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第十四話「依頼者」

 トゥルエルの討伐達成後、数日かけて再び王都に戻った俺達は、ギルド本部の喫茶エリアにて受付から呼ばれるのを待っていた。



「フリッカさんとその同行者さん達ですね。ただいま依頼者のもとへ伺いますので、私の後に続いてください」



 まもなく制服に身を包んだ受付嬢が現れ、俺達を例の依頼者のいる依頼者待合室へと案内してくれた。ギルド本部の建物は、王都の中でも王城の次に大きいため、こういった時々しか使われないような部屋が沢山存在している。生前でも、ここまで広い建物は入ったことがない。


 しばらく歩いたところにあった、一つの部屋の前で受付嬢が立ち止まる。そして、その扉を軽くノックした。中から低く太い男性の声で、入ってよいとの旨が告げられる。受付嬢に仕草で中に入るよう合図され、フリッカが扉に手をかけた。




 扉を開けると、中はまるで応接室のようになっており、一つのテーブルを囲んでいくつもの椅子が用意されていた。



 奥にある二つの椅子に座るのは、坊主頭で黒い眼帯を右目につけた屈強な高齢男性と、長い白髪と鼠色のローブが特徴の華奢な中年女性だった。女性の方は完全に目が見えないようで、歩行を補助するためであろう木製のステッキを手にしていた。


 

「それでは失礼します」


 その一言とともに、受付嬢は外に出て扉を閉めた。男性が俺達に座るよう促したので、素直に従い彼らの正面の椅子に四人で腰かけた。



「どうも、ワシが今回の依頼者のギルだ。で、こっちは妻のヘレン」


 二人は軽くお辞儀をすると、俺達に向けて名刺サイズの木片を提示した。それを見ていたフリッカが、俺達も冒険者証を出すように指示した。



「お二方とも冒険者なんですね」



 俺は二人が差し出したものが冒険者証であることに気付き、そう呟いた。彼らの冒険者証にはギルバートとヘレンという彼らの名乗った名前に加えて、驚くことに王級冒険者という文字が刻んであった。俺と同時にそれを見たルリも、思わず嘆息した。


 王級冒険者ほどの実力者がなぜ自ら依頼人となったのかはまだ謎だが、きっと何か深い訳があるのだろう。



 その時、俺とルリに遅れて二人の冒険者証を確認したフリッカとスティーブが驚いた様子で目を見開いた。



「もしかして、私の師匠――ジョエル・ヘムロックの旧友のギルバートさんですか?」


「間違いねえ、この人は『空舞双刃(エア・デュアル)』ギルバートさんだ」



 フリッカもスティーブも何やら感情の昂ぶりを見せているが、事情を知らない俺とルリはその場で困惑するしかない。ギルバートは二人の言葉に豪快に高笑いした。



「いかにも、ワシが『空舞双刃』だ。そこのお嬢さん――フレデリカの言う通り、昔に一時期だけジョーさんとパーティを組んでたこともある」


 

「オレも二刀使いなんです。ギルバートさんの数々の偉業に憧れて冒険者になったスティーブです、よろしくお願いします」



 よく分からないが、このギルバートという男性はフリッカの師匠の知り合いであり、さらに一部では有名な冒険者でもあるようだ。



「おいフリッカ、お前の師匠って昔冒険者だったのか?」


 俺の問いに彼女は頷いた。



「『奇跡の天才(ギフテッド・ジョー)』って二つ名、耳にしたことない?」


 フリッカが説明するよりも先に、ヘレンと名乗る女性が口を開いた。俺は無言で首を振る。



「まあ、ワシらがまだお前さんたちくらいの頃の時代だからなあ、ジョーさんが名を馳せたのは。知らなくても無理はない」


 そう言いながら、またもギルバートは豪快に笑う。随分と笑い上戸な人間だ。



「オレはもちろん聞いたことありますよ。っつーかフリッカ、あのジョーさんの弟子なのか? 道理ですげえ魔法使いなわけだ」


「ルリもそれくらいは知ってるよぉ。『伝説の召喚者(レジェンドサモナー)』以外で唯一魔法使いで聖クラス認定された人でしょ? でも、なぜか若くして姿をくらませたって聞いたなぁ」



 なるほど、知らないのはどうやら俺だけのようだ。フリッカは一言も話したことがなかったが、どうやら彼女は随分と凄い師匠のもとで魔法を学んだらしい。



「リョーヘイは私が召喚した使い魔なんです。師匠の遺志を継いで幻獣の杖を作るために、彼の力を借りようと思って召喚しました」



 その言葉に、ギルとヘレンは首を傾げた。どうやら、俺が使い魔であるということが信じられないようだ。それを察したかのように、フリッカは例の使役の刻印を彼女と俺の額に表示させた。

 目の見えないヘレンに、ギルが刻印のことを告げている。それを聞き、ヘレンもすんなりと信じてくれた。



「なるほどなぁ、さすがはジョーさんの直弟子だ。お前さん達からしたら、トゥルエルの討伐ごときじゃ赤子の手をひねるようなもんだったろう」


「リョーヘイは両手剣使いでトゥルエルに対して苦手武器だったので、今回直接手を下したのは私とルリでした。しかし、彼の神魔級使い魔としての強さは本物です。正直、私の今の魔力レベルではとても彼を十分に活かしきれないほどに」


 活かしきれない、とはどういうことだろう。俺の力は普段何もしなければ強魔級まで制限がかけられているそうなのだが、それが関係しているのだろうか。



「ほう……。まあ、お前さん達が本当に幻獣討伐を志していることが分かった」



 スティーブとルリはそうでもなさそうだが、細かいことはいいだろう。



「それじゃあ、そろそろ何でワシらがあんな依頼を出したのかを話そうか」



 ギルは先ほどまでとは打って変わった真剣な表情になり、本題に入ろうという意志を態度で示した。

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