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■第4話 ケンカ


 

 

ソファーに座るヒビキの前で仁王立ちして、片手は腰に片手は弁当箱を掴ん

だまま、その悪びれない飄々とした顔に向かって指をさしたアキラ。 

 

 

 

  『ねぇ、分かってんの?


   3か月一緒に住むんだから、


   少しは相手への ”思いやり ”とか、 ”気遣い ”とか、


   必要だとは思わないわけっ??』

 

 

 

怒り狂うアキラからは熱が放出され、モヤモヤと陽炎でも出ているのではな

いかというくらいの迫力がある。


ヒビキはそんな目の前のアキラを冷静に見つめ、メガネのブリッジを右手中

指でクっと押し上げると、小さくひとつ息を付いて言った。

 

 

 

  『僕はナミ叔母さんにお世話になっているのであって、


   お前には世話になってないと思うんだけど、違う・・・?

 

 

   お前だって叔母さんに養ってもらってるだけだろ?

 

 

   僕がお前に何かしてもらったことなど無いし、


   してもらおうとも思ってないから。』

 

 

 

その抑揚のない口調に、アキラは唇を噛み地団駄を踏んで足を鳴らす。


元来グっと堪えて我慢など出来るタチではない。全身で喜怒哀楽全ての感情

を表現するタイプなのだ。頬を歪めて引き攣らせ真っ赤に染まる顔で、怒り

のまま手をバタつかせアキラは叫んだ。

 

 

 

  『ナンなのよ! ナンなのよ! ナンなのよぉおおおおお!!!』

 

 

 

その心からの叫びにもヒビキは鬱陶しそうに片耳に指を差込み目を眇めて、

”うるさいんだけど ”と嫌味なアピールを涼しい顔でやってのける。


アキラは行き場のない負の感情を持て余し、仁王立ちの体勢から小さくし

ゃがみ込み身体を丸めると、強く強く握った拳をふるふると震わせて、この

最悪な朝をどう乗り切ればいいのか、怒りで全く思考停止している頭で必死

に考えあぐねる。


鼻にシワを寄せギュッと目をつぶり、邪念を払うように首を大きく左右に振

る。心臓がバクバクと爆音を立て、熱を持ちカッカする身体が痛いほどで。

 

 

何度も大きく大きく深呼吸をしてそっと目を開けると、アキラの視界に片手

に握り締めたままの弁当の包みが映った。それと同時に、怒りに任せてそれ

をかなり激しく振りまわしてしまった事に気付く。

 

 

 

  (ぁ・・・ ヤバ・・・。)

 

 

 

アキラはいまだしゃがんで小さく身体を丸めたまま、暫く手に掴んだ青い弁

当箱の包みを見つめ、不機嫌そうにヒビキへとゆっくり差し出した。

 

 

ヒビキはそんな一連のアキラの言動を呆れた面持ちで見ていた。


怒り狂ってヒステリックに叫んだかと思ったら、突然小さく丸まってピクリ

とも動かなくなり、そして今、謎の包みを自分へと差し向ける日焼けした細

い腕を、小首を傾げぼんやりと。

 

 

すると、アキラが蚊の鳴くような声で呟いた。

 

 

 

  『コレ・・・。』

 

 

 

その声色は、怒りのピークが過ぎ次第に冷静になっているそれ。

どこかバツが悪そうに眉根をひそめ、更にヒビキへと向けぐんと手を伸ばす。

 

 

 

  『ぉ、お弁当・・・


   お母さんに頼まれたから・・・ アンタの分も・・・

 

 

   だから・・・


   取り敢えず、一応・・・ 毎日作るつもり、だから・・・。』

 

 

 

その一言に、はじめてヒビキが目を見張り動揺する素振りを見せた。

 

 

”お前になんか世話になってない ”発言のその直後に、アキラが自分の分

まで弁当を作ってくれていた事を知るなんて、最低最悪な事態で。


何故こんなにアキラに対してだけつっけんどんな振る舞いをしてしまうのか

自分でも分からぬまま、なんだか売り言葉に買い言葉でついつい応戦してし

まう。


アキラが掴む青いチェックハンカチの包みをきまり悪そうに見つめ、ヒビキ

は更に追い打ちを掛けるように思わず嫌味を吐いてしまう。

 

 

 

  『それ・・・


   さっき、散々振りまわしてたじゃん・・・

  

   

   ・・・僕への当てつけ??』

 

 

 

そう言ってしまって、すぐさま顔を伏せた。


本当は、心の奥底では、有るはずないと思っていた弁当を作ってもらえてい

た事が純粋に嬉しかったのに、巧くそれを表せずあろう事か逆に嫌味で返し

てしまった。

 

 

『わ、わざとじゃないってば・・・。』 そう零したアキラの声色もまた、

なんだか哀しげに寂しげに響く。ヒビキは自分が作ったものなど口にしたく

ないのだと、やけにネガティブな方向に思い込んで。

 

 

 

  『アタシが作るのがイヤなんだろうから、


   アタシから、お母さんに頼んどいてあげるよ・・・。』

 

 

 

その一言を耳に、ヒビキが少し慌てて言い掛ける。 

 

 

  

  『ぁ、ぃゃ。 その・・・。』

 

 

 

しかし二の句を継ぐことが出来ずに、きゅっと口をつぐんでしまった。


そして素直に感情を出せずに、ボソボソと低く呟いた。

 

 

 

  『・・・購買でパン買うから、いい。』

 

 

 

その瞬間、付けっ放しのテレビから現在時刻のアナウンスが流れた。

 

 

電車で通学しなければならないヒビキは、もう出発しなければ間に合わない。

足元に置いていたカバンを引っ掴むと、アキラを見もせずに『じゃぁ。』と

一言呟いて玄関へと駆けて行った。


玄関ドアがバタンと閉まる音をリビングで聴きながら、アキラはヘナヘナと脱

力した状態でフローリングに座り込み、今朝のケンカを思い返していた。


テレビからは普段全く観ることがないNHKのニュースが淡々と流れている。

 

 

 

  『こんなんで、やってけんのかなぁ・・・。』

 

 

 

青いチェックの包みをぼんやり見つめ、アキラがぐったりと疲れた顔を作った。

 

 

 


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