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四と五の他の人目線です。

雪のように白い肌。

陽光に輝く金色の髪。

閉じられた瞼。

陰を落とす睫毛。


すっと伸ばされた背筋に、服の上からでも分かる、緩やかに曲線を描く体躯。


冷徹の騎士と呼ばれ恐れられる、女王直属の女騎士。


中には悪魔や死神と呼ぶものも居ると聞く。


だが、その表現は正しくない。


アルバートはセドリックとシャルルの手合わせを見つめる……その瞳に映しているのはシャルルだけだった。


頬を赤く上気させ、輝かんばかりの大きく開いた眼を向ける。

握り締めたられた手は白くなるほど。


「……天使だ…………」


アルバートの瞳に映っているのは、天使だった。


美しく、残酷。

何の容赦もなく、何の表情も見せず、レイピアを振るう彼女を、天使以外になんと形容すればいい?


「……アフロディーテか?いや、でも、やっぱり彼女は……」


恍惚とした表情でそう呟きながら身体を震わせる。





生まれて初めて見つけた天使。


この世に神はいないと、身をもって知ったあの日、天使や神の存在を否定した。


だが、違った。

ずっと居たのだ。天使は。

見つからなかっただけで。


彼女を見つける為に、これ迄の人生があったのだと思えば、納得出来る。


理不尽だとこの世を憎んだ憎悪の炎も、小さくなった気がする。



「アルバート?」


自分の思考に落ちていたアルバートの意識を引き戻したのは、この国の女王のユリアだった。


「どうかしたの?」


シャルルとは違った、この世のものとは思えない美貌を持つ彼女ではあるが、彼女にはアルバートの心は動かない。


「あ、いえっ!シャルル様も、セドリック様もすごいなっ!と思いまして!!!見蕩れていました!!!」


アルバートの言葉に女王はふっと口角を上げる。


「……えぇ、そうね」


「…おや、こんな所に居られましたか」


二人の会話に割って入ったのは、隣国アクアベールの皇太子ノヴァと、神殿勤めのソレイユだった。


一瞬、アルバートの瞳が鋭くなったことを三人は気づかない。


「……サボりかしら、ソレイユ」


興が削がれたとばかりにアルバートから視線を外した女王が、ソレイユを軽く睨む。


「何をおっしゃいますか女王陛下。私の可愛い子猫が、野蛮な黒騎士と闘っていると聞けば、いてもたってもいられないでしょう?」


悪びれもなくそう言ってみせたソレイユにアルバートは小首をかしげた。


「……子猫?」


その小さな呟きにソレイユが目を細める。


「君ねぇ……一使用人如きが、話しかけられたならまだしも、自分から私たちに話しかけるなんて身の程知らず、大概にしておいた方がいいよ」


「あっ……」


ソレイユの指摘は当然のことだった。

ソレイユもユリアもノヴァも只の貴族ではないのだ。


一国の女王に皇太子、そして王族の血を引くもの。

使用人如きが声を掛ければ、不敬罪にとられることがある。


「然し、給仕係ともなれば多少の言葉も必要でしょう」


助け舟を出したつもりだろうか。

ローズピンクの髪をふわりと風に舞わせながら、ノヴァが言った。


「今は給仕中とは思えませんがね」


「私が、許可するわ。」


皮肉をなおも言うソレイユを女王が遮った。

ソレイユが目を見開く。


「どうせアルバートが私たちの傍にいる時は、口煩い貴族がいない時だもの。アルバート、好きに話していいわよ。」


「えっ?!はっ、え、あ、ありがとうございます!!!」


思ってもみない言葉にアルバートがすぐ様ぺこりと頭を下げた。


ソレイユはそれを見てやれやれと首を振ってから、


「ウィルが怒りますよ……」


と、結界内で審判を務めるウィリアムに目を向けた。


「模擬戦……ですか」


ノヴァが興味深そうに零すとソレイユが笑みを浮かべて答えた。


「えぇ。スピリグレイスの実力者の手合わせですので、退屈はしないと思いますよ」


だが、ノヴァは少し困ったように笑った。


「私の国では、女性が剣を持つこと自体無いので…………少し心配になります。彼女……シャルル様に何かあれば……と」


「ノヴァ様。心配は無用です。貴方の国と私の国は違いますから」


ピシャリとノヴァの思案をきる。


婚約者候補の隣国皇太子にはあまり宜しくない態度ではあるが、ユリアにはそれが許される。

ノヴァ自体そんなことを気にしないということもあるが、スピリグレイスは周辺国の中でも随一。他に追随を許さない国力を持っていた。ほぼ鎖国状態ではあるが、その威光は霞むことがない。

魔法が一因であることは間違いないが、それだけではないことは周知のことであった。


「……あぁ、セディも顔に傷をつけるのは無しだろうに。……あの馬鹿は」


ソレイユが笑顔のままセドリックへの暴言を吐く。


結界内ではセドリックの黒剣がシャルルの頬をとらえ、皮膚を破り赤い血を撒き散らせたところだった。


「今回は、シャルとの一晩がかかってるから、セドリックも必死ね」


「は?女王陛下?今なんておっしゃられました?」


ソレイユが女王の言葉に振り向く。

それを華麗にスルーして女王が笑う。


「セディも無駄なことを……でも、仕方ないのかしらね」


小さな呟きは誰に届くことなく消える。


結界内では決着がついていた。


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