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4、町でお買い物をしよう

 町に着いた俺たちは、剣を換金するために裏路地の買取屋に向かった。

 

「リリ、ここであってるのか?」

「はい、噂では目利きのおじいさんがやっているそうで、一見客であってもぼったくったり買い叩いたりはしないそうですよ」

「そいつは有難いな」


 目的の店は裏路地のさらに奥まった場所にあった。まるでダンジョンだ。


 こんなところ誰も来ないだろうというくらい薄暗い場所だったが、小さな酒場や雑貨屋などもあり、客層を見ると地元の人が多いようだ。


 俺は古びたドアノブに手をかけ開こうとしたが、何故か扉は開く様子はない。

 逆に押してみるがそれもダメであった。


(休みか?) 


「ご主人様、このお店の扉は引き戸ですよ」


 そういうことは先に言って欲しいぞ、リリ。

 何かのコントかよ、と思わずツッコミたくなる扉だ。


「ここの店主のちょっとした遊び心ですね。でも、これで初めての客かそうでないかを見分けているそうなんです」

「なるほどね」


 それを見分けて、一見客なら買い叩くのかとついつい考えてしまうが、ここはリリのいうことを信じよう。


 ガラガラと音を立て扉が横に開く。薄暗い店内に入り俺は口を開いた。


「邪魔するよ」

「いらっしゃい。意外と早く扉のカラクリに気づいたようじゃやな。誰かの紹介かね?」

「まぁ、そんなところだ」


 この店は中古品の買取と販売を行っていて、カビ臭い防具や骨董品のような剣まで置いてある。


 手入れはきちっとされている。この爺さんが腕利きなのかは分からないが、確かな技能を持つ職人がこの店には絡んでいるようだ。


「その様子だよと買取かい?」

「そうなんだ。この剣なんだが、どうだろうか」


 あまりこちらの情報を出し過ぎると足元を見られる可能性があるので、金に困っているような話は一切出さないようにした。


「蔵を掃除してたら出てきたんだ。先祖が使ってたとても古い剣だ」


 爺さんは、拡大鏡で剣をじっくりと調べ始めた。


「確かに年季が入っておるな…」


 うーんと言って考え込む爺さん。

 表情が固いので、どうやらあまり良い剣ではなさそうだ。


「これはお前さんの言う通り古い時代の物でな、これを専門に集めている者がいれば高値で買ってくれるのだが、生憎この町でそれを集めている者はおらんのだ」


 爺さんの言っていることはよく分かる。

 ネットオークションがこの世界にあれば買主が早く見つかると思うが、この店に置けば不良在庫になってしまう。

 

「残念じゃが、銀貨5枚といったところかの…」

「リリ、5枚ってのはこの国では何ができるんだ?」


 腕を組み少し考えてからリリは答えてくれた。


「おそらくですが、宿を五日維持出来たらいいほうかと思います。三日なら確実に維持できますけどね」


 リリなりに分かりやすく言ってくれたのかもしれないが、俺にはイマイチわからなかった。

 

 俺の世界の貨幣でどの程度の価値があるのか、それを探る必要がある。

 結論が出ないまま無駄に流れる時間。


 すると唐突に、剣と扉が僅かに光ったが気がした。

 しかし、俺以外は誰も気づいてないようだ。


 光が消えると同時に、扉を開けようとする音が店内に響き渡った。

 開け方を知らないようなので常連客ではなさそうだ。

 だが、外にいる者は急いでいるのか、激しく扉が叩かれ揺れ動く。


「開けてくれ、探している物があるのだ」


 聞こえてきたのは女性の声。そして扉は今にも壊れそうな感じである。


「爺さん、開けてやってもいいんじゃないか?扉が壊れそうだぞ」

「そ、そうじゃやな…」


 爺さんも破壊されそうな扉を見て少し焦っている。

 

「おい、今から開けるから扉を叩かないでくれ」


「早く頼む」と返事があり、破壊はすんでのところで免れた。

 

 俺が扉を横に開くと、騎士の姿をした女性が目の前に立っていた。


(女騎士だったか、どうりで力があるわけだ)


 扉が横開きだったことなど気にもせず女性は中に入ってきた。

 よほど急いでいるのだろう。


「すまないが、これと似た剣を探しているのだ。この店は古い剣も置いていると聞いて来たのだが」


 その剣は途中で折れており、どうたら女騎士は代替品の剣を探しているようだった。


 彼女が手にしているそれは、形や装飾が俺の持ってきた剣と酷似している。


(これはひょっとして…)


 俺と爺さんは視線が合ってしまった。どうやら同じことを思いついたようだ。

 

 爺さんはお前さんから話せと言わんばかりに目配せしてきた。


(それじゃ遠慮なく)


「お嬢さん、この剣は俺の物なんだがどうだろうか?形が似ていると思うのだがね」


 女騎士は俺の剣を手に取ると目を見開き驚いている。


「これだ!まさしく伝説の剣だ」


 伝説の剣だと!?

 俺と爺さんは再び視線を互いに向けた。


「貴殿、名はなんと申す」

喜連明人きれ・あきとです」

「珍しい、はるか東の地域にある名に似ておるな。ということは喜連がラストネーム、苗字になるのかな?」


「そうですが」

「私はフルール・エクルンド。エクルンド伯爵家の者だ」

 

 その名を聞いた途端、エールをあおっていた爺さんが口からそれを噴き出した。

 ベスやリリも固まっている。 


「アキト殿、剣を二本とも譲っていただきたい」


 いきなりファーストネームで俺を呼ぶフルール。とてもフレンドリーな女性である。


 それにしても急展開だ。誰かが意図的にやってるんじゃないかと思わず疑ってしまう。


 次に口を開いたの爺さんだ。


「あなた様はエクルンド伯爵のお嬢さんで?」


 立ち上がりフルールに尋ねる。


「そうだが…」

「そりゃ失礼しました、貧しい買取屋ゆえ、何もお出しできずに申し訳ない」


 驚きから引きつった表情へ変わると同時に深々と頭を下げ謝罪する爺さん、ベスやリリもぺこぺこと頭を下げていた。


「気にする必要ない。それより剣をどうだろうか」


 これは渡りに船ってやつか。


「もちろん、お譲りしますよ」


 俺は満面の笑みで答えた。

 しかし、この女騎士が伯爵家のお嬢さんだったとは…、世の中何が起こるか分からない。 


「それは有難い、感謝する」


 と言って、俺の手を握りしめ顔を見つめてくる。


「アキト殿はよく見ると渋い顔をしておるな。わたしは嫌いではないぞ」

「そりゃどうも…」


 女性に見つめられるのはどうも苦手だ。

 

「それでお幾らかな?」


 貴族だとすれば高値で吹っかけても買ってくれそうだな。

 だが、俺はそういうことが好きじゃない。


 相場もよく分からないし、彼女の言い値で譲るとしよう。


「相場がよく分からないので、あんたの好きな値段でいいよ」

「そう言われても困るのだが…」


 腕を組んで悩みだすフルール。

 

「何か急いでいるようだし、手持ちの金からすぐに必要な額を差し引いたぶんで構わないよ」


 彼女は懐から金の入った袋を取り出し中を覗き込んでいた。


 しかし表情が厳しい。 

 袋がしぼんでいるので、金があまり入ってないのかもしれない。


「すまない、よく考えれば今はこれだけしかないのだが…。家に戻れば幾らでもある…。だが、その時間がないのだ」


 しょげた顔のフルールは銀貨10枚を出してきた。

 ま、爺さんが提示した額の倍はある。10枚もあれば宿を十日営業できそうだ。  


「商談成立だな」

「本当か、アキト殿は紳士であるな。さらに気に入ったぞ!」


 俺の言葉を聞いた途端、彼女の表情は明るくなった。


「ところで。喜連殿はどこに住んでおるのだ?」

「町外れで近いうちに宿屋を開こうと思ってましてね、酒場もやりますんでよければどうぞ」


 フルールは満面の笑みを浮かべる。


「確かあの辺りには勇者様の家があったはずだが…、まあよい。また今度探してみるとしよう」


 今日は急いでいるのでと言ってフルールは店から出て行った。

 ガラガラガラ…、と音を立て開けっ放しの扉をリリが閉める。


「爺さん、あのフルールってお嬢様は身分が高いのか?」

「お前さん話し方に気をつけた方がいいぞ、あれはこの辺りの領主であるエクルンド伯爵様のご令嬢だよ」


 なるほど、領主の一族だったか。

 だからベスやリリもぺこぺこしていたんだな。

 俺も気をつけるとしよう。


「そうだ爺さん、あんたの店で取引したんだから、仲介手数料を払わないとな」

「そんなの気にせんでええ。わしは鑑定しただけじゃ」


 とはいうものの、このまま何もせず帰るのも気が引ける。

 困ったな…。


「それより、他にも何か持っておらんのか?」


 その時、爺さんの隣にあった商品が俺に向けて光を放ったような気がした。

 よく見ると古銭の類が並べられていた。


(待てよ、俺の財布に入ってるお金を見てもらうのも悪くないかもしれないな)


「爺さん、古銭も扱ってるのかい?」

「そうじゃ、外国の珍しい硬貨も場合によっては買取しておる」


 これはひょっとすると…。   


  ◇ ◇ ◇


 その頃、買取屋の壁にある穴から中を覗き見ている怪しい女性の姿があった。

 運を司る女神フォルトゥーナだ。


(もう、なんで高値で売りつけないのよ、せっか機会を作ったのに、でもあの優しさも素敵だわ。確か名前は喜連明人だったわね。私のアキト様!)


 アキトの優しさに感銘をうけつつ見守るのであった。


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