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長くなりそうだったので、分けました。

「いち、に、さん、そこで足は引く!切り返しが遅い!」


鋭い指摘と共に白刃が煌めく。

目にも留まらぬスピードで放たれる剣戟を、アルバートは必死の形相で受けてめていた。


「うっ、えっぇおっ?!」


重い一撃一撃を弾いていたアルバートの足元が揺らぐ。

そのまま間抜けな声を上げながら後ろに倒れた。


「……此程度も受け止められずにどうする?せめて国剣術くらい覚えろ。身体に叩き込め」


「は、はい!」


尻もちをついたアルバートが返事だけはしっかりとした。

その姿をシャルルは横目で見ながら剣を置く。









一体何をしているのかと言うと、簡単な話だ。

女王に気に入られた給仕係アルバートへの剣術指導。

アルバートは本来シェフ見習いで、女王の前に出るような立場でないが、当の本人に望まれているのだから仕方ない。

傍に立つからには、最低限盾になる術くらいは身につけておかないといけない。


そこで、女王の護衛であり、国一の騎士であるシャルルが直々にアルバートに稽古をつけているのだった。


余談だが、シャルルの稽古はあまり好かれない。

手合わせを望むものは大勢いるのだが、稽古となれば話は別。


それもそのはず、シャルルの稽古は殆ど参考にならない。


国の正式な剣術を教わるくらいなら問題ないが、実践的なものになると、格が違った。


スピードが桁違いなのだ。

目の前にいたかと思うと、後ろにいる。

意識を刈り取られた者が口を揃えて言うことが、「金色の霧が見えた。」

勿論言葉のまま受け取るものはいない。

シャルルが目にも止まらぬ速さで動いていること、金色の髪だけが舞い目に止まったことを話しているのだ。


シャルルの強みはそこだけでない。的確に人間の急所をつく。

一撃で意識を刈り取る部位。

行動不能となる部位。

戦意を喪失させる部位。

か弱いように見えて、魔法強化をしなくても重い一撃は、的確に、そして最速で敵を無力化する。


参考にならない。


そのため兵の稽古は殆ど騎士団長のセドリックが担当するのだが、アルバートは兵ではなく女王に直接関わるということで、シャルルが稽古をつけているのだ。











「シャルル、偶にはどうだ?」


途中から二人の稽古を見ていたセドリックが剣を持ち上げ声をかける。


手合わせのお誘い。


シャルルにそんなこと言える人物はセドリックぐらいしか居ない。

同時に、国一の騎士と騎士団隊長の、二人の手合わせとなるとただの手合わせから随分意味合いが変わってくる。


「ふぅん、珍しいね。セディがそんなこと言うなんて。私は構わないけど?」









不思議な話で、転生したことはわかっても具体的な前世をシャルルは思い出せなかった。

剣道をしていたことは覚えている。だが、真剣を握る血腥い世界を生きていた訳では無いと思う。

だから、以前のことを思い出したうえで人を斬るなんてもう出来ないのでは?

そんなことを少なからず思っていた。

だが、物心ついた時から女王を護るために磨き続けた剣術は身体に染み付いていた。

意志に関係なく身体は動く。


『誰かを護りたい』


前世からの願いは或る意味叶ったと言える。


今までと変わらない生活。

二次元のイケメンが現実になっても、悲鳴をあげて倒れることなく接することが出来る。


慣れとは恐ろしい。



そんなこんなで、シャルルは倒れた後は今までと変わりなく過ごしていた。








「真剣で?それとも刃引きしたもの?」


「真剣とレイピアだな」


「……へぇ、魔法有りで?」


「偶には、な?」


刃引きした模擬剣でなく、各々の愛剣。


セドリックならば大きな刀身の黒剣。

シャルルならば女王陛下に賜ったレイピア。


魔法も有りとなると、ただの手合わせとも言ってられない。

どちらかが死ぬ可能性も出てくる。

実際、二人の手合わせの終結は、どちらかが瀕死の重症を負う、若しくは意識を失うことが条件だ。

勿論、すぐ様治癒魔法をかけるので死ぬことは無いが、痛みはある。


シャルルは不敵に笑って、腰に革のベルトをつけた。

そのままレイピアや短剣などを隠しもせずに携えていく。


「今は私が勝ち越してたわね?賭けは?」


「俺が勝ったら、お前の一晩俺にくれ。」


セドリックが愛剣を撫でながら事も無げにそう云う。

シャルルはへぇっと一瞬目を見開いたが、笑みを戻し言葉を返した。


「私が勝ったら…………久々に“練習”付き合ってくれる?」


その言葉に顔を青くしたのは、二人の会話を静かに見守っていた……いつの間にか集まっていた……騎士団の面々だった。


シャルルの“練習”それは、稽古でも手合わせでもない。

治癒魔法が使える者のみが付き合わされる、地獄のひととき。


「……わかった」


騎士団団長のセドリックですら嫌そうな顔をする“練習”。

シャルルにとっては、練習という名のストレス解消であった。



「私が立ち会うわ」


稽古場に響き渡る静かで通る声。


即座にその場にいたもの全員が膝をついて頭をたれる。


「シャル、アルバートの調子はどう?」


「……筋は悪く御座いません。3日もあれば、最低限の肉壁にはなりますでしょう。」


「酷い言われようね。アルバート、後でセディに教えを乞いなさい。肉壁なんて要らないから、シャルに前言を撤回させるくらいまでは努力なさい。」


「は、はいっ」


筋は悪くない、それはシャルルが使う最大限の皮肉。

続けた言葉が何よりの証拠である。

肉の壁など、本来なら女王相手に使わない。

そんな言葉を使うほど、アルバートの剣の腕は酷いという事だ。


「話が逸れたわね。私が二人の手合わせの立会人をしましょう。ウィリアム、貴方は審判を」


「承知しました」


女王の傍らに控えていたウィリアムが一礼する。


それを見届けた女王は右手を掲げた。



シャルルとセドリックを中心に、しゃぼん玉の膜のようなものが広がっていく。


大体半径10メートル程の円まで広がったところで、膜は拡大をやめた。


女王が作り出した魔法による結界。

誰であっても女王の魔法には干渉できない。


魔法も有りの手合わせでは、周りへの害もないようにしないといけない。

彼女の結界は最適であった。


女王の気遣いに二人は礼をして返す。


「やっちまえ!シャルル殿!」

「団長!頑張ってください!!!」


なんて声が外野から飛び始める。



残念ながら、結界の中に音は聞こえない。

結界の中からは外の世界も見れない。

全くの無駄である。


ウィリアムが結界の隅に身を置く。

流石に審判者は結界の中にいなければならない。尤も、自分の身を守れないものはその役目すら負えない。

その点では、国一、国二を争う騎士の手合わせを審判するウィリアムもただものでは無い。


「準備は整いましたか?」


ウィリアムの言葉に各々の返事を返す。


「あぁ、いつでも構わない」


「えぇ、いつでもどうぞ」


セドリックは背中に背負った黒剣にも腰の剣にも触れず、腕を組んだまま、シャルルは腰のレイピアに手を添えてはじまりの合図を待っている。




ウィリアムが大きく息を吸った。




「…………両者構えて………………、始めっ!」




次回闘います。

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