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第十二話「二つ名、そして奇妙な依頼」

 俺達が冒険者デビューを果たしてから早くも一週間経ち、ギルドでの依頼を淡々とこなす作業にもようやく慣れてきた頃だった。




「なあ。あれ、もしかしてあの戦場の天使エンジェル・フレデリカじゃないか?」


「ん? ああ、本当だ。――おい、俺達も仲間に加えてくれよ」



 そのようなセリフを口にしながら、いつものように依頼を受注しようとする俺達の行く手を阻む者たちがいた。



「戦場の天使? フリッカ、お前はいつの間にそんな名を名乗り始めたんだ?」


「そんなもの名乗った覚えないわよ。――ちょっとあなたたち、そこに立ってると受付けの邪魔よ」


 俺の質問への返答もそこそこに、フリッカは前に立ちふさがる男たちを軽くあしらう。



「フリッカの積極的な治癒活動のおかげで、あの危険な依頼でもほとんど死者がでなかったからな。あんときの卒業生からはちょっとした救世主みたいに扱われてるんだってよ」


 スティーブが納得のいく説明をしてくれた。確かに、あの時フリッカは攻撃にはあまり参加せず、味方へ治癒魔法をかけることに専念していた。きっと危ないところを助けてもらった人達が色々と噂を流しているのだろう。

 そして、それを聞きつけた冒険者がパーティに同行を希望した、というわけだ。



「あれ、もしかしてあれって……」


「間違いありません、朱殷の守護者ブラッディ・ガーディアンですよ。どうしよう、私も仲間に入れてもらおうかな……」



 瞬間、フリッカが噴き出した。俺は驚いて思わず彼女の顔を見る。



「急にどうした?」


「い、いや。あなたにも変な二つ名がついているものだから、つい……」



 もしかしなくても、朱殷の守護者とは俺のことか。確かに、俺の着ているコートの色は、もとは真っ白だったのがアルマロスの返り血ですっかり赤黒くなってしまっている。お気に入りのコートだったのだが、洗っても色が落ちないのでそのまま着ているのを見てつけられた名前だろう。

 俺が鋼鉄の身体(スティールボディ)でアルマロスの攻撃を防いだところからきてるのだろうが、あまりにも安直なネーミングセンスだ。


「なんか嫌だな。果てしなくダサいというかなんというか」


「ええ、いいじゃん。こんな時期にもう二つ名持ちだなんて、将来有望だよぉ」


 ルリが言うには、目立った功績を遺した冒険者は他の冒険者からそういった二つ名で呼ばれるようになることがあり、中には広く知られた二つ名を決められた数以上持っている者だけが利用できる武具屋や情報屋、宿屋などもあるそうだ。


 他にもいくつも有名な二つ名を持っていると、重要で危険だが高報酬な依頼をギルドから直接持ちかけられることもあるのだという。



「でもさ、最初は地味な依頼からこなすんだろ? 『落とし物探しをする朱殷の守護者』とか『薬草を採ってくる戦場の天使』って、想像するとなんか滑稽すぎないか」


「まあまあ、最初だけだよ。ルリとスティーブなんか何もないんだから。ね?」


「いや、オレは既に高貴な雄弁家(ノーブル・オレイター)っつう二つ名がついてるらしい」


「なんで!? ルリだけ何もないの!?」



 というかもはや戦闘関係ない二つ名っぽいのだが、それでいいのかスティーブは。なんにせよ、二つ名はつけばつくほどお得なもののように思えるし、呼ばれるだけ呼ばれておいた方がよさそうだった。




「……ん? 何だか随分と奇妙な依頼があるわね」



 騒ぐ俺達をよそに依頼をまとめた冊子を眺めていたフリッカが、突然気にかかる独り言を発した。



「奇妙な依頼?」


「ええ」


 彼女は一つの依頼案件を俺達に示した。スティーブがそこに書いてある内容を読み上げる。


「依頼対象は『ランク不問、幻獣討伐を本気で志す者』――この時点でかなり怪しい雰囲気だな。依頼内容が『上魔級トゥルエルの討伐』で、報酬が『幻獣討伐を志す者への有意義な情報』と。これは冷やかしの類じゃねえか? 依頼主も達成後開示ってなってるしよ」



 スティーブの言い分ももっともだが、この依頼には色々と気にかかる点がある。まず、「ランク不問、幻獣討伐を本気で志す者」というあまりにも俺達にピンポイントな依頼対象。これに関しては、俺達の話をどこかで聞きつけた者が何らかの理由で俺達を呼び寄せたいということなのだろうか。



「報酬内容がちょっと胡散臭すぎない? ルリは受けないほうがいいと思うけどなぁ、これ」



 俺もルリの言い分に賛成だと言うつもりでフリッカを見ると、彼女は何やら神妙な顔つきでぶつぶつと呟いている。



「これは……もしかしておじいちゃんの……でも、だったら何で……」


「なあ、何か心当たりでもあるのか?」



 とうとう黙り込んでしまった彼女に、俺は問いかける。



「ええ、ちょっとね。ただ、確信が持てないの。私達を陥れる罠だという可能性も全く否定できないし……」



 幻獣討伐に関する有意義な情報とやらが本当に得られるならば、確かにこの依頼は俺達にとってまたとないチャンスだ。しかし、それが信頼できるものであるかどうかは俺達には判断できないし、下手をすれば詐欺のようなものかもしれない。


 そもそも、ギルドで受注できる依頼の信用度とはどれほどのものなのだろうか。



「もちろん、ギルドの規則で報酬の受け渡しは保障されるから、何かしらの情報は受け渡されると思うわ。ただ、それが本当かどうかは確かめようがないし、それが原因で私達の目標に支障がでるかもしれない」


「でもよ、その依頼を達成すればそろそろ上級冒険者に上がれるんじゃねえか?」



 スティーブの言う通り、俺達はここ数日で怒涛の数の依頼をこなしてきた。そのうえで上魔級の魔物の討伐というこの依頼を達成できれば、まず間違いなく上級冒険者の仲間入りだろう。



「スティーブの言う通り、上級冒険者に上がるのを本願として、幻獣の情報はおまけ程度に考えて受けてみればいいんじゃないか?」


「そうね……でも、上魔級の魔物となればそれなりの報酬が欲しいくらいには危険な相手よ」



 明確な報酬が記載されていない以上、それらの危険に見合うだけの対価が得られるかどうかは定かではない。



「――とはいえ、無印級のうちに受けられる高難度な依頼なんてそんなにないものだし、その点だけ見ても受ける価値はあるかもしれないわね」


「よし、じゃあそうと決まったらさっそく受注だねぇ!」




 ルリの掛け声と共に、俺達はその怪しい依頼を受けることに決めたのだった。

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