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第三話「魔法が便利過ぎてビビる」

 フリッカの住んでいたボロ小屋は、アイコール王国の王都からそう遠くない場所に位置していた。とはいっても、普段なら人がめったに近寄らないような山奥にあるので、ちょっとした隠れ家みたいな感じになっているのだ。しかし、弊害として山を下る途中は数々の魔物と遭遇した。



「こんなただの魔級でも、戦闘力を持たない一般人にしたら十分脅威になりえるの」


 フリッカは現れる魔物を適当に火の魔術でいなしながら、ぐんぐんと木々を潜り抜け山を下っていく。動きづらそうな分厚い黒ローブを羽織っている割に、彼女の機動力はかなりのものだった。見かけによらず結構体力があるようだ。俺も生前部活で鍛えていたとはいえ、結構きつい。


「意外と体力あるんだな」


「馬鹿ね、なんのために魔法があると思ってるのよ」


あ、そうか。別に魔法は戦闘にしか使えないわけじゃない。俺は自分が身軽な動きで前へ進む姿をイメージする。上手くいったようで、まったく体力を消費しなくなった。


「こりゃすごい。これがあればなんでもできるな」


「使いすぎて魔力切れ起こさないように。……まあ、私たちくらいにもなると余程無駄遣いしなければそんなことにはならないけど」


 そんなふうに話をしながらでも、物凄い勢いで山を下ることができる。これなら、やはり自力で秘境を探したほうがいいと思うのだが、彼女の話を聞く限りだと俺の想像している以上にこの世界は広いらしい。そのうえ、転移魔法みたいな便利なものは存在していないという。







 自分たち以外の人間が暮らす場所に訪れるのは、この世界に来てからは初めてだった。見たところ、文明的には現代日本とは比べ物にならないくらい遅れている。

 道は舗装されていないが、日々大勢の人間に踏まれている地面はとても固い。こんだけ固い地面だと、随分と水はけが悪そうだ。


 俺は建物の方にも目をやる。レンガ造りの家が目立つが、木製の家も少なからず建っている。


 じゃあ人間はどうだと往来を見たところ、やはり西洋人風の顔立ちの人が多いが、中には俺と同じようにアジア人風の顔立ちの人もいる。


「ここは世界の中心のアイコール王国の更に中心部の王都だから、必然的にいろんな国から来た人々が集まるのよ」


「ふうん。それにしても、魔法がある世界の割には随分と地味だな」


 もっと近未来的な世界を想像していたが、実際は歴史の教科書なんかで見たことがあるような景色が待ち受けていた。

 世界の中心でこれだから、これ以上文明が発達した地域の存在は期待できなさそうだ。


 ちなみに、往来で無闇に魔法をぶっ放すと、ギルド所属の警備兵にとっちめられるらしい。

 俺たちぐらいに強ければ警備兵も倒せなくはなさそうだけど、別にわざわざそんなことする意味もないし、おとなしくしてるのが得策だろう。



「さて、まずは武器ね。加工屋はギルドに登録してなきゃ利用できないから、武具屋で出来上がりのものを買うわよ」


「あの薙刀じゃダメだったのか? 確かに少し古びてたけど、なかなかいい感じだったぞ」


「ナギナタ……ああ、グレイブのこと? あれでも悪くはないけど、見たところあなたにはもっと適正な武器がありそうだわ」


 例えばこれとか、と言ってフリッカはふらっと立ち寄った武具屋の中に置かれている、バカデカい両手剣を指さした。その大きさは半端じゃなく、俺の首から下ぐらいの長さと、俺の胴体ぐらいの幅を持ち、その刀身は一番分厚いところで俺の握りこぶしぐらいの太さを持っている。


「さすがにでかすぎじゃね!? こんなの扱える気がしないんだが……」


「そんなことないわ。魔法を使えば思ったより軽く感じるものよ」


 便利だな、魔法とやらは。俺は両手剣を手に取る。彼女の言う通り、存外やすやすと持ち上げることができる。


「あんちゃん、危ないから中では振り回すなよ」


 店主に注意されたので、俺は慌てて剣を下した。


「どう? このバスタードソード、値段も手頃だし性能もそこそこよ。どうせ武器なんて後でいくらでも新調できるし、とりあえずはこれでいいんじゃないかしら?」


「お、おう。まあ俺は何でもいいよ」



 俺の言葉にフリッカは無言で頷き、店主に銀貨を2枚差し出した。この世界の物価は地域によってもまちまちだそうだが、この国では銅貨一枚でパン一つを買え、金貨は銀貨の100倍の価値、銀貨は銅貨の100倍の価値という風になっているという。つまり、この剣はパン200個分の価値のある剣ということだ。



「確かにパン200個どころか、1000個分くらいのパワーは余裕でありそうだな、この剣」


「何くだらないこと言ってるのよ。魔力加工されてない剣じゃ、切れても魔級程度の雑魚くらいよ。上魔級より強い魔物には傷一つつけられないわ」



 こんなに物騒な武器でも傷一つつけられないとは、上魔級の魔物恐るべし。この世界では戦闘力も大事だが、それ以上に装備も重視されるそうだ。なるほど、確かに直で秘境を見つけるにもいかないわけだ。



フリッカはローブの懐をガサガサと漁ると、中から銀色の指輪と腕輪のようなものを、一つずつ取り出した。



「こっちに剣の柄を向けてもらえるかしら」


 俺が言われた通りにすると、フリッカはその腕輪のようなものを剣の柄に通した。そのまま握りの部分をくぐらせ、(つば)の部分まで移動させる。彼女が何やら短い詠唱のようなものを終えると、若干緩かった輪っかがギュッと締まり鍔の近くで固定された。


「なんだこれ、邪魔じゃね?」


「この指輪を着けてれば、イメージで納刀抜刀自在よ。私のおじいち……師匠の形見だから大切にしてちょうだいね。そんなに沢山は残ってないから」



 俺は指輪を右手の人差し指にはめ、剣がその指輪にしまい込まれる様子をイメージする。剣と指輪が少し発光したかと思うと、剣は跡形もなく消えた。今度は逆に剣が手の中に現れる様子をイメージすると、その通りになった。


 フリッカは見たところ指輪をつけている様子はないが、彼女の武器は杖のようだし、きっとあのなんでも出てくるローブの中にあるのだろう。


「こりゃ凄い。ありがとな」


 俺が礼を言って彼女の頭を撫でると、使い魔のくせに生意気よ、と一蹴されてしまった。ちょっとは照れる様子でも見せてくれると思ったのに、微塵もそんな素振りを見せない。……残念だ。

 よくやるゲームの主人公達の真似を冗談のつもりでしてみたのだが、どうにも俺には似合わないので今後はもうすることはないだろう。結構傷ついたし……。




「さ、このままさっさと冒険者養成学校まで向かいましょう」


 フリッカはそう言って、ちょっと落ち込んでる俺のことなどお構いなしに歩き始めてしまった。









 冒険者養成学校は、日本の学校とはかけ離れた姿をしていて、どちらかといえば欧州の大学に似たような建物だった。王都の中でも中心部に位置するこの学校は、莫大な学費がかかるだけあってしっかりとした設備が整っている。しかし、生徒の数は思っていたより少ない。


 金がかかるということは、貴族の子女が多いのだろうか。俺たちのようなどこにでもいそうな庶民の服と違って、気品のある身なりをしている生徒が多いように感じる。

 一番目にするのはやはり俺と同じくらいの生徒だが、俺より遥かに年上の生徒も少なくない。金さえ払えば年齢は関係なく入学できるそうなのだ。


「わざわざ高い金を払って冒険者になるってことは、報酬目当てで目指してるってわけじゃなさそうだな」


「冒険者登録っていうのは、社会的に物凄い信用度を持つの。貴族であったら最低でも強級冒険者程度の肩書は持ってないと、周りに示しがつかないのよ」



 なるほど、つまりは金にものを言わせて名誉を買うってことか。しかし、冒険者というのは危険な仕事な気がするが、貴族の子女というのは命知らずが多いのだろうか。


「強級くらいまでなら、簡単な依頼だけでも数さえこなせば、時間はかかるとはいえ確実に上がれるのよ。中には志が高い生徒もいるそうだけれどね」


「お前、やけに詳しいな。あんなボロ小屋に引きこもってるから、世間知らずなのかと思った」


「私のおじいちゃ……師匠は、そういうことも含めていろいろなことを教えてくれたわ。少なくとも、どこかに出掛けて行ったときに常識知らずなことをして恥をかくことがないように、ってね」



 そう言いながらフリッカは、学内案内図のほうへ向かう。どうすれば特別生になれる試験を受けられるのかは分からないが、きっと彼女がなんとかしてくれるだろう。



「っていうか、ここの学校っていつでも入学できるのか?」


「そこは問題ないわ。しっかりと入学時期に合わせてあなたを召喚したから」



 つまりまだ今期の授業は開始しておらず、今は日本の学校でいうところの春休み期間に相当するってことか。そういうことなら、生徒の数が少ないことにも合点がいく。


「どうやらあそこで手続きするみたいね」



 フリッカはそう言って、足早に駆けて行ってしまった。俺も慌てて後を追う。



「すいません、特別性枠入試ってまだ受験できますか?」


「はい、受験は入学式前日まで執り行われております。合否はその場で出ますので、こちらの書類を記入のうえ、あちらの会場受付のほうへお持ち寄りください」



 そう言って事務員らしき男性が、フリッカに対して二枚の羊皮紙を手渡した。フリッカは懐から羽根ペンを取り出すと、備え付けのインクを使って何やら記入し始めた。


「何を書かされるんだ?」


「名前と年齢、受験希望学科よ。名前はフルネームじゃなくてもいいようね」



 随分とあっさりしている。やろうと思えばいくらでも身分偽装できそうだが、よくよく考えたら偽装するメリットも存在しないか。まだこの段階では受験するだけだし、実力があれば受かって、なければ落ちるだけのものに正確な身分証明など必要ないのだろう。受かってから入学権利だけ売るとかもできそうだけど、権利を貰ったところで実力が伴っていなければ即退学だそうだし。


「学科って、どんなのがあるんだ?」


「近接戦闘学科、遠距離武器学科、具象魔法学科の三つね。各学科にはいくつもの専攻があるのだけれど、それは入試の結果を見て決めるそうよ。私は実力を調整して攻撃魔術専攻に受かる必要があるけど、あなたに関しては適当にやってもらって構わないわ。ある程度の制限魔法をかけて、必要以上の実力は出ないようにしておくから」



 どんな試験が出るかは不明だが、全力でやればなんとかなるという。まあ、入学式前日までは何度も受けられるそうだから、そこまで気負う必要はなさそうだ。


「で、俺たちはいつ試験を受けるんだ?」


「は? どう見たって今からに決まってるでしょう」



 なんとも急すぎる展開に俺の頭が事態についていけてないような気がしたが、とりあえず全力で頑張るしかなさそうだ。

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