蘇芳(すおう)
蘇芳は黒みを帯びた赤色です。媒染する素材によって色合いが変わります。
例えば、明礬を使用すると赤。
アルカリ性水溶液だと赤紫。
鉄を用いた場合は黒みがかった紫。
といった具合ですかね。
蘇芳色で検索をするとカラーコードにバラつきが見られます。いちおう、どれも正しくはあるのでしょう。マンセル値と異なる数値の色は、染め方が異なったというだけの話ですかね。
元となったのは色と同じ名前の小高木です。インド・マレーが原産で、芯材を染料とするそうです。飛鳥時代に貴重な貿易品として渡来し、平安貴族に愛されていました。禁色(地位に応じて禁じられた服)にも指定され、白・黄丹・紫に次ぐ四番目です。たいへん高貴な色だったというわけですね。
しかし、江戸時代になると紅染めや紫染めの代用になり、一般化します。木材を染めて紫檀の模造品を作ったとも、されています。これらの要素を考えると、偽物・代用品というイメージが強いですね。
また、蘇芳色は固まりかけた血と表現されることがあります。
血はかわくと茶色くなります。理由はヘモグロビン色素が空気にさらされた結果、酸化するからです。蘇芳色も褪せると茶色に変色します。まさに、血の表現にピッタリな色だと言えるでしょう。褪せやすい色でもあるため、蘇芳の醒め色という言葉も生まれています。
こう見ると、マイナスのイメージが多いですね。色名としても、マイナーな部類かと思われます。私自身、とあるキャラクターの名前で見るまで、この色に関して知りませんでした。用例jpで検索しても、一六ほどしか例が出なかったため、データが少ないです。強いていうなら着物(訪問着)・返り血を浴びた様子などに使われているといった程度でしょうか。
真紅が本物なのに対して、こちらは代用品すなわち偽物です。対にするにはピッタリな色名ですね。
しかしながら、似紅と区別されたとしても元は蘇芳という高貴な色です。響きも古風で、和服とも合いますね。(個人的に、臙脂と似たものを感じます)色自体も決して地味ではなく、上品で落ち着いた印象を受けます。
まとめると、連想される単語としては以下のようになります。
希少、高貴、優雅、上品、落ち着いた、血液、褪せやすい、代用品、偽物。
元は貴族だったが没落して庶民と同じになった者や、偽物と呼ばれながらも胸を張って生きている――そんなキャラクターの表現にも合うかもしれませんね。
余談ですが、色名とは別に花蘇芳という花があります。名前は、花びらの色が蘇芳で染色したものと似ていることに由来します。実際の色はピンクに近い赤紫でして、こちらのほうが鮮やかで華やかな印象を受けますね。
花言葉は調べたところ、「高貴」「質素」「裏切り」「不信仰」「疑惑」「豊かな生涯」「目覚め」「喜び」 「エゴイズム」「人のおだてに乗りやすい」「裏切りのもたらす死」でした。裏切りの象徴であるユダに関連しているため、花言葉も悪い言葉のオンパレードですね。
さらに蛇足ですが、蘇芳という字を分解すると次のようになります。
「蘇」
蘇る・目覚める・薪・草を刈る・持つ・求める・引っ張る・向かう・逆らう。
「芳」
若草の香り・匂いがよい・評判がよい・優れた人物・賢い人物。
有効活用は果たして、できるのか。