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第十三話「上魔級『トゥルエル』」

 無印級で受けられる依頼には、ある一つの共通点がある。それは難易度が低いものであるという曖昧なものではない。現に俺達は無印級冒険者にも関わらず上魔級の魔物を討伐する依頼を受けている。


 共通点というのは、それらを遂行する場所が確実にアイコール王国内であるということだ。国外に生息する魔物や、国内に生息していても国を跨いで生活している魔物を討伐する依頼は、すべて上級以上の冒険者向けの依頼になる。物資配達やその護衛の依頼なども、国を跨ぐというだけでどれだけ簡単に思われる依頼も全て上級以上の依頼になる。

 これには上級冒険者以上の冒険者証の身分証明における信用度が大きく関係しているらしいのだが、詳しい理由は公にされていない。





――というわけで、俺達がこれから討伐する上魔級「トゥルエル」も、アイコール王都から見て南西に位置するアイコール巨大森林に生息しているとのことだった。


 俺達は近辺の村までギルド運営の馬車を乗り継いで二日かけて移動し――もちろんそれなりの金がかかる――、そこからは徒歩で森へとやってきた。


 基本的に依頼が一日で終わるケースというのは稀で、簡単な探し物や採集の依頼などでも二日から三日、魔物討伐や物資配達やその護衛となれば何日どころか何週間何か月とかかる場合もある。




「トゥルエルってのはどんな魔物なんだ?」


 俺は前を歩くフリッカの背中を見つめながら、その質問を投げかけた。


「私も対峙したことはないから聞いた話になってしまうのだけれど、縄張り意識が強い魔物だそうよ。気性が荒くて、視界に入る人間を積極的に攻撃してくるから、人々からはかなり恐れられているわ」


「オレが聞いた話によると、トゥルエルは上魔級のなかでは比較的危険度は低いらしいな。魔級程度の力だが、他の魔物よりもこっちを敵視する具合が半端じゃねえから上魔級認定されているらしい」



 スティーブも続けて説明してくれる。二人の話を聞く限りだとどうやら見た目や習性はヒグマに近いような魔物のようだが、実際はそれよりもより危険性は高そうで、稀に魔法攻撃も仕掛けてくるのだという。




「どこら辺にいるんだろうねぇ。そろそろ暗くなるし、早いとこ見つけ出したいなぁ」


「確かにもうこれ以上この森で野宿したくねえな。ここは虫が多すぎて、昨日だって寝てる間に体中刺されまくって今でも痒い」


 スティーブが思い出したように腕や腹を掻き毟る。それを見ていると、同じく体中虫刺されだらけだった俺も体を掻き毟りたくなってくる。しかし、俺はなんとか耐える。



「スティーブ、こういうのは我慢した方が治りが早いんだぞ」


「治り云々より今痒いのをどうにかすることが先だろ。っつーかよ、フリッカの治癒魔法で解毒すれば……」



 言いかけたスティーブを、フリッカが仕草で静止させる。彼女の様子から、俺達は近くに敵がいることを察した。




「ほら、あそこ。見える?」



 フリッカが木陰の奥の少し開けた場所を指さした。俺達は息を潜めてそちらの方へ目を凝らした。



 そこには、地面に体をうずめてすやすやと眠るトゥルエルの姿があった。話の通り熊そっくりの見た目をしており、その大きさは人間の背丈の二倍はあると思われた。体中が赤黒い剛毛で覆われており、まるで返り血を浴びたような姿をしている、



「妙な動きをされても困るし、寝首を掻くことにしましょう。リョーヘイ、頼んだわ」



 おっと、フリッカ直々のご指名である。実際、この程度の魔物であれば四人でなくとも俺一人で十分なような気もしたが、この前のアルマロスの件もあるので油断は禁物だ。


 俺は銀の指輪からバスタードソードを抜刀した。そして、魔物の首に一太刀振り下ろすさまをイメージする。



「――はぁっ!」



 地面を蹴り、トゥルエルの意識がこちらを向く暇も与えず大剣を振り下ろす。その刃はしっかりと魔物の首をとらえた。



――はずだった。



「――なっ!」



 激しい衝撃音が鳴り響き、トゥルエルが目を覚ました。俺の振り下ろした剣は、ヤツの体毛に完全に弾かれてしまっていた。




「グルァァァァァァァァァァァァァ!」


 

 トゥルエルの目が怒りで血走る。俺は何が起こったか分からなかったが、とっさにヤツの引っ掻き攻撃を回避した。



「手加減なしだったぞ、なんで効かないんだ!? フリッカ、俺の制限レベルは?」



「標準状態だから、強魔級よ。でも、神魔級に引き上げても大してダメージは通らないわ。あいつは異常な切断耐性があるみたいだもの」


「それは厄介だねぇ。じゃあ、ルリの出番かな」



 そういいながら、ルリが例の鉄槌を取り出した。俺はあえてルリの方へ走り、トゥルエルを彼女の方へおびき寄せる。




「ていっ!」


「プギィッ!」



 顔面を思い切り殴打されたトゥルエルが悲鳴をあげて倒れ込んだ。そこへ、フリッカが無情に火の攻撃魔術を打ち込んだ。




「切断攻撃が通らない代わりに打撃攻撃や魔法攻撃にはめっぽう弱いみたいね。他の上魔級だったらこうはいかないわ」



 黒焦げになったトゥルエルを見下ろしながら、フリッカはそう呟いた。



「へえ、そんな特性がある魔物もいるのか」


「オレも知らなかったぜ」



 俺とスティーブの言葉に、ルリが呆れた顔をする。



「ええ……ちゃんと理論の講義で習ったよぉ。聞いてなかったのかなぁ?」


「うっ……。理論の講義はなんか退屈でいつも寝てた気がする……」


「オレはあんまり講義には出てなかったからな」



 フリッカがため息をついた。



「そんなのでよく卒業できたわね……本当あの学園はざるね。――まあいいわ、とりあえず近隣の村のギルド簡易事務所に依頼達成の報告に行きましょう」



 そうして、俺達は以前とは違い上魔級の魔物をあっけなく倒し、その場から立ち去るのであった。

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