布団は聖域
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一つ目の店に着いた。布団屋だ。
店内のどこを見ても、ふわふわっとした布団が並んでいる。素晴らしく聖域だ。
「あぁ、探偵事務所さん! また新しい布団ですかー?」
「またとか言うな」
「ははは、すいません」
店長の札を着けた男性も、布団のように軽いノリで話しかけてきた。その顔は胡散臭い雰囲気が漂っている。布団屋というか、やり手の商売人らしい。
「どれにします? いつもの型ですか?」
「ああ、それでいい」
「はーい。ささ、今回の布団はあなたのです? ご案内しますので、どうぞこちらに」
返事をするまでもなく、背中を押されて案内される。やがて、一つの布団セットの前へと辿り着いた。
「このタイプですねぇ、何色がいいですかー?」
「えーえっと、仁さんは何色を使ってらっしゃいます……」
被らないように訊ねようとしたところ、仁の姿は遙か遠くの方にあった。全く聞こえていない。というか、外だ。たばこを吸っている。
「あぁ、探偵事務所さんはですねぇ……この薄い紫のものと灰色のものと、こっちの薄い緑のものを買ってますねぇ」
大きいファイルをゴソゴソと捲り、店長が説明してくれる。わざわざ記録してあるのか。
「ああ、これですか? いやぁ、私、記録とかメモとかしたい性分でして」
「は、はぁ」
聞いてないのですが。一紀は店長に硬い笑顔を向けた。
「で、何色にします? 色の表はこちらですよ」
「あ、じゃあ、茶色にします。この薄いの」
「茶色のセットでいいですかね? では、あちらでお待ちください」
「はい」
示された場所に向かうと、既に仁が座って待っていた。一紀の姿を見つけるとスッと立ち上がる。
「決まったか?」
「はい」
「なら良かった。先に外行ってろ、もう終わる。荷物は俺が持ってくから気にすんな」
「分かりました」
笑顔を全く崩さない店長とのやりとりを終え、仁が布団を片手に出てきた。さすがだ。軸を崩さないままに、軽々と持っている。
「よし、次の店行くぞ」
「はい!」
荷物をトランクに入れ、車に乗り込む。
今度もまたシートベルトは発進に負けた。