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■第5話 ため息


 

 

ヒビキは重い足取りで昼休みの喧騒で賑やかな廊下を歩いていた。

 

 

その片手には、校舎1階の購買部で買った玉子サンドとパック牛乳が入った

白いビニール袋が握り締められている。ヒビキの気怠い歩みに併せて脚の横

でビニールが揺れてカサカサと乾いた音を立てた。

 

 

今朝、アキラがせっかく作ってくれた弁当を素直に受け取ることが出来ず、

尚且つ最上級の嫌味まで言ってそのまま出て来てしまった。


一瞬チラリと見えたアキラの顔は、怒っているというよりもなんだか哀しそ

うでその顔を見ていられずに逃げるように玄関を飛び出した自分を思い出す。

 

  

  

  (・・・購買でパン買うから、いい。)

 

 

 

アキラに言った言葉を思い返し、パンの入ったビニール袋をそっと目の高さ

に挙げてぼんやり見つめた。あまり好きではないパンの、全く好きではない

玉子サンドを敢えて選んで買った自分が何を意図しているのか自分自身分か

らずに。


しょんぼりとうな垂れて、ヒビキはひとつ溜息をこぼした。

 

 

教室に戻ると、ヒビキの席前のクラスメイトが珍しいその光景に驚いた顔を

向けた。

 

 

 

  『あれ? 珍しくねぇ??』

 

 

 

そう言って、そのクラスメイトはヒビキの諸事情を思い出し、ヒビキがそれ

について返事をするよりも早く二の句を継いだ。

 

 

 

  『あぁ・・・


   今、親戚ん家にいるんだっけ・・・?

 

 

   ・・・てことは、


   暫くはパンなんだ・・・?』

 

 

 

なんの深い意味もなく投げかけられた、今朝の事情など何も知らないその発

言に再度ヒビキはうな垂れて唸るように『ん・・・。』と返した。

 

 

 

 

 

その頃アキラは、自席の机の上に弁当箱を広げ箸でつまみ上げた玉子焼きを

苦々しく眇めていた。

 

 

自分だけが食べるならともかく他人に食べさせる事を考慮して、いつもより

気持ち多目に頑張ったつもりの弁当。おまけに相手はあのヒビキだ。中途半

端なものを作った日には何を言われるか分かったもんじゃない。


不本意ではあるけれどいつもの内容よりも豪華なそれに、改めて眉根をひそ

め今朝の遣り取りを思い返して睨み付けた。

 

 

 

  『どうしたの?アキラ・・・

 

 

   なに?


   さっきからずっとお弁当睨んでるけど・・・。』

 

 

 

いつも一緒にお昼ご飯を食べるクラスメイトが怪訝な顔をしてアキラを見つ

める。その弁当箱の中にどんな憎らしい相手がいるのか小首を傾げながら。

 

 

『ん~・・・。』 奇しくもヒビキと同じタイミングでアキラがうな垂れ唸

っていた。

 

 

 

 

 

その日、学校が終わり家へ帰るとアキラはまだヒビキが帰宅していない事を

確認しどこかホっと胸を撫で下ろしていた。

 

 

 

  『ってゆうか、アタシの家だっての・・・。』

 

 

 

どこか余所余所しく抜き足差し足でリビングに爪先を落とす自分に、自分で

小さく突っ込むもやはり顔を合わせづらい、出来れば合わせたくないその相

手の不在を家中必死に確信し、自分以外誰もいないことが確定するとやっと

落ち着けたようにリビングのソファーにドカっと座り込んだ。


そして首を反らしてソファーの背もたれに深く背を預け、大きな大きな溜息

をつく。思ったより無意識のうちに大きく深く吐いた自分のそれに驚き、そ

して再びうな垂れて溜息をついた。

 

 

同じ時、アキラがいるであろう家に帰りづらくて、ヒビキが無駄に駅前の商

店街をウロウロとしている事など何も知りもせずに。

 

 

 



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