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5、町で食事をしよう

 爺さんの隣に並べれられていた小銭が光ってくれたおかげで、この店で硬貨の買取をやっていることが分かった。


 俺はさっそく日本の硬貨を並べてみる。

 祖父さんは五百円玉を手に取り、拡大鏡で確認をし始めた。


「なんじゃこの精密な造りの硬貨は…」


 顔が拡大鏡のせいで半分見えないが、声で爺さんが驚いていることはよく分かった。


「これりゃどれも工芸品じゃな。高値で買い取らせてくれ」


 結局、小銭1538円分が金貨5枚と銀貨50枚に化けた。

 本当は全ての硬貨を売りたかったのだが、爺さんが「各1枚は残しておけ、後に何かの役に立つと思うぞ」と言ってくれたので手元に残すことにした。


 そして俺は紙幣も見せた。


「これも素晴らしいのぉ、だがうちでは紙幣は扱っておらんのだ」


 この世界で紙幣を使っている国は少ない。


「それは持っておくといいだろう。高価な美術品として役立つかもしれないぞ」


 紙幣が美術品とは驚いた。

 ここは爺さんの助言に従っておくとしよう。


「それじゃありがとな爺さん」

「こちらこそ、いい商品を売ってくれて感謝しとるよ。また何かあったら持って来るんじゃぞ」


  ◇ ◇ ◇


 買取屋を出た俺たちは次にシーツなどのリネン類を扱ってる店に向かった。


「ご主人様、先ほどは驚きましたよ。まさか領主様のご息女にお会いするなんて…」


 リリが先ほどのことを思い出したようで、改めて驚いているようだ。

 かんたんに会って話ができる相手ではないのだろう。どちらかといえば雲の上のような存在か。


「そうだよな。おじさんもびっくりだよ」


 俺的には身分よりも、女性に手を握られて見つめられたことに驚いている。

 今まで女性とお付き合いしたことは数える程度、俺は今でも独身なのだ。


「あのお店良かったでしょ?こうやってお金も手に入りましたしね」

「ご主人儲かった」


 あの店で手に入れたお金は、金貨5枚と銀貨が合計で60枚となった。

 これだけあれば宿を開業するのに十分だと思う。


「二人のおかげだよ」


 俺はリリとベスの頭を優しく撫でる。

 二人の笑みは天使のようだ。

 

 そんなことを話していると次のお店に到着した。

 買取屋と同じく裏路地で、リリがお勧めしてくれた店だ。


 ここではシーツや枕カバー、タオルなどを買い、三人の衣装も買うことができた。

 ただ荷物が多くなり過ぎたので、明日馬車で宿まで運んでもらうことになった。

 運賃は銅貨10枚。リリによると適正価格らしい。

 一定以上買えば送料無料というサービスは、この世界にはないようだ。


 最後に宿で使う食材を買ったところで夕方となった。


「夕食はどこかの食堂で食べないか?」

「よろしいのですか!」「ご主人すてき!」


 目を輝かせる二人。

 この世界にも外食という文化はあるそうだが、高級なお店は裕福な商家か貴族が利用するそうだ。


 一般庶民は酒場を利用するが、子供を連れて入るには適していない。


「今日はお金があるから、どこのお店でもいいぞ」

「ご主人様、本当にいいお店に入ると金貨1枚がすぐに消えますので、お店は選んだ方がいいです」


 なるほど。金貨1枚はさすがに高い…。

 どこのお店でもいいと言ったが、結局リリが知っている店にした。そこは酒場と食堂をあわせたようなところで、やはり裏路地にある。


 安いお店ならリリに任せておけば安心だ。


 店の名は豊穣のクマ屋。よく分からないネーミングである。


 店内は、裏にある店にしては小綺麗で、奥の厨房で主の女性が調理を行い、ホールは三人の若い子が給仕をしていた。

 

 酒場として利用する者はカウンター席か、その後ろにある二人用の席を使い、他の四人席は子供連れか食事が目当ての客が座っている。


 俺たちは酒場ブースに近い席に座った。 

 店は繁盛しているようで、そこしか空いている席がなかったのだ。


「いらっしゃいませ。豊穣のクマ屋へようこそ」


 給仕の可愛らしい女の子がメニューを持って来てくれた。

 年齢はリリよりも少し上だろうか。


 メニューを見て驚いたのだがビールと思われるベアーという飲み物があったことだ。

 親切にも原材料が書かれていたのだが、これは間違いなくビールだと思われる。


 カウンター席を見てもそれっぽい物を飲んでいる人がいたからだ。

 しかも冷えている! 


 俺はビールと肉料理を注文。

 リリとベスは卵料理とパスタをそれぞれ注文していた。


 この世界の食べ物は俺の世界と大差はないようで安心した。 


「しかしリリ、よくこんな店知ってたな」

「この辺りに住み着いてた頃、ここの女将さんが時々余った料理を分けてくれたんです。まだベスが小さかったので…」


 姉妹はこの辺りでニ年間も路上生活をしていたようだ。

 そこで恵んでもらったり、簡単な仕事を手伝ったりして食いつないでいたらしい。


 それ以前のことは話してくれなかった。


「おや、リリとベスじゃないの。ちゃんとした服を着て、誰かに拾われたのかい?」


 姉妹に気づいた女将さんが奥から出てきたのだ。 

 この女将さん、熊かと思うほど大柄で顔も怖いが、根は優しそうである。


「お久しぶりです女将さん」


 リリは女将さんに挨拶したあと、俺のことを話してくれた。

 俺も自己紹介をして、二人の現状を女将さんに説明しておいた。

 彼女の名はアンジェラ・レイノルズ。

 孤児を引き取って給仕として働かせているようだ。


 リリも引き取ろうと思っていたそうだが、幼過ぎたのでご飯を食べさせてあげたり、買い物に行かせたりして給金を渡して彼女たちの生活を支えていたようだ。


「二人とも無事でよかったよ。一年くらい見かけないから奴隷商人にでも捕まったんじゃないかって心配してたんだからね」


「ごめんなさい。いろいろありまして…」

「無理に話さなくていいわよ」


 女将のアンジェラはリリの頭を優しく撫でる。


「今は素敵なご主人様に拾われたようで良かったじゃないか」

「はい!」「うん、ベス幸せ」


 二人は元気よく返事をしたのだった。


「喜連さん、これからも二人をよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、今後もよろしくお願いします」


 俺が宿を開業すると知った女将さんが、食材を一緒に調達してくれることになった。

 それを取りに来るのはリリとベスの仕事になる。


 一時は母さんのように慕っていた女将さんに、二日おきに遭えるということでリリとベスは喜んでいた。


 今まで散々苦労を味わってきたのだろうから、これからは平和な日々が続くように努力をしよう。俺には二人を育てるという目標ができた。


 女将さんが厨房に戻ると、入れ替わりにベアーとつまみが運ばれて来た。

 まさか冷えたビールがこの世界でも飲めるとは予想外である。


 どうやって冷やしているのか気になったので聞いてみると、魔法で冷やしているそうだ。

 この給仕の女の子はマヤと言って、魔法が使えるらしい。


 肉料理の場合は、火の魔法を使って目の前で炎のパフォーマンスをすることもあるらしい。


 程よく酔ってきた頃、何気なくカウンター席を見ると、何やら怪しげな手つきをしている男がいた。


 周囲の視線を警戒しているようで、何度もあたりを見ている。


 そして奴の手が泥酔している客の懐に伸びていく。


(あいつ、なんか見たことあるな…)


 俺は少し前の記憶を掘り起こそうと試みる。


(そうだ、あれはスリの万次郎だ)


  ◇ ◇ ◇


 アキトが万次郎の動きを凝視しているころ、店内の入口には怪しげなローブを目深に被る女性が立っていた。


 運を司る女神フォルトゥーナだ。


「いらっしゃいませ。豊穣のクマ屋へようこそ。お一人様ですか?」

「あわわ、あ、はい」


 フォルトゥーナはアキトの席の近くを指さそうとしたが、運悪く一番離れた席に案内されてしまった。

 彼女は給仕に抗議の視線を送るが気づく気配はない。

 

 フォルトゥーナはアキトの後ろ姿を眺めながら買取屋でのことを振り返る。


(古銭を光らせたのは私だって、アキト様は気づいてくれたかな…。ああ、後ろ姿も素敵だわ…)


 なかなか注文をしない客に給仕のスイは苛立ちを覚えつつあった。


「お客様、ご注文は何になさいますか!」

「は、ふぁい、こ、、、、これ」


 驚いたフォルトゥーナが適当に指さしたのは、この店で一番高い肉料理であった。


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