朱色 後編
朱色、後編です。主に銀朱と真朱に関して話すつもりですが、結果的に辰砂の話題のほうが多くなる可能性が高いです。
まず、辰砂を用いた朱色は貴重です。だから、硫化水銀を用いた人工の顔料を作りました。それが、銀朱です。字面を考えると銀色がかった朱色を連想する(というより、私がしただけです)かもしれませんが、関係はありません。色合いは真正の朱色よりも鮮やかで黄色がかっています。現在の朱肉や朱墨はほとんどこの色を指します。こちらのほうが安いため、主流になったのでしょう。正直、文章では使いづらい色名だと感じますが、作中に出したい場合は、人造・人工であることを強調するときにおすすめかもしれません。
銀朱に関する話はここまでです。次は、真の朱色である真朱色について語ります。始めに、真朱は天然の硫化水銀原鉱――すなわち、辰砂から採れた色です。銀朱よりもくすんでいて、鈍い色をしています。さらにいうと、赤みの強い深い色合いでもあります。こちらも文章に出しづらい色名ですね。真紅と似たようなものですので、天然・本物・貴重・高価・混じり物がないという意味を強調したい場合に用いるとよいかもしれません。
また、原料に水銀とあるあたり察しがつくでしょうが、どちらも有害です。辰砂は単一のものとしては地球上で最も毒性が強いと、書かれていました。もっとも、朱肉に入った硫化水銀は水に溶けません。体に入っても毒で殺されたりはせず、毒物・劇物の指定を除外されています。
ちなみに辰砂の別名に賢者の石があると、Wikipediaに堂々と書かれていました。賢者の石というと、錬金術(卑金属と貴金属に変える術)ですね。対して、これから書くのは錬丹術(不老不死になる薬を作る術)です。なんでも水銀は飲むと不老不死になれるらしく、権力者たちがこぞって飲んで苦しみながら死んでいきました。そして、水銀は辰砂を加熱して水銀蒸気を冷やすことによって、作り出されます。したがって、辰砂と賢者の石が混同され、賢者の石は赤いイメージになったのではないか、という説もありました。余談ですが、辰砂は和語で丹といいます。錬丹術の丹はそこだったか、と某錬金術の漫画を読んでいた身としては思いました。さらに、宝石の国という作品の登場人物に《シンシャ》というキャラクターがいるようで、「ほー」と言いながらキャラクターのページを閲覧しています。
そんな水銀および朱色の元となった辰砂ですが、イメージとしては以下の通りになります。
「艶っぽい」「光沢」「珍重」「貴重」「最高級」「重厚感」「美しい」「魔除け」「不老長寿」「賢者の石」「錬丹術」「有害」「毒物」
毒物・有害といったマイナスイメージもありますが、美しさの中に毒があるといったギャップも出せますので、創作者にとってはおいしい鉱石です。
さて、ここからはおまけです。朱華色に関して説明します。第一に、朱華とは謎に包まれた色のことです。元が植物であることだけは確かですが、いまいち詳細を掴めずにいます。その植物とは庭梅や庭桜・木蓮・芙蓉・ザクロの花だったり、どれが正しいのか不明ですね。色も「鮮やかな朱色に近いオレンジがかった薄い赤色」だったり、「薄紅」だったり、まちまちです。今のところ、庭梅の色というのが主流のようですね。
色から連想されるイメージとしては、次のようなものが上げられます。
「由緒ある」「華やか」「雅」「風流」「謎めいた」「移り気」「儚い」「最高位」
元となった花がハッキリとしていないため、銀朱・真朱以上に文章に出しづらい色です。使うときは、ザクロの花の色や庭梅といった、花の名前を出すといいかもしれません。補足しますと、ザクロにはこのような花言葉があります。
「円熟した優美さ(花)」「子孫の守護(全体)」「愚かさ(実)」「結合(実)」「互いに思う(木)」
「円熟した優美さ」とは「上品で完成された美しさ」を指します。由来はギリシャ神話で、ペルセボネーという冥界の女王に関連する話となっています。
朱色に関しては、これで終わりです。
正直な話、鳥居の色に関連する色名は丹色を含めて完全に把握し切れていません。使い分けは、朱色が鉱石・丹色が赤土といったイメージで使い分けるといいかもしれませんね。