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第十六話「一石二鳥」

 ギル達とのやり取りから数日後、俺達は結局クリキシアへ向かうことに決めた。旅支度をしている際、フリッカが俺達にこれからの大まかな動きを伝える。



「ギルド運営の馬車を使えば、アイコールの西端まではそう時間をかけずに辿り着けるわ。ただ、そこから先が問題なの」



 その問題というのは、ギルドとアイコールの勢力情報に関係するものであった。冒険者ギルドとアイコール王国は敵対関係ではなく、むしろアイコール国内においては限りなく中立的な関係でありながら一部協力体制もとっている。


 しかし、それも国内においてのみだ。完全な敵対関係ではなくとも、アイコール王国と冒険者ギルドの勢力図というのはしっかり存在している。

 

 具体的に言えば、互いの勢力が均衡であるアイコールを境として、西側の地域はアイコールの勢力が強く、東側の地域はギルドの勢力が強いのだ。そして、俺達冒険者はアイコール出身であっても冒険者ギルドの傘下に入っているという複雑な状況に置かれている。


 冒険者というのは魔物の脅威から各地を守るという役割を担っているために、一応アイコール王国としても冒険者を反故にするようなことはしない。

 しかし、それは世界の存亡を脅かす魔物の討伐依頼を主に遂行する強級以上の冒険者に限って、だ。貴族が強級冒険者の称号を手にするのはここからきており、ギルドとアイコールの両面において庇護を得ることができるという大きなメリットが存在しているのだ。


 つい先日、例の依頼の達成とともに上級冒険者に昇格した俺達だが、残念ながらこのランクではアイコール勢力下においては冒険者という肩書きは数々のデメリットを孕んでしまう。



「クリキシアの国境を越えたら、ギルド運営の馬車は強級以上の冒険者しか利用できないの。クリキシアにはアイコール勢力運営の馬車も通っているのだけれど、料金が馬鹿にならないうえに停車箇所が多すぎて下手したら徒歩より時間がかかるわ」



 感覚的には路線バスに近いようだ。国境から王都のシントヒミアまで、シントヒミアからラウム村まで、という距離をすべて馬車で移動してしまうと、大体一人あたり金貨一枚と銀貨が三枚ほどかかってしまうのだという。上級冒険者なりたての俺達には少々厳しい額だ。


 スティーブに頼るという手もなくはないが、こういった少し時間をかければ何とかできるような場面まで彼の金で解決するのは得策ではないだろう。



「もちろん所々では馬車も利用するつもりだけれど、基本的にクリキシアに入ったら主な移動手段は徒歩よ」



 クリキシアに入ってからラウム村に着くまで効率的に馬車を使い休まず歩いておよそ十五日ほど。余裕を持って移動することを考えれば二十日くらいに見積もっておくといいとのことだった。


俺は最初魔法で爆速で走ればいいのではないかと提案したが、ぶっ通しで走っていたら魔力があっという間に枯渇して気を失うだけでなく、あたりの通行人に激突して殺してしまう可能性があるだけに使える場所は限られているという理由で却下された。




「思ってたよりも時間かからねえんだな。どうしても長くなるならオレが金を出そうと思ったんだが、それくらいならなんとかなりそうか」


「徒歩では時間がかかりそうな場所かつ足の速い馬が使われている場所は馬車を使うから、距離の割には早く着くと思うわ」



 隣国の一つの村に二十日もかけて着いて、それが早いと言われる感覚には未だに慣れない。この世界の馬車は速いものでは普通に一般道を走る車に劣らない速度で走っている。そんな移動手段があっても隣の国に十日以上もかけなくてはたどり着けないという事実が、改めてこの世界の広さを実感させてくれる。



「なるほどねぇ、さっき受けた高難度依頼は遠出のついでに道中でこなすって訳かぁ」



 ルリの言葉にフリッカが頷いた。



 強魔級『トラソルテオトル』の討伐。ギルド本部直接提示の複数パーティ同時討伐依頼という、この依頼を受けたパーティのどれかがその魔物を討伐すれば達成となる依頼だ。


 報酬は受けたパーティにそれぞれ均等に割り振られるため、受けるだけ受けて放置しているパーティも珍しくない。一応受けておくだけでも得があるし、達成したパーティは普段よりもより多くの割合で素材を確保できるため、討伐に積極的なパーティもメリットを得られるようになっている。


 そして、複数パーティでの協力も可能なために高難度でありながら上級冒険者でも受注できるのが一番大きな特徴だろう。



「トラソルテオトルの出現地域はクリキシア北東部のクリキシア大高原だそうよ。運が良ければ遭遇、討伐できるかもしれないわね」



 今のところ人里に積極的に赴くことはないために危険度はそれほど高く設定されていないが、万が一に備えてこうしてギルドが討伐対象として指定しているのだ。


 トラソルテオトルは自ら人前に出向くことはしないために目撃例が少なく、例え遭遇してもこちらから攻撃を加えない限りは基本的に襲撃されることはないのだそうだ。

 そして、もし何らかの原因でトラソルテオトルを刺激してしまった場合でも、こちらが逃げる意志を見せれば決してしつこく追うようなことはしないので、遭遇して勝てなさそうであれば退避するという選択をとれる。この同ランク帯では比較的安全な魔物であるのも、上級冒険者も討伐に参加できる所以(ゆえん)であろう。


 とはいえ、強魔級の魔物であることに変わりはなく、戦闘力でいえばあのアルマロスも凌駕するであろうことが予想される。運良く遭遇できたとしても油断は禁物だ。



「とりあえず準備は整ったみてえだし、さっさと出発しようぜ」



 スティーブの言う通り粗方の旅支度が整ったので、俺達はとりあえずの目的地であるクリキシア国境関所まで馬車で向かうことにした。

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