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四の続きです。

はじまりの合図を待っている時に目を閉じるのは、シャルルの癖だ。


精神統一と言えば格好いいが、そんな意味はあまりない。


いや、多少は有るのだがシャルルにとってはそこまで意味のある行為ではなかった。






目を瞑る。

それだけで、世界と遮断された気分になる。

視界を閉じただけ。耳はいつもの様に外野の音を取り込む。

だが、ここは結界内。

聞こえてくるのは、セドリックとウィリアムの呼吸をする音。

目を瞑ればそれさえも聞こえない気がする。

心臓はいつもと同じ。

正常に動き、私を生かす。

どくりどくりと逃れられない音。

空気を吸って吐く音。


いつもと同じだ。

何も変わらない。


転生した?だからなんだ。

私はシャルル・ジルコニーとして生きてきた。

それは変わらない。

だったら、躊躇う必要は無い。

今までどおり生きればいい。


そして、女王陛下の為に死ぬのだ。


それが私の役割だ。

やりこんだゲーム。

思い出せない前世、その中で一つだけ覚えている願い。

人を護りたい。

女王陛下を護ればいい。

女王陛下が誰のルートを選ぼうが、どんな道を行こうが、私は付き従うのみ。


求められるときに死ねばいい。


なんて簡単な人生なのだろう。


ということで、セドリックには悪いが手加減をするつもりは無い。

手加減をすること自体、向こうにとっても不服だろうから。


まぁ、賭けの内容を考えるとあまり勝つ気にはなれない。


いつもなら、腹に穴が開こうが腕をもがれようが勝ちは譲らないのだが、今回は少しくらい引き際を見極めようかな、くらいは思う。


過去の手合わせで腕と足を持ってかれた時が有るが、あれは痛かった。

出来ればそんなこともう嫌なので、今回は程々にしておこう。









なんて、見るものがうっとりとする美貌でくだらないことを考えていたシャルルだったが、ウィリアムのはじまりの合図を聞いた瞬間目を見開く。




「身体強化……」


セドリックが腕を組んだまま呟いた。

直後、シャルルの左手の剣が腕をとらえる。

浅く刻まれた傷がすぐ様塞がる。

そして腕は背中に回されていた。

気にした様子もなくシャルルは次に右手でレイピアを突き出す。


「……優しいな。一撃目でレイピアを使っておけば、腕をとれたんじゃないか?」


セドリックが一瞬の間に抜き去った黒剣でレイピアを受け止めながら言う。

シャルルは答えることなく後ろに飛んだ。


「…………遅いっ!」


セドリックは決しておしゃべりな人間では無い。

普段は寡黙と呼ばれる男だ。

闘いの時も、態々敵に自分の行動を知らせるようなことはしない。

ただでさえも腕の経つもの同士の闘いでは、言葉を発する手間さえも命取りになる。


それでもセドリックは、シャルルとの闘いで口を開くことをやめられなかった。




後ろに飛んだシャルルを待ち伏せたセドリックが黒剣を振るう。

大きな刀身は、着地しようとしたシャルルの足をとらえた。


かのように見えたが、シャルルは刀身に立ちそれを回避した。

そのまま飛び上がり右足で蹴りを入れる。



二人の闘いは初めからフェアではない。




セドリックは騎士であり、魔法師。

全体的に見ればそこまで魔法力は高くない。

だが、物体・身体強化の面ではセドリックを抜く者はいない。

魔法により強化されたセドリックの身体は普通の剣ではそう簡単に傷をつけれない。

傷がつかないのでは無い。

直ぐに塞がるのだ。

大きな傷ならまだしも多少の切り傷は跡形もなく消え去る。

腕の立つセドリック相手に、流石のシャルルも大怪我を追わせるのは至難の業であった。


一方で、シャルルは魔法を使えなかった。

生まれた時からだ。

生まれた時から、シャルルは魔法を使えなかった。

スピリグレイスに生まれ落ちた者は平民であろうが誰であろうが、何かしら魔法が使える。

なのに、彼女には魔法がなかった。

適性がなかった。

それでも、一つだけ身につけた魔法があるが、闘いには役に立たないもの。

だから彼女は剣を磨いた。

幼い頃から無茶だと言われる訓練を繰り返し、文字通り死ぬを思いをして此処に居る。

周りがそれを強要した訳では無い。

確かに、物心着く前の幼子に訓練を始めたのは他人であるが、皆そこまでの力を求めていなかった。

精々、女王を最も近くで護る存在になればと思っていただけだ。


だが、シャルルは国一と呼ばれる騎士になった。


しかし、魔法に勝つことは出来ない。

炎に飛び込む勇気はあっても、炎を消したり身を守る術はない。


シャルルの闘い方は、命を投げ捨てるものだった。




女王は自らの護衛であるシャルルにとある物を授けた。


どんな魔法も退け、無効化するレイピア。


触れた魔法を消す魔法をかけられた特別なレイピア。

女王のみが使える特別な魔法がかけられたレイピア。


折れることもない。永遠にその状態を保つ、シャルルの愛剣。
















「……っ!!!」


セドリックの背中に短剣が刺さる。

すぐ様刃は抜かれ、身体強化によって塞がる傷だったが、その隙を見逃すシャルルではない。


低姿勢から弾丸のように真っ直ぐ跳躍したシャルルはセドリックの左足にレイピアを突き刺した。


獣のような声がセドリックから零れる。

引き抜かれたレイピアから鮮血が滴る。


だが、シャルルは動きを止めない。

間合いをつめ左手の剣でセドリックの腹を狙う。

それはセドリックの左足によって阻まれた。


レイピアによる傷は治らなくとも、ただの剣ならば治る。


「……っりゃっ!!!!」


叫び声をあげながら、剣を蹴り飛ばす。


シャルルはあっさり左手の剣を捨て、右手のレイピアで反撃に出た。


然し、攻撃は届かない。


逆にセドリックの黒剣がシャルルの頬をとらえた。

白い皮膚が裂かれ、赤い花が散る。


その勢いのまま後ろに飛びシャルルは捨て置いた剣をとり、投げた。


それなりの重量、それなりの大きさの剣を投げる女なんて普通はいない。

男でもいない。

やろうと思うはずがない。

確実に肩とか腕とか痛める。


それを躊躇いもせずにシャルルはやった。


そして、飛んできた剣を黒剣で弾いた。

その拍子に剣は根元から折れてしまう。


シャルルのレイピアがセドリックの肩を貫いた。


「っ?!」


シャルルが手合わせ中初めて表情を変える。

レイピアが抜けなかった。


「ぐっ、っはぁっ!!!!」


肩を貫かれながらもレイピアを握り締めたセドリックは、黒剣の柄でシャルルの鳩尾を思いっきり押した。


物体強化された黒剣はいとも簡単にシャルルを飛ばした。


「っ、はッ!」


鳩尾を押されたことによる生理的な現象で、シャルルは声を上げ口内の唾液を吐き出した。


その間にセドリックは肩に刺さったレイピアを抜く。


そして、地面に倒れ込んだシャルルにトドメを指すべく間合いを詰めた。


今日はもう一話投稿できそうです。

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