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第六話「入学直後から即友達作りしていくスタイル」

 入学式が長ったらしくて退屈なのは、どこの世界でも一緒らしい。式の中盤から終盤まで、俺は終始椅子の上で舟を漕いでいる始末だった。


 隣に座っていたフリッカに肩を揺すられて目を覚ました時には、既に式は終わっており、生徒は続々と大講堂から立ち去り始めていた。

 全く話を聞かずに終わってしまったが、どうせ学園長とやらがくだらない自分語りをしただけだろう。


「さて、私達も移動しましょうか」


「俺とフリッカって学科別だよな? 授業も別の棟で受けるんじゃないのか?」


 入学手続きを済ませる際に、授業を行う棟は各学科ごとに分かれており、基本的に自分の所属する学科以外の棟に立ち寄る機会は滅多にないというようなことを聞いた。近接戦闘学科は西棟で具象魔法学科は東棟、つまり真逆の場所に位置しているので、中央にある大講堂から出るときには互いに逆側の出口から出なければならないはずだ。



「あなた、居眠りしてるからそんな馬鹿な発言ができるのよ。特別生は講堂の檀上前に集まるよう、ちゃんと指示されてたわよ」


 この馬鹿使い魔が、っと毒づかれる。なぜか今日は朝からフリッカの機嫌が悪い。女子寮までわざわざ迎えに行ってやったのに、「こんな朝っぱらから女子寮に来る男子なんてほとんどいないでしょう! 変な目で見られたらどうするのよ!」と大声で怒られてしまった。確かに俺が使い魔だとバレたら退学の可能性もあることを考えると少々迂闊だったかもしれないが、そこで彼女が騒いだらさらにバレる危険性が高まる。

 今の毒づきだって誰かに聞かれたらどうするんだ、なんて考えてると、いつの間にやらフリッカは移動し始めていた。俺は出口に流れる生徒をかき分けながら、彼女を追って檀上前へと向かった。 



 教頭と名乗る男は特別生が集合したのを確認すると、学科別に分かれるようにという指示を出した。近接戦闘学科は大講堂の左端に集められた。

 

 そこで俺は、見覚えのある顔を見つけた。一緒に実技試験を受けた、スティーブとオリバーだ。結局二人も合格したのか。



「私が君たち近接戦闘学科の特別生を担任するサイモンだ。君たちの授業を直接行うわけではないが、毎週開かれるホームルームの時間には、私が君たちに連絡事項などを伝達する。ホームルームも必要取得単位に含まれてるので、くれぐれもサボることのないように。この学科のホームルームは風属日の六コマ目の時間に西棟のホームルーム専用教室にて行うので、そのコマには別の授業を登録しないように」


 この世界の一日は24時間で元いた世界と変わりないのだが、ややこしいことに一週間は六日なのだ。純属性が呼称として使われていて、火属日、水属日、土属日、雷属日、風属日、氷属日となっている。一般的には週休一日制で氷属日が休みとされており、この学校もそれにならい氷属日は授業がない。そして五週間で一ヵ月、十ヵ月で一年という扱いになっている。一年は300日なのだ。



「来週の風属日のホームルームの時間までに、学科掲示板を見て取る授業を決め、この紙に記入して提出すること。必修単位の取り忘れや提出忘れなどで不都合が生じても、すべて自己責任なので注意するように。紙を紛失した場合や何か質問がある場合は学科別事務室の方へ」


 

 その言葉とともに、空白の時間割のようなものが配られた。特別生ともなればこういった自己管理能力もしっかりしてなければならない、ということだろう。慎重に記入しなければ。念のために記入し終えた後に学科別事務室とやらで確認してもらったほうがよさそうだな。



「それでは、解散。今日は授業はないが、明日からは出席はとらないとはいえ授業が始まる。自分の受ける予定の授業は出るようにしておくといいだろう」



 ふむ……まだお昼前だというのに、今日はもう何の予定もなくなってしまった。寮に戻って惰眠を貪るのもありだが、とりあえず腹ごしらえをするか。フリッカの方はもう終わっただろうか?



「おい、お前。あの時オレと一緒に実技試験受けてた奴だろ」


 ふと肩を叩かれるとと同時に声をかけられた。スティーブだった。


「ああ、そうだよ。君も合格したのか……っと、そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺は良平。名字は日向だ」


「既に知ってるだろうが、俺はスティーブ・アデルだ。よろしくな、リョーヘイ・ヒナタ。……お前の試験は見てないが、受かったってことはそれなりに強いんだろ?」


 リョーヘイ・ヒナタねえ……。結構違和感あるが、やはりこの世界では名字は後ろにつけるようなので、これからフルネームを名乗るときはそう名乗ることにしよう。


「得意傾向は両手剣バランス型――ええと、強魔級だ」


 強魔級という言葉に、スティーブは目を丸くした。


「すげえな。オレの得意傾向は短剣テクニカル型だが、上魔級だ」


「二刀流だっけ? 凄かったよ、あのジャンプ」


「あれはたまたま上手くいっただけだ。いつも以上の実力が出たって感じだな。専攻は何だ? オレは高機動長物のスピードだが」


「俺も高機動長物だよ。戦闘様式はテクニカルだけど。もしかしたら取る授業被るかもな……その時はよろしく」


 スティーブが具体的に何の武器を使うのかが分からないので確かなことは言えないが、同じ系統の武器なら一つくらいは授業が被ってもおかしくないだろう。というか、試験の時は絡みづらいタイプの人間に見えたのだが、こうして改めて会ってみると結構話しやすい奴だな、と感じた。



「良かったらこの後一緒にメシ食わねえか? あの時一緒にいた、ちっこい奴も誘ってさ」


「いいね。ちょうど腹ごしらえしようと思ってたところだ」


 スティーブはちょっと待ってろ、と言って一人オロオロしてたオリバーを連れてきた。


「お前、あんとき一緒にいた奴だろ? 俺はスティーブ・アデル。今からこいつとメシ食うんだが、お前も来ないか?」


「い、いいの? ……あ、僕はオリバーっていうんだ。よろしくね」


「俺はリョーヘイ・ヒナタだ。よろしく」


 相変わらずオドオドとするオリバーの頭を、スティーブが乱暴に撫でた。なんでも弟に似てるようで、試験の時から謎の親近感を覚えていたとのことだった。


 さて、何を食うかなあっとスティーブが言ったので、まあそれは学食に行ってから決めようと言おうとしたところ、唐突に後ろから肩を叩かれた。俺は驚いてそちらのほうへ振り返った。



「なんだ、フリッカか」


「なんだとはなによ。あなた、お昼まだのはずでしょ? 一緒に学食に行きましょう」


 おっと、こいつはダブルブッキングってやつじゃないか。俺も人気者だなぁ。


「誰だこいつ? リョーヘイの彼女か?」


 スティーブがフリッカを指さしながら俺に問う。なるほど、傍から見たらそういう風に見えるのか。


「そうそう、この子はラブリーマイエンジェルフレデ――ッ!」



 パーンッ、という派手な音は鳴らなかったが、それくらいの勢いで思い切り頭を叩かれた。軽い冗談だったのに……。


「って頭いてえええええええ、すまんすまんすまん悪気はなかったんだ!」


 フリッカを怒らせるとこの奇妙な頭痛に襲われる羽目になるということをついうっかり失念していた。そんな俺を、スティーブとオリバーは心配そうな面持ちで見ていた。まあ、確かに周りからすれば俺の姿は頭を叩かれてそれを痛がっているようにしか見えないな。


「まったく……調子に乗らないで欲しいわね。ほら、さっさと付いてきなさい」


 許してくれたのか、頭痛が急に和らぐ。俺は安堵のため息をついた。


「ふぅ……いや、悪いけど先約があるんだ。俺と一緒に実技試験を受けた奴らなんだけど、せっかくだから親交を深めようってことでね」



 よく考えたらフリッカのことを忘れて先に約束を取り付けてしまった。ちょっと申し訳ないな。


「いや、別にそいつも一緒に来ればいいだけじゃねえの? オレは構わねえぜ。寧ろ可愛い子と一緒に飯が食えるならラッキーって感じだ」


「僕も全然気にしないよ」


 なんて良い奴らなんだ。って言っても、別に俺達三人はまだそこまで仲が良いってわけでもないし、一人増えようが二人増えようがあまり関係ないっていうのも事実だ。


「いや、騙されちゃダメだスティーブ。こいつは確かに可愛い顔をしてるが、実際はかなりの性格破綻者っ――ぬおおおおおおおお、また頭痛がああああああ」


 学習しないことに定評のある俺は、またついうっかり地雷を踏んでしまった。決してイジメられるのが好きな変態というわけではない。ただ人より少しばかり物忘れしやすいだけなのだ。


「どうしたのリョーヘイ、何だか今日は具合が悪そうね。――フレデリカ・ヘムロック、フリッカでいいわ。この馬鹿の飼い主よ。決して恋人なんかじゃないから、勘違いしないでちょうだいね」


 飼い主って……確かに事実だけど、その言い方だと変な意味に捉えられかねないぞ。


「ああ、こいつ使用人なのか。ってことはフリッカは貴族か? オレはスティーブ・アデル、爵位は子爵だ」


「いえ、あいにくだけれど私は一介の庶民よ。この馬鹿は身寄りもないしどうしようもなく馬鹿だけれど、実力はあるから仕方なく面倒を見てあげてるの」


 酷い言われようだが、まあ本当のことを話すわけにもいかないししょうがないか。しかし、俺は断じて馬鹿ではない。少々物忘れが過ぎるだけで、物事の飲み込みは人よりも早い方だ。

 というかスティーブは貴族だそうだが、彼相手に普通にタメ口きいてていいのだろうかと疑問に思ったが、あとでフリッカ聞いてみたところ、学園に通う者や冒険者同士という場では互いに対等の立場で話さないと、寧ろ無礼にあたるのだとか。何とも不思議なルールがあるものだ。


 オリバーが続いて自己紹介をしたあと、この場所ではなんだしと俺たちは学食へと向かった。

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