〔第一部〕家族のお話
メルハート公爵は名ばかり公爵と呼ばれていた。
一応、王族として産まれたが、体が弱いのを機に王族から拝命と領を貰い、さっさと貴族社会から離れたことに由来する。
そして、領土も四方山に囲まれ、緑が豊かなだけで何も役に立たない領地をもらったことから、メルハート公爵はますます、貴族から敬遠されるようになった。
貴族とは自分の役に立つのにはとことん群がるが、役に立たないものにはとことん離れていくものなのである。
では当人、メルハート公爵、もしくは家族はどうかと言うと、全く持って世の中の動向や流れなど気にせず、日がな一日のんびりまったりと生活をしていた。
だが、そんなのんびりまったり生活にも、今日はやけに上から下から左から右へとてんやわんやの騒ぎを繰り広げていた…家主を尻目にだが。
「おぎゃああああっっっ」
屋敷中に元気な赤ちゃんの声が響いた。
「おめでとうございます。男の子です」
メルハート公爵と家族はその子を見た時、ふと思い出した。
「あっ。」
「え?」
「嘘でしょ!」
「マジかー」
上からメルハート メンバードル公爵、ヴィリア公爵夫人、姉のミリウス、兄のネヴィスがそれぞれ、『日本語』でつぶやいた。
家族はそれぞれ四人顔を見合わして、驚く。
使用人たちは後ろでただ黙って産まれたばかりの赤子の世話をしている。
「ヴィリア、ミリウス、ネヴィス…お前たち」
メルハート公爵は夫人と子供達に『日本語』で話しかけた。
「あなた…どうやら私たち、全員転生者だったみたいですわね…」
ヴィリア公爵夫人は産まれたばかりで眠っている赤ん坊を見ながら、同じく『日本語』で話しかけた。
「あなた…名前をつけないといけませんわ」
「あっ…ああ。そうだな。」
公爵は夫人に言われたまま産まれたばかりの赤ん坊を見ながら名前をつけた。
「フィリス」にしよう。
家族はそのことを期にますます絆を深めていくことになる。
産まれてから100日を過ぎた後。
フィリスはヴィリアの腕に抱かれながら、メルハート公爵が話しているのを聞いた。
「せっかく、思い出した、前世の記憶を使って領地改革をしようと思う!うちらの記憶ではチートもなれず、俺TUEEEにもならないが、その記憶を具現化してくれる、優秀な部下たちがいる。これらを使って、ここから領地改革をしようではないか!」
公爵はバンと叩いた机から手をひらひらさせながら離した。
痛かったのだ。格好つけるよりも、痛さに負けたのだった。
「あのう、お父様」
「何だミリウス!」
「我が領地、四方山で作物育てにくい単なる使えない土地がほとんど使えないと思うのですが…」
「それに…」
「何だ、ネヴィス」
「うちの生活費ってほとんど王家の財源だよね…」
ミリウスとネヴィスは二人で顔を見合わしてから父親を見る。
今まで他力本願できたのに、今更領地改革って面倒くさくない⁇と言う顔だ。
「お前たち…仮にも領民がいて、領地がある以上、私たちはこの領土を守り発展させなければいけない。今までの方法だと、この地は発展せずに詰んでいただろう…だが、今は違う。私たちでもできるかもしれないのだ!
私はこれを機にやってみたいのだ。名ばかり公爵と言われ、役に立たない領土と言われ、お情けで王家の財源で生きているこの土地がどうなるか私は見てみたいのだ!」
「あなた…、わたくしは賛成ですわ。わたくしも、ずっと思っておりましたの、他にやることはあるかもしれないと…、でも、今までのわたくしたちには知識がありませんでした。ですが、今のわたくしたちならきっとできますわ…。『三人寄れば文殊の知恵』と言いますでしょ?それに、三人だけではないですわ。あなたの味方はわたくしたち、家族ですもの…」
ヴィリアはそう言っていつもの優しい微笑みを浮かべた。
子供達はネヴィス、ミリウス、フィリスはその姿を見て、力強くうなづいた。
フィリスの場合は「うあー」と言う声だったが、部屋に一気に温かいぬくもりが訪れた。
「よし、ではこれから領地改革を始めるとする」
メルハート公爵領、それは現在において、王都に次ぐ都市であり、最大の観光都市である。
四方を山に囲まれた場所に、全ての文化が集まると言われ、特に、ファッションとグルメは、王都よりも洗練されていると言われ、メルハート公爵領に本店があるココロシア ヴェルヌの服は女性たち永遠の憧れブランドであり、ココのブランドを始め、様々なメゾンが集まりかつ、様々な洗練されたスイーツがあることにより、女性たち憧れの都市である。
では、男性は楽しめないかというとそれ違う。
メルハート公爵領には様々なスパがあり、そこは男女混浴となっているため、若い男性には特に人気がある。一時期スパが社交上となり、スパ婚と言う社会現象を生み出した。
栄えたメルハート公爵領には家族の絆を重んじると言われ、世界の貴族のなかでも、メルハート家と婚姻を結ぶのは最大の幸福であり理想と言われて敬愛されている。
現在の辞書にメルハートと言う文字が入っている言葉には愛情表現が多いのもその一つでもある。
私が推測するに、メルハート公爵領が発展したのは、あの時期、フィリス様が生まれた時から由来すると思う。
そのときに、確実に何かがあったのだ。
だが、その何かは文献が残っておらず、わからず仕舞いだった。それが無念である。
〈メルハート発展史〉 シュブリエール著