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第八話「時が流れるのは早くて」

 時間が経つのはあっという間だった。一学期の個々の授業はすべて終わり、それぞれの科目の試験もなんとか乗り越えることができた。


「さ、あとは卒業試験とやらを乗り越えれば、私達も晴れて冒険者の仲間入りね」


 そう、冒険者養成学校を卒業するには必要な単位の取得に加えて、冒険者養成学校とギルド本部の連携によって課される卒業認定用の特別依頼をこなさなければならないのだ。



「特別依頼って、どんなのが課されるんだろう」


「正規生のそれと比べて結構危険な依頼である場合が多いそうよ。学費と在籍日数の点で優遇されてるから、命に関しても自己責任で、というスタンスだそうね」


「命に関するほど危険な試験なのかよ、やべえなそれは」



 そういうわけで、その卒業認定用の特別依頼とやらを受けに行くため、俺たちは大講堂へと向かった。



「今学期の特別生卒業認定試験であるが……今学期生はなんとも喜ばしいことにとても優秀な生徒が多いので、例年より幾段か危険な依頼をこなしてもらおうと思う。合格条件は依頼を達成して生きて帰ってくること、それだけだ」



 そうして、上魔級の中でも生存競争を勝ち抜いてきた強力な個体の魔物「アルマロス」の討伐が依頼された。そいつに特別生総勢500人ほどで挑むのだという。



「なんだ、全員で挑むのか。楽勝じゃん」


「アルマロスは超ド級な魔物で有名の、規格外の化け物だわ。天災レベルの被害を引き起こすから下手な強魔級なんかより強いって言われてるくらいに」



 なんでも、アルマロスは滅多なことでは人里には出現しないのだが、ここ最近どこかで強力な魔力使用が行われた余波を受けて気性が荒くなっているのだという。アイコール王国の砂漠地方では既に甚大な被害が出てるのだという。



「そんなやばい奴らをなんでビギナー中のビギナーに依頼するんだよ」


「淘汰よ。特別生なら500人もいれば討伐は可能だけれど、確実に半分以上の死人は出る。どうやら特別生は入学より卒業が厳しいという噂は本当だったようね」



 マジかよ。しかも、卒業させてやってるという名目で報酬金の類もほとんど出ないのだという。っていうかほとんどそれが理由だろ。



「冒険者は使い捨てって扱いのいい例って訳だ。規格外に優秀な奴は引き抜き済みだろうし、残ったオレ達みてえなそこそこ強い程度の冒険者の代わりなんざいくらでもいるからな」



 そう言ったのは、魔法加工し終えた武器の手入れを行うスティーブだった。今回は相手が相手なので王都の加工屋の手によって特別に、まだ冒険者でない俺達の武器に魔法加工を施してもらえる。



「引き抜きと言えば、オリバーは国の魔法研究院に推薦されたんだっけか?」


「ああ。アイツはもともと冒険者として名を挙げるのは研究のための手段と考えてたみてえだからな。オレも初めて聞いた時はびっくりしたが、地道な過程をすっ飛ばしていけるのはデケエよな」



 今回の討伐は遂行人数が多いため、いくつかの役割に分かれて行われるのだという。前衛には突撃隊と治癒兼魔術支援隊、後衛には遠距離攻撃隊と火力支援隊がつくのだという。



「っておいおいそれじゃあ近接格闘科の負担が一番デカいじゃないか。俺達が一番の使い捨て扱いかよ」


「近接格闘科は人数も多いからねぇ。ルリは強い敵と間近で戦うのは楽しみだけどね!」


 いつの間にかルリが近くにやってきていた。



「誰だこいつ? リョーヘイの知り合いか?」


「お前が実践サボった時のペアだよ」


「ああ、よく見たらあのいつも教師と組まされてる友達いねえヤツじゃんか」


「ちょっと、ルリのこと馬鹿にしてるでしょ! 友達はいるんだから! リョーヘイ君とかリョーヘイ君とか、あとはリョーヘイ君とか……」


「リョーヘイだけじゃねえか!」


 こんな可愛い子なのに、なんで友達いないんだろうな?

 戦闘狂なところとちょっとばかり物騒な武器を使うところ以外は欠点がないと思うんだがね。


 実践のときにはいつも組んでる友達がなんとか言っていたような気がするが、あれは見栄からくる嘘だったようだ。別に俺はそんなこと気にしないのに。



 ……というか、危険な試験の前だというのにまるで緊張感がない。まあ、それもそうか。ここにいるメンツは、先ほど優秀な生徒が多いと言われたうちのトップクラスを集めた奴らだからな。肝も据わってるというか、精神力が並じゃない。



「フリッカは後衛に回るのか?」


 俺の言葉に、フリッカは首を振る。


「防御魔術専攻は前衛で近接戦闘科のお守りよ。余裕があれば攻撃魔術や治癒魔法で支援するつもりだけれど」


 なるほど、フリッカが前衛にいるのは心強い。彼女は卒業するまでは目立たないようにするという方針らしいが、いざというときはなんとかしてくれそうだ。俺も今回は上限を王魔級まで引き上げてもらっている。一応余裕があるうちはセーブしろとのことだが……。


「召喚魔法専攻の奴らも前衛らしいな。あそこはただでさえ数が少ねえってのに、本当学園が何を考えてんのかオレには分かんねえわ」


「優秀な召喚師はもう引き抜き済みだからじゃないかなぁ? 結構酷い扱いだよねぇ」



 あれだな、タダより高いものはないってのを地を行ってるんだなこの試験とやらは。お前らタダで冒険者資格貰えるんだから危険な魔物ぐらいパパッと狩ってこいや、って感じで。



 戦地であるアイコール東部砂漠へは、馬車を使っていくらしい。こんだけ人数が多いと、傍から見たらとんでもない大旅団だな。















「ってマジでデケえええええええええええええええええ」


「だから言ったじゃない。足元に寄るときは踏みつぶされないよう気をつけなさい」



 いや、デカいったってせいぜい大型バスとかトラックくらいだろって思ってたんだが。このアルマロスとかいうやつ、どう見てもフェリーくらいはあるぞ?

 見た目はカバそっくりで、その口はあまりにも大きい。全身が黒いため、口を開けると赤い口内がとても目立つ。


 アルマロスと俺達の馬車の待機場所までは、大体数百メートルはあるが、ヤツならすぐにこちらに襲い掛かってこれそうだ。



「さあ、前衛の者たちはさっさと行ってこい。ワシはここで貴様らの監督をしておるから」



 眼鏡をかけたおっさんが、そんなことをほざいていた。なるほど、サボっていたものは報告してやらんとばかりの発言だな。



「では行きましょう」



 フリッカの言葉にうなずき、俺は爆速で走る自分をイメージして彼女の後を追う。ちなみに、スティーブとルリも何故か一緒に行動することになった。優秀な奴らはもっと分散するべきだと思うのだが、まあいいだろう。




 アルマロスは自分に向かってる外敵に気づいたのか、その大きな口を開けながらこっちに突っ込んできた。



「うおおおおおおお危ねえええええええええええええ」


 俺は思わず叫びながらアルマロスへの側面へとダッシュで逃げ出してしまう。巨体がこちらへ敵意むき出しで走ってくるその迫力は、初めての経験だった。



「おいリョーヘイ! 避けたんならさっさと攻撃しろ!」


 スティーブに言われ、俺は慌てて魔法加工済みのバスタードソードを展開した。そして一気にアルマロスの横っ腹へ接近し、思いっきり刀身を叩きつけた。



 ガツンッ――という音とともに、俺は尻餅をついてしまった。横っ腹を覆う毛はとても固く、まるでダメージを与えられていなかった。



「リョーヘイ君、危ないよっ!」


 ルリの言葉で、俺はハッとなる。見れば、アルマロスが俺に向かって横方向にタックルしようと構えていたのだ。俺は慌ててその場を蹴りつけ、高く跳躍した。力の制限が前よりも緩いからか、俺は軽々とアルマロスの体高を超える高さへと跳び上がった。



 しかし俺の近くで同じようにアルマロスを攻撃していた何人かの生徒は、タックルをまともに食らって物凄い勢いで吹っ飛んでいった。下手したら死んでるやつもいるんじゃないかというレベルの吹っ飛び方だった。



 俺はそのままアルマロスの背中へと着地した。そのデカい図体が仇となって、人間程度に物体がが背中に乗ったところで、そのことに気づいていない様子だった。



「いいぞリョーヘイ、そのまま背中で柔らかい部分を見つけてぶっ叩け! ――うおぉっ!」


「大丈夫かスティーブ!」


 スティーブは俺に気を取られるあまり、アルマロスの噴出した鼻息を思いっきり食らってしまった。派手な吹っ飛び方をしたが、そこまで大事には至ってなさそうだ。



 俺はさっさと柔らかい部分を探し出そうとするが、背中を歩いたことでアルマロスが俺に気づき激しく暴れだしたために、上手く移動することができない。


 俺はフリッカに何とかしてもらおうと彼女の姿を見つけるが、どうやら彼女はどんどん攻撃を食らっていく生徒たちに治癒魔法をかけるので忙しそうだ。他の治癒魔法専攻の生徒は治癒するどころではなく、アルマロスの猛攻から逃げまわってばかりだ。フリッカは軽々と攻撃をかわしながらどんどん治癒魔法をかけていくが、かけてもかけても負傷者が出るため終わる目処が立たない。



「ちょっと暴れすぎだよぉ――よいしょおぉっ!」



 その時、ルリが少し危険を冒しながらもアルマロスの顔へ近寄り、物凄い勢いでその鼻っ面に鉄槌をぶち当てた。




「ムゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 物凄い咆哮とともに、アルマロスがその場に倒れ込んだ。どうやらあまりの衝撃に軽くめまいを起こしてるようだ。



「ナイスだ、ルリ!」


 俺はこの隙に背中を這いずり回り、ついに一部柔らかくなっている場所を見つけた。



「オラオラオラオラ!」


 俺は容赦なくその部分に向かって剣を叩きつけまくる。攻撃がヒットするたびに鮮血が噴き出し、俺の身体は瞬く間に返り血で真っ赤になった。


「ピギィ! ピギィ!」

「ピギギ!」


 そのとき、俺の近くに蛇に翼と足が生えたような魔物が何匹もやってきた。慌ててそちらへ剣を向けるが、どうやらそいつらの狙いは俺ではなくアルマロスのようだった。俺が先ほどまで攻撃していた部分を噛みついたり引っかいたりしている。



「リョーヘイ、そいつらは味方の使い魔だ! 背中はそいつらに任せてお前は降りてこい!」


 確かにこれ以上背中にいてもやることがない――攻撃したら味方の使い魔にも当たってしまう――ので、スティーブの言う通り俺は背中から飛び降りた。随分高いところから飛び降りたが、この使い魔としての身体が優秀なのか、はたまた魔法のおかげか、まるでなんともない。



「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 俺が着地すると同時に、アルマロスが再び大きく咆哮した。見ると、アルマロスの目が怒りで血走っており、筋肉も膨張して血管が浮き上がっているようだった。



「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



 アルマロスはそのまま首を上に振り上げ、そのまま顔面付近にいる生徒たちに向かって顎を振り下ろそうとしている。その中には先ほどから顔付近にに張り付いていたルリと、鼻息で吹き飛ばされた生徒に治癒魔法をかけていたフリッカがいた。



「おい、危ないぞっ!」


 突然の攻撃で逃げ出す準備が整っていない生徒たち。このままではモロに顎を食らってしまう。俺は冷静な判断のうえで、納刀して爆速で顎の着弾地点へ向かう。



「皆伏せろおおおおおおおおおおおおおおおおお、鋼鉄の身体(スティールボディ)イイイイッ!」



 足腰に力をこめ、身体が鋼鉄になった様をイメージする。俺は両手を大きく広げてアルマロスの顎を受け止める体勢に入った。



「馬鹿、上魔級相手に無謀すぎるわ!」



 フリッカがそう言うが、もう考え直す時間は残されてなかった。



 物凄い轟音とともに、俺の身体を凄まじい衝撃が襲う。いつぞやに食らったルリのハンマーとは比べ物にならない衝撃だ。



「ぬおおおおおおおおおおおおおおおッ!」



 砂埃が、まるで爆風のように周囲へまき散らされた。それはまるで、巨大な隕石の衝突のようであった。

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