二
夢を見ていた。
私は何の変哲もない人間だった。
特出した才もなければ、見目も大して良くない。
つまらない人間。
ただ、幼い頃から続けていた剣道だけが、私の誇りだった。
誰かを、誰かを守りたい。
そのために、心から強くあれ。
ただそれだけ。
……私が、守りたかったのは誰だったのだろう。
今はそれすら思い出せない。
この世界が、ゲームだと言うのはわかる。
シャルルになる前にプレイした記憶が有る。
でも、詳しい内容は思い出せない。
シャルル·ジルコニーはどのルートでも死ぬ。
それだけ。
別に構わない。
それでいい。
私は女王陛下の騎士なんだもの。
大好きな作品に転生できただけ、マシというもの。
ならば、女王陛下の幸せの為に、この命くらい、捧げる。
普通転生したら、死ルートを回避するのだろうけど、そんなことする気は無い。
私は私の役割を全うしてみせる。
それが悪役だろうと関係ない。
守りたいものが変わっただけ。
シナリオにあった行動をすればいい。
簡単なこと。
『シャル、俺はお前が_____』
思い出せない、懐かしくて、愛しくて、優しい思い出。
大切な筈なのに、思い出せない。
私は、何を忘れてしまったのかな。
「目が、覚めましたか」
「……ウィリアム、女王陛下はっ?!」
「まだ起き上がらないで下さい」
飛び起きたシャルルをウィリアムがベッドに押し戻す。
「女王陛下から伝言です。シャルは今日一日ベッドから出ないように、と。女王陛下にはセディが着いていますから、心配有りません。寝ていて下さい。」
そういうなりウィリアムは手をシャルルの額にあてた。
「熱は……下がったようですね。覚えていないでしょう?倒れたのですよ。貴女は。過労です。働きすぎです。女王陛下に心配をかけるのですから、もう少し考えて行動しなさい」
「けど、女王陛下は……」
「“眠れ”」
ウィリアムがそう唱えた瞬間、シャルルの身体がベッドに沈んだ。
魔法である。
普段なら、自分に魔法をかけさせるようなヘマはしないが、体は疲れていたのだろう。
シャルルは深い眠りについていた。
「……貴女は、もう少し自覚した方がいい」
長い睫毛を伏せ、ウィリアムは呟いた。
色を失った白い頬を手の平で撫でる。
「嗚呼、また女王陛下の機嫌が悪くなる」