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■第6話 帰宅


 

 

アキラはチラチラとリビングの壁にかかった時計の針を覗き見ていた。

 

 

ヒビキと顔を合わせるのが気まずくて、学校から帰宅してからずっとソワソワ

落ち着かないまま。取り敢えず、まだ帰って来てはいないヒビキ。

 

 

アキラは毎夕の仕事である炊飯をする為、キッチンでエプロンを手に取った。

腰紐を後ろで交差させ前に持ってくると、どこか気怠く指先で蝶々結びにする。


”女子力 ”などという異性目線を意識したものに微塵も必要性を感じないア

キラらしいシンプルなデニム地のストライプ柄エプロンは、男勝りなアキラを

尚のことキリリと男前に魅せる。

 

 

胸の中のモヤモヤを吐き出すように大きくひとつため息をつくと、炊飯ジャー

の釜に2合の米を入れ、『ぁ。』とふいにこぼれた自分の声に手を止めた。


通常、母ナミと二人の夕飯は米は2合だが、今は一人分多く炊かなければいけ

なかった事を思い出しての、先程の『ぁ。』


計量カップに並々に米をもう1合分入れ釜にそれを移すと、水道のハンドルを

上にあげて水を注ぎ右手の平でシャリシャリとかき回し米を研いだ。

 

 

炊飯はアキラの担当だったが、おかずは夕方6時には帰宅する母ナミが担当だ。


冷蔵庫の中には1週間分の食材が所狭しと詰まっていて、毎日終業後にスーパ

ーに寄って買出しをしなくとも夕飯作りが出来るよう準備はされている。その

都度買出しをするより、まとめ買いの方が食費が安く抑えられるのも利点だ。

 

 

アキラは炊飯のセットを終えると、冷蔵庫を開けて覗き込んだ。


昨日まで冷凍庫で丁寧に保存されていたアジが、冷蔵庫内で解凍されている。

今晩のメインはアジのようだ。焼くのか、フライにするのか、小さく小首を傾

げて思いめぐらす。早目に消費してしまった方が良いキャベツと昨日の残り物

のポテトサラダがあるから、それらを添えてアジフライにするというのがアキ

ラの予想。それなら味噌汁の具はシンプルに豆腐とワカメがいいな、なんて考

えていると、ギュルルルと腹の虫が暴れてすっかり陽が暮れた夕刻を報せた。

 

 

もう一度、壁掛け時計に目を遣った。

まだヒビキは帰って来ない。

 

 

もしかしたら今朝のことを気にして帰りづらいのだろうか。


やはりヒトの家に世話になっている身分なのだ。売り言葉に買い言葉的に応戦

したものの、気まずくなってしまっていつもの時間には戻りづらいのかもと、

アキラはそっと目を伏せてリビングに移動し、ちょこんとソファーに腰掛けた。


自分の家だというのになんだか居心地が悪くて、手持無沙汰に学校指定のサブ

バッグに手を差し込むとそこに入れてある文庫本を引っ張り出した。

 

 

そこにある活字など何も頭には入らないのだけれど、ツユクサの栞が挟んであ

るページを開くと一応上から下へと目で追ってみた。それはただの視線の上下

運動にしかならず、物語はやはり上の空。上空の彼方へと消えてゆく。

 

 

その時。

 

 

ガチャガチャと玄関ドアの鍵が開錠される音が響き、アキラは慌ててソファー

から立ち上がった。指先で掴んでいた文庫本が足元に転がったのも気にせず、

弾かれたように一気に駆け出し階段を上る。


そして自室に飛び込むと部屋の内側からドアに張り付くようにしてそっと耳を

寄せ、帰宅した人物が母ナミか別の人間か計り知ろうと息を殺す。

 

 

玄関ドアを静かに開けツヤツヤに磨かれたローファーを脱いだヒビキが、どこ

か気まずそうに上り框に片足を踏み込んで廊下へと進んでいた。

 

 


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