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■第13話 夜道


 

 

アキラとヒビキ、ふたりは薄暗い住宅街をコンビニに向け歩いていた。

 

 

等間隔に並ぶ街路灯がネズミ色のアスファルトをぼんやりとやわらかく照ら

すそこを、微妙に間隔を空けて進む。


アキラらしい飾り気ないビーチサンダルのゴム底が擦れる音と、ヒビキの生

真面目な通学用スニーカーのそれが照れくさそうに藍空に二重奏を響かせる。

 

 

すると、無言の空気に耐えられなくなったアキラが数歩後ろを歩くヒビキへ

チラっと顔だけ振り返りツンと生意気な顔を向けて言った。

 

 

 

  『・・・てゆーか、


   ”アタシのセンスは当てにならない ”って何よっ?!


   ホント、感じ悪いったらないわ・・・。』

 

 

 

言い終るか否かのタイミングで、ヒビキはすぐさま口を挟む。

 

 

 

  『じゃぁ、どんなの買おうとしてたか言ってみろよ。』

 

 

 

『ん~・・・。』 そう言われてアキラは立ち止まり、唇を突き出して斜め

上を見眇める。中々思いつかなくて腕を胸の前でクロスして考え込んで。

 

 

そして、『モナ王、とか?!』


手と手をパチンと打ち、まるで ”良案だ! ”と言わんばかりに胸を張る。

 

 

 

  『ほら、だってさぁ~


   モナカとバニラアイスの他に、チョコまで入って・・・


   アレ、美味しいじゃんっ!!

  

   

   ・・・それに、安いし。』

 

 

 

すると、ヒビキは小さくため息をついて呟いた。

 

 

 

  『チョコが入ってるのは ”チョコモナカジャンボ ”じゃない?


   モナ王は、ただのバニラだったと思うけど・・・。』

 

 

 

『え~・・・ そうだったっけ? そっか・・・。』 アキラは然程気に

していない風に軽く小首を傾げると、『まぁ、いいや。』と再びビーチサ

ンダルの爪先を前に繰り出す。シャリシャリと靴底が擦れる音がなんだか

ご機嫌に鳴り響き何故か耳に心地よい。

 

 

ヒビキはその後ろ姿を立ち止まったまま、ぼんやり見ていた。

 

 

細かい事は気にしない、いつまでもクヨクヨ考え込まないアキラを心の中

では羨ましく思っていた。明るくて元気で真夏の太陽みたいで眩しくて。


しかしそれはギラギラと容赦なく照り付けるそれではなく、あたたかさと

やさしさを兼ね備えた穏やかな夏の午後の陽のようで。

 

 

 

  『ツユクサをくれた兄ちゃんが、初恋の相手・・・。』

 

 

 

ぽつり、思い出して呟く。

 

 

仰々しく飾らないTシャツにハーフパンツ姿のアキラは、ヒビキが後方で

立ち止まっているのも気付かずに小さくリズムを取りながらどんどん一人

進んでゆく。


なんだかそれを見ていたら、必死に手を伸ばして掴もうとしてもその背中に

は届かないような気がした。いつまでもここに立ち止まっている自分になど

ここでしゃがみ込みうずくまる小さな自分になど気付かずに、一人でさっさ

と行ってしまうのではないかと。

 

 

 

  『ツユクサをくれた・・・ 相手が・・・。』

 

 

 

もう一度呟いて、思わず小さく笑ってしまった。


俯いて足元に目を落とすと、自分のスニーカーの爪先がいじけるようにㇵの

字になっていて、まるで迷子の子供みたいで。

 

 

ひとつだけ、溜息を落とした。

しかしそれは、一瞬吹いた夜の風にさらわれて音も無く消える。

 

 

そして、顔を上げ先に向かうアキラの元へと小さく駆け足で追い付く。


急に走る靴音が近付いてきた気配に驚いたアキラが振り返ると、互いの目が

合った。

 

 

『なによ、ビックリした~・・・。』 頬を緩めて自然体のやわらかい笑顔

を見せるアキラに見つめられて、ヒビキもつられて小さく笑った。

 

 

眉根を下げて情けなく寂しげに笑った。

 

 

 

  『ホント・・・


   お前の記憶力は最悪だな・・・。』

 

 

 

『えっ??』 言われた意味が分からず、小首を傾げたアキラだった。

 

 

 


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