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2、ボロボロの女の子を助けよう

 田中に襲われそうになっていた女の子。

 相当怖い思いをしたのか、今でも顔はこわばったままだ。 


「もう大丈夫だよ。怖かったろ」

「お、、、お願い。わたしを食べないで…」


 ボロを纏ったその子は八歳くらいだろうか、髪の毛はボサボサで肌は垢まみれ、孤児じゃないかと思われる。


「大丈夫だ、おじさんは人食いなんかじゃないから、なっ」


 俺は怖がっている子猫を手なずけるように優しく声をかけ振舞った。

 ややあって、少し落ち着いたのだろうか。怯えて固まっていた表情が柔らかなものへと変化した。


「ほんと…?」

「ああ、もちろんさ。おじさんそんなに怖い顔してるかい?」


 俺は中肉中背で少々丸い顔をしている。

 そのせいか赤ちゃんが俺を見ると高確率で笑ってくれるのだ。

 だから、この子から見ても怖い顔には見えないはずなのだが…。


 俺はふと床にある自分の影に気づいた。


(そうか、逆光で俺の顔が見えてないのかもしれないな)


 俺は外へ出て、自分の顔がよく見えるようにしてみた。どうやら勘は当たっていたようで、女の子は安心した表情をしてくれる。

 

「お嬢ちゃん、お名前はなにかな?おじさんは喜連明人きれ・あきとっていうんだ」

「アキトさん?」


 俺は軽く頷いた。


「わたしはベスだよ」

「ベスちゃんだね。それで、こんなところで何をしてるんだい?困ってることでもあるのかい?」


 ベスは何かを思い出したようで視線を部屋の奥へと向けた。

 そこにはひとりの少女の姿があった。


 閉じられた木窓の隙間から差し込んだ光が彼女を優しく照らしているせいか、天使のようにも見える。


 顔つきがどことなくベスに似ているので、彼女の姉だろう。


「ひょっとしてベスちゃんのお姉さんかな?」

「うん、病気で動けない。おじさん、お姉ちゃんなんとかならない?もう話すこともできないの…」


 少女は目に涙を浮かべていた。

 ベスの顔をよく見ると、幾筋もの涙の跡があった。


 その部分だけ顔の汚れが流れてキレイになっていたからだ。それから察すると姉は数日前から動けなくなっていると思われる。


 俺は姉の前に移動して、脈や体温、呼吸の状態を確認した。そして、そのどれもが最悪の状態であった。

 

 これはかなり危険だ。

 こうなった原因をベスに尋ねようと思ったが、聞くより先にスキルを使って癒した方がいいと俺は判断。

 

 体が癒されて元気になり、美味しい物をたくさん食べたあとの満足感をイメージしてみる。

 数瞬後、スキルの効果があったのか、青白く死人と変わらなかった肌に赤みが戻り始めた。


 浅い呼吸も少し改善し、冷たかった体もゆっくりとだが暖かくなっている。

 しばらくすれば意識も戻るだろう。


「おじさん、お姉ちゃんの顔色が良くなってきた」

「もう大丈夫だと思うよ。水はあるかい?」

「あるよ」


 ベスは木製の水筒をカバンから取り出した。


「お姉ちゃんに少し飲ませてあげてくれないかな」

「わかった」


 ベスが姉の口に水を少し含ませると、表情が少し変わりゆっくりと瞼を開いた。


「べ…ス?」

「そうだよお姉ちゃん」


 姉妹は抱き合い、数日振りに言葉を交わし始めた。


  ◇ ◇ ◇


 少し落ち着いたころ、姉が俺に挨拶してくれた。


「私はリリといいます。勇者様、助けてくださって本当にありがとうございます」


 俺の手を握り深々と頭を下げるリリ。

 

「気にしないでくれ。元気になってくれておじさんも嬉しいよ。だけど、俺は勇者じゃないんだ」


「え?ここは勇者様の家だと聞いて伺ったのですが…」

「おじさんは喜連明人っていうんだ。今日からこの宿の主人になったんだ」


 姉妹は何やらヒソヒソと相談を始めた。

 少し間を置いたのち姉のリリが俺に話しかける。


「それではご主人様」

「えっ、ご主人様?」

「私たちをこの宿で雇って頂けませんか?」


 予想外の願事に俺は少し驚いた。

 雇うにしてもこの世界のお金を持っていない

 財布はあるが、ここで使えるはずがない。


「おじさんはこの世界に連れて来られたばかりで、この国のお金を持ってないんだ。雇ったとしても今は給金を払うことができないのだが…」


「この世界…?」


 リリは疑問を持ったような視線を俺に向ける。

 おっといけない、異世界とか言っても理解できるはずない。


「いや、遠い場所からやってきたんだ」

「あ、なるほど。あの、置いてくださるだけも結構なのです。家賃の代わりに働きますから…」


 労働には対価を支払わないといけない。なんとか稼がないといけない。


「それに、これから冬を迎えるので野宿では生きて行くことが厳しくて…」


(そういうことか)


 この状況で幼い姉妹を放りだすなんてできない。

 俺はこの世界の仕組みもまだ知らないし、この子たちに教えてもらいながら宿屋をするのが最良の選択だと思う。


「今は何もない状態だが、それでもいいのか?」

「はい、寝床があるだけでも幸せです」

「分かった。二人ともおじさんの宿を手伝っておくれ」

「はい喜んで!」「うん、ベスも手伝う」


 こうして俺は異世界で宿屋を始めることになった。

 勇者の家と思われていることが気になるが…。


お読みくださいましてありがとうございます。

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