工力Ⅰだって高校の物理の延長線上みたいな内容だったし、そう苦戦するほどのものじゃなかった。
それよりも、俺が気がかりなのは…
「そんなことよりだ!!2年生になったんだし、彼女作ろうぜ!!!」
出会いだ!!!!
俺の所属する学科は、女子の人数が6人。6人のうち2人はサークル仲間の男子とばかり一緒にいて、3人は女子だけで固まって生活し、1人は内部進学の学生として高校時代の友人とその知り合いと一緒にいる。
つまり、2年になった今、今更交流を深めることは不可能なのだ!!!
「いや、そんな別に良くね?彼女とかいてもめんどくさいし。第一、お前この大学でそんなこと言うのはラーメン屋でナポリタン探すようなもんだぜ?」
星頭は気の抜けたことを言う。
「なんだよその例えは。せめて、『砂漠で大きな湖を探すようなものだろ』とか、そういうのだろ?」
「砂漠でもオアシスはあるさ。ただ、ここは砂漠じゃない。もはや月面みたいなもんだよ」
「月面だって掘れば水が出るかも…」
「掘るって…女子諦めて男に走るって?」
「違う、そうじゃない」
そう言いながら、ウェズリースナイプスが演じた映画「ブレイド2」のポスターと同じポーズを決める。
星頭はそんな俺を見ながらため息を付いて言った。
「お前見てると、なんだか心が落ち着くよ。今から受ける機械手書き製図も怖くなくなったわ」
そう言って星頭は顔を俺の方から背けた。
待って、なんで、なんか嫌だ。
「…おっと、教室に急ごう。次の講義、遅刻したりすると座席表から名前が消されるらしいからな!」
星頭はそう言って走り出す。俺も慌てて追いかける。
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教室のドアを開けると、座席表がスクリーンに映し出されていた。学番順に座らされているのか、俺と星頭は前後で座ることになった。
「んじゃ、無事生き残ろう。俺、この講義が終わったらお前に言わなきゃいけないことがあるんだから」
なんて、不安しかないセリフを吐いて星頭は俺の後ろの席に座った。
俺の席は前から3番目、教室の真ん中の列だった。比較的教師の目に入りやすい席とも言える。正直、自由席なら絶対に座りたくないような席だった。
チャイムが鳴ってしばらくしても教授らしい人物は来なかった。幾ばくか教室が騒がしくなる。
「教授、来ないな。なんでだろ?」
俺はそっと後ろの席の星頭に尋ねる。
「さぁ…?講義を受けたくない学生が教授を常磐線のホームにでも突き落としたとか?まだ無いんだよね常磐線って。ホームドア」
非常に不謹慎なことを言う星頭。
それから10分経ったところで、息を切らせて1人の男が教室に入ってきた。確か…学科長とかいう人で、新入生オリエンテーションの後の食事会で一度見たことがある人だ。
「こほん…えーっと…、その、ね。この講義の担当でした逸見先生が今朝、急病で入院しまして…」
教室がより一層騒がしくなる。
「それで、ですね。至急別の先生にこの講義をお願いすることになりました。どうぞ」
学科長がそう言うと、ドアをバッと力強く開けて人が入ってきた。
俺はその日、恋に落ちた。
大学生2年目にして、初めての一目惚れだった。
入ってきたのは、身長156㎝程の小柄な女性だった。顔立ちは幼く、一見女子高生のようにも見える。黒い瞳は真っ直ぐと前を見据えていて、肌は雪のように白い。膝までありそうな長い黒髪を揺らしながら、女性は教壇に上がる。
「学科長の説明にあったように、今日から君たちに製図を教えることになった満井だ。宜しく頼む」
その女性は芯のある声でそう宣言した。
俺はその瞬間決めた。この講義を、何回落としても構わない、と。
「急な教師の変更となったが、教える内容はそう変わらない。君たちには工業系の学生として必要最低限の図面を描く知識を教えると共に、物体を3次元的に認識する能力を培ってもらう。何か質問があれば今答えよう」
俺はその言葉を聞いた瞬間に手を挙げた。肘をピンッと伸ばし、天高く真っ直ぐに。
「なんだ?」
さっと席から立ちあがり、声高々に質問をした。
「先生の年齢を教えてください!!!!」
教室に失笑が広がる。しかし気にしない。気にならない。この程度、俺には!!!
一方、満井先生は、ポカンと口を開けていた。それから、ため息を付いてこう返してきた。
「君、名前は?」
「はい!頭綿覚雄です!!」
すると、満井先生は座席表をジッと見てから言った。
「なるほど…頭綿…頭に綿か。一見これから学ぶ学問にぴったりな名前かと思ったが、君の頭には綿が詰まっているのだな」
教室に笑いが零れる。きょとん、と後ろを見ると星頭が言った。
「お前がバカみたいな質問するからだよ」
なるほど、頭に綿、で「ずめん」だからな。頭の中が綿が入ってると…
「ありがとうございます!」
俺は深々と頭を下げた。
まずは名前を憶えてくれたわけだ。これで俺は一歩前進!!!
しかし、頭を上げて先生の方を見ると、先生は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
「…それでは質問は無いようなので講義に移ろうと思う。基本は前任の逸見先生のカリキュラムに沿って行う。その為に…」
満井先生は、さっきまでのことは無かったかのように講義を始めた。
俺はその凛とした姿を眺められることに幸福感を感じながら、同時にこの時間がいつまでも続くことを祈りながら講義を聞くのだった。
次異世界転生モノ書こうかな。本編にはまだ行きません。だって講義始まってないんだもの。