外国?
「おい、決まったか?」
仁に「おい」と話しかけられた。他人ごっこの終わりである。
「はい。大丈夫です」
「よし。んじゃ、次行くぞ。会計してくるから、ちょっと待ってろ」
かごを預け、入り口付近で待つことにする。
一紀はそわそわとした。やはり彼らが気になるのだ。やがて戻ってきた仁に、何の前振りもなく質問をぶつける。
「さっきのお二人はどなたなのでしょう? ああ、いや、誰でもいいんですけど、その、外国人のようでしたので……」
「見てたのかよ。あいつらは……ああ、そっか、普通じゃねえもんな」
「え?」
「この世界はあんなのばかりだぞ。俺たちみたいな日本人顔は事務所周りの地域くらいだ」
「へぇ、外国の人がたくさんいるんですか!」
「そんなウキウキすんなよ」
「へへへ」
仁に呆れられながらも、一紀は楽しさを隠せなかった。だが、そこでふと思い出す。
「あれ、そういえば景さんって……」
日本人らしい顔ではなかったような、そんな気がする。
「ああ、あいつか?」
話ながら車のドアを開け、仁が乗り込む。中で話そうということらしい。
「あいつはな、ようはハーフだな」
「ハーフですか、言われてみれば……」
いや、待てよと思う。一紀は正直な話、景に対して警戒心があって、きちんと顔を見れていなかったような――よし、黙っておこう。
「景は、日本人が半分だ」
「あと半分は?」
「本人に聞け」
「えぇ……」
景と二人で話ができるだろうか、いや、自信がない。彼が自分のことを話すかどうかも怪しい。
考え込む一紀の様子を横目に、仁は車のエンジンをつける。
「まあ、今は無理あるか。あいつ、なんか変だしよ」
「変ですか?」
「基本的に、景は他人に対して、人当たりのいい穏やかな姿勢で接する。初対面であの態度っつぅのはあまりねえんだ。おまえら、前に会ったりしてねえよな?」
「自分の記憶の限りではないですね――ってことは、何か気に障るようなことを……」
「ちげーよ。たぶん、距離感を測れてねえだけだ。おまえは客でも仲間でもねえし、友人でもねえ」
「距離感……」
「そのうち慣れてくだろ。嫌でも一緒に生活すんだからよ」
「あの、仁さん」
「ん?」
「一つ、お願いがあるんですが」
「ちょっと待て。今から昼飯食いに行くんだ、そこでじゃダメか?」
「あ、はい、平気です」
「何がいいか、五秒以内で答えろ」
「えっ、じゃあ、ラーメン?」
「よし、決まりだ」
それでいいんかい。一紀の目はそう返したが、彼は見ていなかった。車を発進させ、次の目的地へ向かっていく。
助手席で一紀は決意した。今思い立ったものを、必ず彼らに提案しよう。そして、認めてもらおう。
黙っていても、じっとしていても何も変わらない。
ここでできることを探して、さらにできるのならば、ここに来た意味をもきちんと見つけたいのだ。